元Appleの2人が企業したWeave Roboticsが話題になっている。散らかっている部屋をかいがいしく片づけるロボット「アイザック(Issac)」の発売にこぎつけたからだ。
家事ロボットは米中の開発競争が激しくなり、未来の話ではなくなっている。
アイザックの衝撃的な動画。掃除だけ、配膳だけ、ではなく多彩な家事を1台でこなす
XやTikTokの登場により、まったく無名のコンテンツクリエイターが一夜にして有名になるという現象が起きるようになったが、それは企業も同じようだ。Weave Roboticsは、今年5月29日に1分16秒の動画をXに投稿した。これが50万回以上も再生されるだけでなく、さまざまなメディアがこのスタートアップ企業を取り上げている。
この映像は家事ロボット・アイザックの挙動を撮影したものだ。これまでのロボットとは、大きく異なる点がある。従来のロボットは、食事を運んだり、作ったり、物を運んだりと、ひとつの機能しかできないものが多かった。ところがアイザックは、さまざまな家事雑用ができるのだ。
Weave Roboticsの家事ロボット・アイザックができること
・洗濯物の折りたたみ
・居室の整理整頓(散らかったモノを見つけ指定場所へ置き直す)
・ペットの世話(餌・水の補充など)
・植物への水やり
・鍵・財布・眼鏡などの探し物を見つけてユーザへ提供
・飲み物・本・デバイスなど、物の取り出し・配膳
・オンデマンドでの撮影や留守中の家の見守り
つまり、家庭での雑用はだいたいこなせる。
AIの急速な進歩に対して、ネットではあるミーム画像が駆けめぐっている。それは、AIロボットが油絵を描くという高度な創造作業をしている横で、人間が洗濯物を片づけているというものだ。アイザックはそのような笑えない未来にならないよう、家庭内の雑用をこなすことを目的に開発された。
元Appleの二人が起業。すでに実力も認められた優良スタートアップ
このWeave Roboticsという企業は、私たちにも親しみやすい。というのも、創業者は元AppleのAIプロダクトマネージャーだったエバン・ウィンランド氏と、同じく元Appleのカーン・ドグルサーズ氏の二人。二人ともカーネギーメロン大学の出身で、ウィンランド氏はApple Intelligence、ドグルサーズ氏はApple Watchに関わっていた。

それだけではない。二人は起業後、スタートアップの登竜門「Y Combinator」の2024年のサマーバッチに参加し、そこで最初の出資を獲得した。出自が優れているだけでなく、実力もあるスタートアップなのだ。
驚きのアイザックのプロトタイプ映像。ポイントは、“命令の分解”と実行
Y Combinatorの紹介ページには、アイザックのプロトタイプが紹介され、2つのデモ映像が公開されている。ひとつは、まだメカが剥き出しのプロトタイプのアイザックが、植木に水をやっている映像だ。

もうひとつはかなり驚く。まず、アイザックにノートに手書きした料理の材料一覧を見せる。アイザックは冷蔵庫など家の中にあるストックのリストを記憶しているので、それと比較し、足りないものを答えてくれるというものだ。つまり、買い物リストを一瞬で作ることができる。
さらに、「ペンをペン立てにしまって、コースターは重ねて」と指示すると、これを「ペンを探す、ペンをつかむ…」という命令に分解し、着実に実行していく。

冒頭のかいがいしく働く姿の裏では、このような認識→命令の分解→実行という作業の繰り返しが行われていた。
ロボット開発の最先端は、二足歩行ではなく車輪。理由はバッテリの持続時間
アイザックの特長は、二足歩行ではなく車輪移動な点。ロボット開発の最先端は米国と中国だが、いずれも家事ロボットや工場内系作業ロボットは二足歩行ではなく、車輪が採用されている。
大きな理由は安定性だ。現在の技術でも、二足でバランスを取って直立することは難しくなくない。しかし、それでも転倒のリスクは残る。また、自立するために機構、演算が必要となり、コストが上がるのも課題だ。
さらに、バッテリの持続時間も大きな問題となる。現在、民間向けに市販されているロボットはバッテリが2時間ほどしかもたない。2時間動いたら1時間は充電のために休む必要がある。
玩具として、あるいはイベントの客寄せとしてはこれでもいいが、作業ロボットとしては問題だ。そこで車輪を採用することで、バッテリ消費を減らし、長時間活動を実現させる。家事ロボットの場合、仕事が途切れたときに自分で充電する機能を搭載すれば、実質的に24時間稼働も実現できるだろう。
またユニークなのは、難しいタスクでは人と連係する機能が用意されていることだ。カスタマーセンターに連絡すると、センターのスタッフがリモートで操縦してタスクを実行する仕組みも用意されている。Apple出身者による企業らしく、プライバシー重視の設計で、カメラとマイクはすべてローカル処理され、クラウドなどの外部に送信されることはないそうだ。また、カメラとマイクがオンのときは、アイザックに搭載されたランプが点灯するなどして、視覚的にわかるようになっている。
アイザックの課題は約870万円という価格。中国メーカーからは80〜200万円前後のロボットも
ただし、アイザックの問題は価格にある。一括購入では5.9万ドル(約870万円)。48回の分割払いでは月1385ドル(約20.5万円)。ひょっとしたら、週3回程度の家事サービスを入れたほうが安いかもしれない。
一方の中国では、軽量ロボが3.99万元(約82万円)で発売され話題になっている。家事などの細かい作業はできないが、富裕層が大人の玩具として買うというケースが多いそうだ。工場内や家庭内での作業に対応した車輪式ロボも8.99万元(約185万円)から。価格の面では中国勢に優位性がある。
アイザックの出荷は2025年秋から。カフェやレストランに登場する日は近い?
アイザックは、2025年秋に米国在住の顧客に30台が出荷され、2026年に大量出荷が始まるとされている。予約はすでに受け付けており、Weave Roboticsのサイトから可能だ。ただし、予約金が1000ドル(約14.8万円)必要になる。
個人で購入して自宅で使うには厳しい価格だが、カフェやレストランでスタッフとして雇うというパターンはありそうだ。米国において、月給1285ドルはフロアスタッフの報酬の半分程度になる。ロボットが働くカフェやレストランが登場するのも、そう遠くないかもしれない。
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著者プロフィール
牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。







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