中身はRetina搭載の次世代MacBook Air?
2008年に誕生して今に続くベストセラーとなったMacBook Airは、初代モデルこそプレミアム製品だったが、第2世代以降は大幅に値下げされてエントリークラスのノートMacシリーズとなった。
そのため、それまでローエンドを担っていた「MacBook」は、2011年に販売中止になって以降、復活することはないものと思われていたのだが、そんな常識が通用しないのがAppleの製品戦略だ。2015年3月に、同社は突如として、再びMacBookの名を冠したモデルをデビューさせたのである。
しかも、このMacBookは、MacBook Air(標準モデル税別10万2800〜11万2800円)よりも上位(同14万8000円)の製品で、当時のMacBook AirにはなかったRetinaディスプレイを搭載していたため、以前のモデルと区別するために「Retina MacBook」と呼ばれることもあった。また、カラーバリエーションも、シルバーのみだったMacBook Airとは異なり、スペースグレイとゴールドを加えた3色で展開された。
さらに、このMacBookは、Apple製品ではじめてUSB-Cポートを採用したモデルとなり、かつ、その汎用性を強調するかのように、ポートは1つ(+イヤフォンジャック)しか備えていなかった。つまり、電源供給と周辺機器の接続がどちらもUSB-Cポートのみでできることをアピールしたわけだが、当然ながらその両方を同時に行うには、別売りの純正あるいはサードパーティ製のハブが必要だった。
思うに、AppleはこのMacBookを次期MacBook Airとすべく開発していた可能性もある。おそらくその時点ではRetinaディスプレイを搭載して既存のAir並みの価格に抑えることが難しく、また、MacBook Airの人気も衰えていなかったことや、本当にUSB-Cポート1基のみで十分なのかを確かめる試金石的な意味合いもあって、別シリーズとして発売したとも考えられる。
再び物議を醸したミニマリズム
Retina MacBookが画期的だったのは、12インチLCDを搭載しながら、サイズと重量が280.5mm × 196.5mm × 13.1mm(最厚部)で0.92kgと、300mm × 192mm × 17mm(最厚部)で1.08kgのMacBook Airの11インチモデルよりも奥行き以外は小さく、薄く、軽かったことだ。一方で、当時はファン内蔵のMacBook Airに対してファンレスのMacBookは効率重視のCore M(1.1-GHz)CPUを採用したため、性能でCore i5のMacBook Airに劣り、同価格で13インチのMacBook Proが買えるという微妙な立ち位置にあった。加えて、新開発のバタフライキーボードは、後に、細かなゴミ詰まりで動作不良を起こしがちとなった。
それでも、筆者も含めてその軽さやRetinaディスプレイの美しさ、そして、8時間以上のバッテリ駆動時間と驚くほど優れたオーディオの音質に魅了されたAppleファンはこぞってMacBookを買い求め、“もっともモバイルなノートMac”として使い倒した。
2018年にはRetinaディスプレイ搭載のMacBook Airが発売され、役割を終えたMacBookは翌2019年に製造中止となったが、その先進性は確かにその後のノートMacラインに活かされたのである。
※この記事は『Mac Fan』2022年10月号に掲載されたものです。
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著者プロフィール

大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。