Mac Fan読者のみなさんにとって、おなじみの「Apple Store」は、日本には6都府県10店舗、世界では27カ国534店舗が展開されている(2025年6月時点)。近くの店舗を訪れたり、海外旅行の際に立ち寄ったりしたことがある方も多いだろう。
私の経験上、Apple Storeでは海外の店舗でも日本語を理解できるスタッフがいることが多く、日本で購入したAppleデバイスの修理なども対応してくれる。ただし、キャリア経由で購入したiPhoneの場合は対応できないこともある。
以前は修理というとリビルド品への交換が基本だったので、海外旅行でデバイスが故障してもその場で交換してもらえた。これは、勝手がわからない海外ではすごくありがたいことで、Apple Storeは筆者にとってオアシスのような存在だった(現在は修理対応が基本になっている)。
Apple Storeの魅力はそれだけではない。Appleは店舗自体も製品の一部と考えているようで、その建築デザインにも注目が集まっている。
日本の店舗も素晴らしいが、世界には美しいApple Storeがたくさんある。海外に行く機会があれば、時間をつくってでも行く価値があるほどだ。
そこでこの記事では、筆者が人生で一度は訪れたいと思っているApple Storeを、行きたい順に10店舗ご紹介する。
第10位:Apple Tysons Corner

画像:Apple
米国バージニア州にある「Apple Tysons Corner」は、2001年5月にオープンした、世界初のApple Storeだ。
店舗をオープンする1年前の2000年頃から、スティーブ・ジョブズと小売担当のロン・ジョンソン副社長は、本社内の倉庫にApple Storeの実物大模型をつくり、毎週火曜日に集まっては店舗のデザインや顧客体験を検討していた。
製品の展示方法、Genius Barの配置、顧客の動線などを徹底的に検討したのだそうだ。
ぜひともその実物大模型を見てみたいものだが、残念ながら残っていない。しかも極秘プロジェクトであったため、映像資料なども公開されていない。しかし関係者の証言によると、この「Apple Tysons Corner」がその模型そっくりなのだという。
ただ、「Apple Tysons Corner」は2023年に上階に移転し、内装も現代のガイドラインに準拠したものに刷新されてしまった。そのため、当時の面影は残っていない。

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そこで、おすすめしたいのが、「The Apple Store Time Machine」というサイトだ。ここでは、オープン直後の「Apple Tysons Corner」の中をウォークスルーできるアプリ「Shop Different」が無料で配布されている。

画像:Shop Different
これを見ると、今のApple Storeとかなり趣きが異なり、スティーブ・ジョブズがどのようなショップを考えていたのかがよくわかるので、ぜひ見てみていただきたい。
また、スティーブ・ジョブズ自らが「Apple Tysons Corner」を案内する映像も残されている。画質は悪いが、懐かしいMacも多数登場するので必見だ。
第9位:Apple Tower Theatre

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米国ロサンゼルスにある「Apple Tower Theatre」は、1927年に開業した劇場を修復して利用している店舗だ。もともとこの劇場は、パリのオペラ座に触発された内装を使い、ロサンゼルス市で初めてトーキー映画を上映するなど、ロサンゼルス市の歴史にとって重要な歴史的建造物だった。
しかし、近代的な映画館や劇場が増え始めると、次第に経営は苦しくなり、1988年に閉館に追いやられてしまう。そこで、2015年頃からAppleが契約に動き、外観や内部には徹底的に修復を施し、2021年6月にApple Storeとしてオープンした。

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この店舗のように、Apple Storeは歴史的建築物の保存にも力を入れている。それは地域にとってもうれしいことであるし、同時にAppleのブランド価値を高めることにもなっている。

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第8位:Apple Carnegie Library

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米国ワシントンDCにある「Apple Carnegie Library」はもともと、鉄鋼王カーネギー氏による資金提供を受けて1903年に開館した公共図書館だった。この図書館は、“どの人種の人も”利用できる公共施設として注目されていた。しかし、利用者が増えたために新しい中央図書館が建設され、再利用が進まないまま保存が問題となっていた。
そこに2016年、Appleが復元プロジェクトに名乗りを上げ、年70万ドル(約1億円)という家賃を支払うことで、復元費用の一部を負担するとした。Apple Storeだけでなく、建物内には「DC History Center」が併設されており、資料保存や研究図書館、ミュージアムショップなどとしても活躍している。

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第7位:Apple Opera

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フランス・パリにある「Apple Opera」は、19世紀の建築を、修復のみでほぼ当時のまま利用している建物だ。ここは当時銀行として使われていたため、地下には大金庫が残されており、重厚な扉の内側にはアクセサリコーナーが配置されている。
Genius Barは吹き抜けを望む中2階のバルコニーに配置されている。

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店名にある「Opera」の由縁は、あの有名なオペラ座のそばにあるから。ちなみに、オペラ座を参観した観光客が、古い保存建築を見るために「Apple Opera」にやってくることもあるのだそう。

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第6位:Apple Central World

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タイ・バンコクにある「Apple Central World」は、大きなガラスを効果的に使った建築が特徴だ。Apple Storeが大きなガラスを効果的に使った建築をすることはよく知られており、この店舗にもその構造を支えるのに「ツリーキャノピー」と呼ばれる木製の柱を使っている。

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ツリーキャノピーの役割は柱だけでなく、天井でせり出し、庇(ひさし)となって日光を遮ってくれている。さらに、おなじみとなっている螺旋階段もこの柱を取り巻くように設置されている。
このツリーキャノピーが素晴らしいのは、店内環境を快適にしているだけでなく、その周囲までを居心地の良い空間にしていることだ。店舗の周りにはベンチが多数設けられており、Apple Storeに用事がある人もない人も、ゆっくり過ごせるようになっている。
まさに、Apple独自のガラスコンセプトと現地の木による自然がシームレスに融合した建築だ。

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第5位:Apple Fifth Avenue

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米国ニューヨークにある「Apple Fifth Avenue」は、Apple Store直営店の“旗艦店中の旗艦店”と言っても差し支えのない、まさにApple Storeのイメージを決定づけている店舗だろう。
場所もニューヨーク5番街という好立地にあり、2006年にオープンすると瞬時にニューヨークのランドマークのひとつとなった。一説によると、SNSに投稿される写真の数は「自由の女神」を上回っているとも言われている。
地上から見えるのはガラスキューブのみで、鏡面ステンレスのらせん階段を降りていくと地下にApple Storeが広がっている。

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このガラスキューブは何度も改修が行われ、そのたびに純粋さを増している。当初は建築技術の都合で90枚のガラスパネルが使われていたが、改修により15枚に整理、さらには天窓と外光を導入する仕組みが付けられ、ショップ内も自然な光に包まれるようになった。
華やかで洗練されていて、非常にApple StoreらしいApple Storeだ。

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第4位:Piazza Liberty

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イタリア・ミラノにある「Piazza Liberty」は、ガラスキューブが地下店舗への入り口となっており、キューブの横には噴水があり、常時滝のように流れている。入店するときは、ガラスキューブの側面から入り、階段を降りていく方式だ。噴水を見ながら地下に降りていくことになる。

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ガラスキューブの横は、屋外シアターになっており、ここでさまざまなイベントが開かれるという。「Liberty」は“自由広場”という意味だが、イタリアでは芸術スタイルの「アール・ヌーヴォー」のことをリバティ様式と呼ぶのだという。
そのため、このリバティ広場の周辺にはリバティ様式の建築物が点在する。この広場にも1959年に半地下劇場が建設され、Apple Storeはそれを活かして、Appleのガラスキューブ様式と融合させているのだ。

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第3位:Apple Pudong

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中国上海にある「Apple Pudong」は、「Apple Fifth Avenue」と同じシアトルの建築事務所「Bohlin Cywinski Jackson」が設計を行った。場所も上海屈指の金融街の中にあり、中国の旗艦店になっている。
曲面ガラスを使った巨大円柱が特徴で、地下通路でモールの地下と連結している。
Appleの市場は米国が最大で、中国がそれに次ぐ。旗艦店中の旗艦店もニューヨークと上海に置くというのも、もはや当然のことかもしれない。
第2位:Apple Zorlu Center

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トルコ・イスタンブールにある「Apple Zorlu Center」は、個人的にはもっとも好きなApple Storeだ。
Mac miniを彷彿とさせながら、アルミ風に装飾されたカーボンファイバーの屋根と継ぎ目のないガラスで構成されたミニマリズの極地とも言えるデザインになっている。これでどうやって構造を支持できるのか不思議な気持ちになる。
地元では通称「ランタン」と呼ばれているのだという。夜間になると、ガラス壁面から盛れる灯りがランタンのように見えるからだ。
店舗は地下2階構造になっていて、小さく見えるが地下で広がり、店舗面積もじゅうぶん取れている。どこから入るのか不思議になるが、Zorlu Centerのモールと地下で接続している。

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第1位:Apple Marina Bay Sands

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シンガポールにある「Apple Marina Bay Sands」は、もっとも美しいApple Storeとの呼び声も高く、水上に浮かぶガラスドームとその地下が店舗になっている。
内部には遮光の桟が円周上に配置され、大型の植物が置かれている。これは単なる居心地の良さを演出するだけでなく、彩光と音響を制御するツールになっているのだ。

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さらに、床などの素材にも音の吸収度が異なる素材を組み合わせ、不快にならない賑やかさをつくりだしているのがポイントだ。
近年のApple Storeは、外光をいかに取り入れるか、内装材による音響効果を緻密に考えた店舗が多く、見た目だけでなく“そこに行ったときの言葉では表せない感覚”を記憶に残してもらおうと考えているようだ。このドーム型という突飛なスタイルも、彩光と音響効果を考えた上で生まれてきた形なのかもしれない。
近隣にはカジノホテルの「マリーナベイ・サンズ」があり、シンガポールを訪れた人が一度は行くベイエリアに位置している。特に夜になると、「Apple Marina Bay Sands」や周囲の光が水面に静かに反射して幻想的な光景となり、この店舗はすでにシンガポールを代表するランドマークになっている。

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日本の店舗も魅力がいっぱい
日本にも素晴らしいデザインのApple Storeがたくさんある。たとえば、東京の「Apple丸の内」はガラスと植物を大胆にあしらったもので、店内に入ると竹林の中の静寂さを感じることができる。
観光スポットのひとつとして訪れているインバウンド旅行客もよく見かける。

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もし、海外に行く機会があったら、仕事や観光の合間にその土地のApple Storeに立ち寄ってみていただきたい。販売されているものはAppleデバイスなので世界共通だが、一部にはそのApple Storeでしか販売されていない製品があることもある。
さらに、各店舗ごとにAppleのロゴマークをアレンジしたものをStoreロゴとして使っていることもある。小さな違いを探しにApple Storeに行ってみれば、きっと新しい発見があるはずだ。
著者プロフィール

牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。