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“薄型・軽量・ファンレス”Macは実現するか?/今井隆の「AppleシリコンでMacはどう変わるのか?

著者: 今井隆

“薄型・軽量・ファンレス”Macは実現するか?/今井隆の「AppleシリコンでMacはどう変わるのか?

画像:Apple

※この記事は『Mac Fan 2020年9月号』に掲載されたものです。

高効率プロセッサと優れたユーザビリティ

Intel Coreプロセッサに匹敵する性能もさることながら、Appleシリコンの最大の特徴は、なんと言ってもその高いエネルギー効率にある。

たとえば、Apple A12Zを搭載するiPad Pro(11インチモデル)と第10世代コアプロセッサを搭載するMacBook Pro(13インチモデル)では、Appleのリリースによると、いずれも「最大10時間のワイヤレスインターネット閲覧および動画再生が可能」とされている。

しかし実際には、そのバッテリ容量はiPad Pro(11インチモデル)が28.65Wh(ワットアワー)、MacBook Pro(13インチモデル)が58.2Whと2倍以上の開きがある。

両デバイスの消費電力にはどちらもディスプレイなどの周辺回路が含まれているため、実際のプロセッサ単体での消費電力の差はさらに大きいと推測される。

事実、iPhone/iPadシリーズはいずれもファンレス設計だが、当時のMacBookシリーズはすべて冷却ファンを搭載しており、MacBook Proでは2基の冷却ファンを備えている。

MacBook Pro(13インチモデル)の内部には2基の大きな冷却ファンが搭載されており、そのエアフローを確保するためにキャビネット内部に空間が設けられている。
画像:iFixit

もしApple A12Zのような高性能コア4個のAppleシリコンがMacBookシリーズに搭載されると、それはファンレス動作が可能になることを意味している。

さらに当時のMacBook Proと同じバッテリを搭載すれば、およそ2倍のバッテリ駆動時間を得ることができ、丸一日充電せずに使用できるノートパソコンへと生まれ変わる。

あるいは従来と同じバッテリ駆動時間であればバッテリ容量を半減できるため、より軽くて薄いMacBookシリーズを実現することができることを意味している。

一方、iPad Proの内部には冷却ファンはなく、プロセッサの熱はシールドカバーを通じてアルミ製のリアカバーから自然放熱される仕組みとなっている。写真はiFixitの分解動画より抜粋。 
画像:iFixit



低消費電力がもたらすデザインの大幅進化

プロセッサの消費電力が大幅に削減されると、製品のデザインにも大きな影響を及ぼす。空冷ファンに頼った冷却システムでは、本体内部に充分なエアフローを確保しなければならない。

特にこの問題はプロセッサの発熱量が増えるほど深刻になり、大きなファンとその気流のための空間をMac内部に設ける必要がある。

このように、プロセッサの発熱はMacの小型化や薄型化を実現するうえで大きな制約となるが、Appleシリコンの採用によってファンレス化、あるいは冷却システムの簡素化が実現すれば、より大胆なデザインが可能になる。未だかつて見たことがない新しいデザインのMacの登場も期待できるだろう。

Appleが目指すAppleシリコンのターゲットゾーンは、ずばりノート型Macと同等またはそれ以下の消費電力で、デスクトップ型Macと同等以上の性能を発揮することだ。
画像:Apple

※こちらの連載は、毎週土曜日18時に公開する、計7回の連載です。

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著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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