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積み重ねたプロセッサ開発の到達地点「Appleシリコン」とは何なのか?/今井隆の「AppleシリコンでMacはどう変わるのか?」

著者: 今井隆

積み重ねたプロセッサ開発の到達地点「Appleシリコン」とは何なのか?/今井隆の「AppleシリコンでMacはどう変わるのか?」

画像:Apple

※この記事は『Mac Fan 2020年9月号』に掲載されたものです。

繰り返されてきたプロセッサの変遷

Appleシリコン」とは、一言でいえばAppleがデザインしたプロセッサ(SoC、システム・オン・チップ)のことで、身近な例ではiPhoneやiPadなどに搭載されているApple AプロセッサやApple WatchのApple Sシリーズなどのことだ。

従来のMacがIntel社によってデザイン・製造されたプロセッサをAppleが購入して搭載しているのに対して、AppleシリコンはAppleが自社でデザインし、半導体製造会社(ファブ)に委託して製造される。

これによってAppleはIntelのプロセッサ戦略から解放され、Macにもっとも最適なプロセッサを独自に開発することが可能になる。

AppleがMacのプロセッサを大きく転換するのは、これがはじめてではない。1984年に登場した初代Macはモトローラ社のMC68000を採用していた。

その後、1987年登場のMac IIで完全32ビット版のMC68020、1988年にはMC68030を採用、さらに1991年登場のQuadraシリーズではXC68040を搭載している。

しかしその後モトローラは後継プロセッサの開発に手こずり、待ちかねたAppleは1993年にMacのプロセッサをPowerPCへと切り替えると発表した。

PowerPCは、Apple、IBM、モトローラの提携(AIM連合)により開発されたRISCプロセッサで、最初のPowerPC601は1992年に完成、1994年にPowerMacシリーズに搭載された。その後、PowerPC603、同604シリーズが開発され、多くのMacに採用された。

1997年に登場したPowerPC G3(750)プロセッサは翌年、スティーブ・ジョブズの復帰とともに登場したiMacに採用されて爆発的なヒット製品となる。

1999年にはモトローラからPowerPC G4(7400)、さらに2003年にはIBMからPowerPC G5(970)がリリースされたが、当時のPowerPCのラインアップには、Appleが切望する高性能なモバイルプロセッサが存在しなかった。

そこで2005年のWWDC(世界開発者会議)でAppleは、将来のMacでIntel製プロセッサを採用することを発表。当時Intelの最新プロセッサであったCoreプロセッサを採用し、2006年に登場したIntel Macでは高性能と低消費電力を両立させてユーザを驚かせた。



iPhoneで加速した自社チップの開発

その後、AppleはMacにIntelのコアプロセッサを採用する一方で、iPodやiPhoneシリーズにARMアーキテクチャのSoCを採用した。

ARMを開発したARM社は1990年に英Acorn Computers社がAppleの協力を得て設立したプロセッサ設計企業で、同社初の「ARM610」は1993年にアップルのPDA「ニュートン(Newton)」 に採用された。

Appleはその後もARMアーキテクチャの他社製SoCを採用する一方で、2010年登場のiPhone 4ではついに自社設計の「Apple A4」を搭載した。

以降も毎年性能が向上した「Apple A」プロセッサをリリースする一方で、Apple Watch向けの「Apple S」やAirPods向けの「Apple W」など派生モデルも展開。

このようなAppleのプロセッサ開発の最新到達地点─それがMacのメインプロセッサとなるAppleシリコンだ。

ではAppleシリコンによってMacはどのように変わるのか? その詳細を次回から見ていこう。

※こちらの連載は、毎週土曜日18時に公開する、計7回の連載です。

Macのプロセッサを大きく変化させるのは、Appleにとって2020年が3度目。もっとも長かったIntelプロセッサの時代が今まさに終わろうとしており、Appleシリコンへとそのバトンが渡される。

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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