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現時点でSiriを凌ぐAI音声アシスタント「Perplexity」 Appleが作るスマホ体験は今後どうなるのか

著者: 山下洋一

現時点でSiriを凌ぐAI音声アシスタント「Perplexity」 Appleが作るスマホ体験は今後どうなるのか

AI検索エンジン「Perplexity」がiOSアプリ上に次世代的な音声アシスタント機能を追加した。ユーザと自然に対話し、文脈を深く理解して的確にサポートするだけでなく、アプリと連携したタスクをこなすエージェント的な能力も備えている。

Siriはポテンシャルから考えると物足りない?

音声アシスタント「Siri」は、iPhoneユーザに長年親しまれてきた。しかし、近年の生成AIの目覚ましい進化に対して、Siriの発展の遅さに物足りなさを感じるユーザも増えている。そうした中、AIスタートアップの「Perplexity」がiOSアプリに搭載した「音声モード」が注目を集めている。

この機能は単なる音声アシスタントにとどまらない。大規模言語モデルによる自然な会話と深い文脈理解に加え、カレンダー登録やメール下書きの作成、配車・予約アプリとの連係など、ユーザが依頼したタスクを実行するAIエージェント的な能力も備えている。Appleは3月に、Siri強化の一部を延期した。そうした状況で、一部のユーザからは「iPhoneでのAI活用において、SiriはPerplexityに先を越された」との声も上がっている。

実際、両者の文脈理解能力には歴然とした差がある。たとえば「Appleの1〜3月期の売上総利益率は?」と質問した場合、Siriは検索結果の一部を画面に表示するだけだが、PerplexityはWeb情報を調べ、「47.1%でした」と回答する。質問の意図を汲み取り、必要な情報を収集・分析、要約して返答する能力があるのだ。さらに「なぜ上昇したの?」と続ければ、その理由についてもスムースに説明する。

こうした音声によるAI検索は、ChatGPTやGoogleのGeminiなどの主要な対話型AIサービスでも利用できる。だが、Perplexityはさらに一歩進んで、OSや他のアプリと連係したタスクの処理にも対応する。従来のSiriが対応してきた単純な操作だけでなく、たとえば「さっきのリマインダー、時間を1時間早めて内容を『顧客訪問』に変更して」というような複雑な指示や複数のアクションにも対応する。

「アップルの1〜3月期の売上総利益率は?」に対し、Siri(左)はウェブ検索の結果をいくつか示すだけで、ユーザが調べなければならない。Perplexityは利益率を具体的に回答し、さらに数値に対するコメントも返してくれる。




SiriはAIアシスタントの主役に返り咲くか

Perplexityはこれらの機能に特別な「裏技」を使っているわけではない。Appleが公開しているフレームワークやAPIを使って実現している。つまり、技術的にはSiriでも同じ体験が可能なはずだ。しかしSiriでは手間だったり、意図どおりに動作しないなどの現実がある。

これは見方を変えると、AIアシスタントの対話能力が向上するだけで、iPhoneの使い勝手はここまで変わるということでもある。Perplexityは、その可能性をユーザに体験させてみせた。

サードパーティ製のAI音声アシスタントの台頭は、2000年代後半にクラウドストレージ「Dropbox」が頭角を現し、Appleに衝撃を与えた出来事を想起させる。当時「クラウド戦略で出遅れている」とされたAppleは、Dropbox買収を画策したものの失敗。最終的に自社でiCloudの開発を加速させ、クラウドを介して多様なデバイスを連係させる「クラウドハブ」を確立した。

現在「AIで出遅れている」との指摘がAppleに向けられ、周囲でAIスタートアップが躍進する構図は15年前と重なる部分が多い。Appleはこの状況にどう応じるのか。Siriが再び主役の座に返り咲くのか。AI時代のモバイル体験を定義し直すSiriの“逆襲”に期待したい。

Perplexityの音声アシスタントへのユーザの好反応を受け、アラビンド・スリニバスCEOはX投稿で、Siriの代わりになるような機能強化の可能性を示し、「関心があれば、優先的に取り組む」と意欲を見せた。

※この記事は『Mac Fan』2025年7月号に掲載されたものです。

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著者プロフィール

山下洋一

山下洋一

サンフランシスコベイエリア在住のフリーライター。1997年から米国暮らし、以来Appleのお膝元からTechレポートを数多くのメディアに執筆する。

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