MacやiPhoneには、たくさんのApple純正アプリ/ソフトがインストールされており、さまざまな場面で活用することができる。
しかし、純正アプリ/ソフトにないメリットを持ったサードパーティ製を愛用するユーザも多い。たとえば純正「メール」や「マップ」ではなく、「Gmail」や「Googleマップ」を選ぶパターンもあるだろう。
筆者もその1人なのだが、皆さんはどちらを使っているだろうか。これが今回の疑問だ。
※この記事は『Mac Fan 2021年11月号』に掲載されたものです。
Gmailが起こした革命。“クラウド型”を筆頭とする時代を先どったシステム
「私はAppleユーザです」と胸を張って言えずにいた。なぜなら、「メール」と「マップ」というApple純正ソフト/アプリを使わず、「Gmail」と「Googleマップ」を使うという“裏切り行為”を長い間続けてきたからだ。しかし、これはAppleに対する背信ではなく、合理的な選択だった。
2004年に登場したGmailは、電子メールに革命を起こした。時代を先どった「クラウド型メールサービス」で、ストレージはGoogleが用意してくれる。1GBと当時としては大容量で、しかも時間の経過に伴い容量が追加されていった。
それまでメールは、フォルダをいくつも作って整理をするのが当たり前だったが、Gmailは「整理などしなくていい。すべてのメールを保存して、必要なときは検索して見つければいい」という新しいメールとの付き合い方を提案した。
さらに2014年には、同社の新メールアプリ「Inbox」が登場。使いやすいうえに、重要な送信者を自動判定してくれ、重要なメールだけをプッシュ通知してくれるというものだった。
リリース当初、“問題”を抱えていたApple純正「メール」アプリと「マップ」アプリ
一方で、当時のAppleの「メール」ソフトは問題を抱えていた。
使いやすさの点では優れていたものの、保存しているメール件数が多くなると、起動に長い時間がかかるのが難点だった。そのため、筆者の周りでは、多くの人が別のメールソフト/サービスを探すようになった。
Apple純正「マップ」も同様だ。以前は、iPhone用の地図アプリといえば、ほぼGoogleマップしか選択肢がなかった。それが、2012年のiOS 6で純正「マップ」アプリが追加されたが、お世辞にも良い出来とは言えず、「パチンコガンダム駅」などに象徴される誤データ問題が続出。
ティム・クックCEOが公式に謝罪するほどの騒ぎになった。その後、Mac版も追加されるなど改良は進んだものの、Googleマップから乗り換えるほどのメリットを見い出せていないユーザが多いように思える。
つまり、私たちがAppleを裏切ったのではなく、Appleが私たちの期待に応えてくれなかったのだ。
最近のGoogleのサービスに感じる使いづらさ。情報過多、そして“便利な時代”の終わり
しかし、最近の純正「メール」と「マップ」は大きく変化を遂げている。一方で、ここは人によって感じ方は異なるかもしれないが、Googleのサービスが日々使いづらくなっている。そこで、思い切ってApple純正に切り替えてみたところ、素晴らしく快適に利用できた。
きっかけは、先述の「Inbox」アプリのサービス終了と、Googleフォトの容量無制限の廃止だった。
仕方なくWeb版のGmailを使い始めたのだが、使いづらい。表示される情報量が多すぎて、必要な情報が見つけづらいのだ。特に設定項目が多すぎて、必要な設定項目を見つけるのにも手間取る。
しかも、今やGmailの保存容量はGoogleドライブやGoogleフォトといったほかのGoogleサービスと共通で消費される。結局、ときどき不要なメールをまとめて削除して容量を確保する必要がある。「メールや写真は整理しなくていい」という時代は終わったのだ。
Apple純正「メール」に乗り換えてみた。優れたUI、そして純正ソフトとの連係性が素晴らしい!
そこで純正の「メール」に切り替えたところ、以前のような重くなる現象は起きない。しかも、Apple特有のシンプルで美しいユーザインターフェイスを体験できる。
何より快適なのが、「日付」「電話番号」「住所」などがメール本文に含まれている場合、Siriが検出して、カレンダーや連絡先、マップなどに連係してくれることだ。

また、Google系は基本的に「Webサービス」であり、純正ソフトは「ソフト」である点も大きい。
起動するのに、基本的にWebサービスは「Webブラウザ起動」→「検索」→「Webアプリ表示」と3ステップもかかるが、ソフトならドックから1ステップで開くことができる。このため、Webブラウザを起動して、Gmail画面を表示したままにしている人も多いのではないかと思う。
AppleとGoogle。両社の開発における考えの違いは、アプリ画面にも色濃く現れる
マップに関しても、両社で開発における考え方が大きく違っている。Googleは「できるだけたくさんの情報を提供する」のが基本的な考え方になっているようだ。一方、Appleは「ユーザの文脈を考え、必要最低限の情報を提供し、見やすくする」ことを心掛けているように感じる。
たとえばGoogleマップで場所を検索すると、基本情報のほかに「Plus Code」も表示される。これはGoogleが提唱している位置コードで、文字列を使って場所を表すことができ、ドアの位置まで指定できる精密さを持っている。
素晴らしい仕組みだが、ユーザに提示する必要があるだろうか。位置情報を共有するときに、内部で使ってくれればいいだけの話だ。


純正「マップ」と「Googleマップ」で「駅」を検索すると…? 違いがより明確化
また、駅を検索してみると、両社の違いがより明確になる。Googleマップで駅を検索すると、時刻表が表示される。現在から1時間半ぐらいまでの間の発車時刻が時刻順に並べられる。上りと下りも一緒に表示される。
一方で、純正マップでは上りと下りに分けられ、行先別の次の列車のみが表示される。そして、行き先別におおよその発車間隔が表示される。


やはりGoogleは「表示できる情報はすべて提供するので、自分で取捨選択してほしい」という考え方だ。これはよく作用すると「詳細な情報が得られる」になるが、悪く作用すると「余計な情報でごちゃごちゃして見づらい」になる。私は後者のほうだ。
一方、Appleは「利用者の文脈を考え、必要な情報を整理して提供する」という考え方だ。これはよく作用すると「シンプルな画面なのに、必要な情報が一目で得られる」になるが、悪く作用すると「情報量が少ない」になる。私は前者のほうだ。
どこにフォーカスするべきか。「マップ」とGoogleマップの違いから考える
開発の現場では「プロダクトではなくユーザにフォーカスしろ」ということがよく言われるそうだ。
日本の白物家電が衰退したのは、プロダクトにフォーカスをして性能や機能を過剰に追求したため、高くて使いづらいものになってしまったからだと、事実かどうかはともかく、業界寓話として語られる。Googleマップは同じ過ちを犯そうとしているのではないかと心配になる。
たとえば、Googleマップで場所を検索すると、その周辺地図とともに周辺施設など大量の文字情報が表示される。[経路]ボタンは一応強調されているものの見つけやすいとは言えない。
一方、純正マップは非常にシンプルで、周辺施設はやや透明度のある色彩で抑え気味に表示される。さらに[経路]ボタンは非常に大きく配置され、交通機関での移動時間まで表示される。つまり、Appleは純正「マップ」を「地図」ではなく「移動ナビゲーション」として捉えているのではないか。地図というプロダクトではなく、それを使うユーザの行動にフォーカスをしているのだと感じる。


そろそろApple純正「メール」や「マップ」に戻る時期がやってきているようだ。ぜひ皆さんも、Appleユーザとして正しい選択をしていただきたい。
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著者プロフィール

牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。