目次
- Mac、iPhone、iPadで自撮りすると、映像が反転する“不思議”な仕様
- 映像が反転する理由は、“人が鏡に慣れている”から。Appleデバイスが複数あるなら試してみよう
- iOS 14では「前面カメラを左右反転」が登場。“そのまま”写真や動画を保存できる
- 鏡写しの写真や動画はなんのために? たとえばTikTokのダンス動画に適している
- 鏡写しを抜け穴に? YouTubeなどの“反転動画”は、そのほとんどが違法アップロード
- 「パーセプチュアルハッシュ」。違法転載動画を見つける手法
- パーセプチュアルハッシュを掻い潜ろうと、動画を“反転”させるものも。ただし、その対策も進んでいる
- MacのFaceTime HDカメラで鏡写しにしない方法は…現状なし。一方、iPhoneでは「反転鏡」アプリが人気
iPhoneやMacの前面カメラで自分を写すと鏡写しになる。そこに文字を写すと、反転した鏡文字になってしまう。
ビデオ会議などでは、相手には鏡写しではない正像で表示されるが、なぜ自分の表示はわざわざ反転して鏡像表示にするのだろうか。これが今回の疑問だ。
※この記事は『Mac Fan 2021年7月号』に掲載されたものです。
Mac、iPhone、iPadで自撮りすると、映像が反転する“不思議”な仕様
こんな経験をしたことはないだろうか。Zoomなどのビデオ会議で、デザインボードや書籍などの現物を見せる必要があり、それをカメラに向ける。すると、文字が反転してしまうという現象だ。
これは、iPhoneやiPad、Macなどの前面カメラで起こる。一瞬慌てるかもしれないが、相手側には鏡写しではない、正しい映像が送られているので心配することはない。


なぜ、自分の姿は鏡写しで表示されるのか。それは多くの人が、生まれてこの方、自分の姿は鏡で見ることがほとんどだからだ。写真やビデオで撮影すれば、人から見た鏡写しではない自分を見ることはできる。しかし、それは現在の自分ではなく過去の自分だ。
映像が反転する理由は、“人が鏡に慣れている”から。Appleデバイスが複数あるなら試してみよう
リアルタイムの自分を見るとき、鏡写しでないと違和感が生じる。右手を上げると、画面の中の自分は右手が向かって左側にあり、自分とは逆の手を挙げているように見えてしまう。これは鏡に慣れた私たちにとっては違和感となる。そのため、前面カメラは撮影した映像をわざわざ反転させ、あたかも鏡を見ているかのように表示する仕様になっている。
Appleデバイスが複数台あれば、自分のApple ID宛にFaceTimeのビデオ通話ができるのでぜひ試してみてほしい。片方のデバイスには、鏡写しではない正像の自分が表示される。


これを見ながら、たとえば右の耳の穴に鉛筆を当てるなどといった動作を行ってみると…意外に難しい。
最近では、女性が化粧を直すとき、コンパクトミラーではなくiPhoneの前面カメラを利用する人が増えているという。もし、これが鏡写しでなかったなら、上手く化粧ができないだろう。
iOS 14では「前面カメラを左右反転」が登場。“そのまま”写真や動画を保存できる
iPhoneなどの前面カメラを使って自撮りする場合、自分で見る画面は鏡写しになる。しかし、保存される写真やムービーは正像(他人から見た姿)だ。
しかし、iOS 14から「設定」の[カメラ]内に[前面カメラを左右反転]という項目が加わった。これは前面カメラでの撮影は、自分で見るときも、保存されるときも鏡像になるという内容だ。設定をオフにすると、以前と同じように、前面カメラで撮影した画像は正像で保存される。

鏡写しの写真や動画はなんのために? たとえばTikTokのダンス動画に適している
つまり、自撮り画像や動画を鏡像(自分から見た姿)で保存したいというニーズが存在するのだ。
実際、最近の動画共有サービスでは、鏡像で動画を公開している人が増えてきている。背景などを見ると、文字などが鏡写しになっているだろう。
これはTikTokなどの流行で、ダンス映像が増えた結果だ。自分が上手く踊れたかどうかを確認したい場合、正像で確認すると左右が(鏡で見た状態とは異なり)逆になる。そのため、どう踊り方を直したらいいのかがわかりづらい。
また、そのダンス映像を見て振り付けを覚える人もいるので、その人のために鏡写しのまま、あえて公開している。TikTokでは、鏡写しの世界が広がっているのだ。
鏡写しを抜け穴に? YouTubeなどの“反転動画”は、そのほとんどが違法アップロード
これ以外にも、YouTubeなどではテレビドラマなども鏡写しの状態で公開されていることがある。これはほとんどの場合、違法アップロード動画だ。YouTubeといった動画共有サービスでは、著作権のあるコンテンツの違法アップロード対策をしている。
一般的な方法は、著作権者に公式チャンネルを開設してもらい、そこで公開された公式コンテンツと同じコンテンツが個人からアップロードされたとき、違法アップロードとして削除の対象にすることだ。
しかし、毎日大量に動画がアップロードされる大規模サービスで、このような監視を人手で行うというのは現実的ではない。自動化しても、ファイルデータが同一であるかどうかを判定する程度であれば、最初に適当なタイトルバックのようなものを追加してしまえば、この監視を簡単にくぐり抜けることができてしまう。
「パーセプチュアルハッシュ」。違法転載動画を見つける手法
そこで、サービス運営側は「パーセプチュアルハッシュ(視覚的な混ぜこぜ)」と呼ばれる手法を使う。動画で考えるとややこしいので、静止画で考えてみよう。
まず、静止画をグレースケールに変換し、それからピクセルを荒くしていく。たとえば9×9ピクセルを1ピクセルに変換するなら、81ドット分のグレースケールの平均色を取り、それを表示させる。すると、さまざまな濃さのグレーの四角からなるモザイク画像のようなものが出来上がる。これをデータ化すると数値に変換できる。
動画や静止画を直接比較しようとすると膨大な計算量になってしまうが、このような簡略化、要約化した画像を数値化したものの比較であれば一瞬で終わる。
パーセプチュアルハッシュを掻い潜ろうと、動画を“反転”させるものも。ただし、その対策も進んでいる
同じ画像から生成されたハッシュ値(計算値)は当然同じ値になり、違法コピーであることがわかる。また、監視を逃れるために、色をいじったり、明度、彩度をいじっても、ハッシュ値は変わらない。あるいは、すべての値が同じだけ増えたり減ったりするだけなので、同じパターンであることがすぐにわかる。
監視を逃れるため、トリミングやリサイズをして、額縁をつけたとしても、映像部分のパターンは同じだ。ハッシュ値は異なるものの、類似したハッシュ値になる。また、記号や文字などのテロップを乗せても類似したハッシュ値になる。
しかし、鏡像反転をした映像の場合は、パターンががらりと変わり、ハッシュ値が大きく違ってくる。そのため、このような監視を逃れることができると考えて、鏡像反転をさせてから違法アップロードをする人が一定数いるのだ。
動画共有サイトがどのような監視方法を取っているかは具体的には公開はされていない。しかし、このような反転パターンに対してもすでに対応しているのではないかと思う。鏡像反転させたコンテンツについても監視対象にすればいいだけだからだ。
さらには、人工知能(AI)を導入して、公式コンテンツとの類似度を算出するぐらいのことはしているのではないだろうか。
MacのFaceTime HDカメラで鏡写しにしない方法は…現状なし。一方、iPhoneでは「反転鏡」アプリが人気
MacのFaceTime HDカメラ(前面カメラ)で、自分を鏡像ではなく、正像で表示する方法を探してみた。だが、公式には存在しないようだ。Webカメラやビデオ会議ツールによっては正像表示の設定が行えるものがあるかもしれないが、調べた限り、見つけることはできなかった。
一方、iPhoneでは鏡像ではなく、自分を正像で表示する「リバーサルミラー(反転鏡)」と呼ばれるジャンルのアプリが増えている。多くの人は、やはり鏡像で化粧直しをして、最後に正像に切り替えて、人からどう見えるかをチェックするようだ。

アプリの中には、普段見えない横顔や後頭部などを撮影して、それをコマ送りで確認できる機能が搭載されているものもある。
iPhoneが登場してから、さまざまなものが淘汰されてきたが、もはや化粧用のコンパクトミラーも不要になってしまうのかもしれない。
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著者プロフィール

牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。