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Apple Vision Pro用「3Dスキャンアプリ」が登場! 装着して歩くだけで周囲をスキャンできる“近未来的体験”

著者: 大谷和利

Apple Vision Pro用「3Dスキャンアプリ」が登場! 装着して歩くだけで周囲をスキャンできる“近未来的体験”

Apple Vision Pro(以下、AVP)は、その高度なAR機能を実現するために複数のセンサやカメラを搭載しています。

その中でも、周囲の物体の位置やそこまでの距離を認識するために利用されているのがレーザー技術を応用したLiDARセンサです。

同様にLiDARセンサを搭載するiPhone 12以降のProシリーズや2020年以降のiPad Proでは、このセンサを使った3Dスキャンアプリがいくつか存在していましたが、AVPでは最近まで対応アプリがありませんでした。

その意味で待望のAVP向けLiDARスキャンアプリが、ようやく2種類登場したので、両者をテストしてみました。

広大な範囲を連続スキャンできるPerspector

日本人プログラマーによって開発(ただし、インターフェイスの表記などは英語のみ)された「Perspector」は、最大2500平方メートルのエリアを連続してスキャンし、メッシュ化できる点が特徴の3Dスキャンアプリです。

Perspector

【開発】
Shuhei Terahata
【価格】
800円

別の言い方をすると、テニスコート約10面分という広大な面積を一度にデータ化できるということになります。

取得されたデータは、3Dデータの汎用的なファイルフォーマットであるOBJ形式でAVP内に保存され、共有機能を使って、ほかのデバイスやアプリ、iCloudに転送することが可能です。

ほかのAVPアプリと同様に、空中に浮かぶホーム画面からPerspectorのアイコンを見つめ、ハンドジェスチャで起動します。
SF映画の効果音のようなサウンドとともにスキャンが開始されます。

スキャン速度も非常に早く、ただ普通に歩きながら周囲を見回していくだけでメッシュ化が進んでいきます。これは、LiDARを含む複数センサからの情報をリアルタイム処理できるR1チップを搭載し、完全にハンズフリーでスキャンを行えるAVPならではの体験といえるでしょう。

また、スキャン時のビジュアル的な演出や効果音が凝っており、SF的な映画やゲームを思わせる青白い三角形で構成されたメッシュが顔を向けた方向に伸びていく様子には、ある種の爽快感を覚えます。

スキャン済みの壁面や天井が小気味よく青いパネルで覆われていく様子は、美しく未来的です。
階段のように凹凸や段差のある場所も周囲を見回しながら歩くだけでスキャンできます。

スキャン完了時、あるいはスキャン途中でも、簡単なジェスチャによって3Dデータを俯瞰できるプレビューモードに切り替わり、その周囲を歩き回りながら異なる角度から眺めたり、顔を近づけて細部を確認することができます。

ただ、現状ではAppleのポリシーにより、AVPではこのようなスキャンと同時に表面のリアルな質感などを同時に取得して3Dデータ上にマッピングすることができないため、プレビューは構造のみの、やや素っ気なく感じられるものです。

iPhone Proシリーズなど向けのLiDARスキャンアプリはカメラ機能も利用してマッピングまで可能だったりするので、この制約はAVPによるスキャンが歩き回るだけでできてしまい、かつ外からは何の作業や処理をしているのかがわからないということからくる、プライバシーへの配慮とも考えられます。

また、取得される3Dデータが粗く感じられるのは、LiDARセンサのスキャン精度によるものなので、この点は後述する「Scan Export」アプリでも同様です。その有効性については最後にまとめて論じることにします。

親指と人差し指の指先を2回合わせるジェスチャにより、スキャンモードとプレビューモードを切り替えて、視覚化された結果のデータを確認したり、追加でスキャンしたりすることが可能です。

取得された面積の確認とデータの保存は、左の手のひらを上向きに開くジェスチャで表示されるメニューから行います。

OBJ形式のファイルは、確かに3Dデータとしての汎用性はありますが、できればARコンテンツを手軽に表示・共有できるUSDZ形式もサポートしてほしかったところです。

左の手のひらを上向きに開くとスキャンされた面積と赤丸で示した保存用ボタンが現れ、スキャン結果をOBJ形式で保存でます。
Perspectorを使ってマンションの2階分の廊下と階段をスキャンしたサンプル動画。

壁、ドア、フロア、天井などを自動認識するScan Export

Scan Export」の使い方も基本的にはPerspectorと同じで、AVPを装着してアプリを起動し、スキャンをスタートさせて歩き回るだけで済みます。

Scan Export

【開発】
Adam Roszyk
【価格】
1000円

具体的な取得可能面積についての情報は公開されていませんが、「自宅の空間スキャンを行いたい」という開発者のニーズから生まれたアプリのため、最大でも数百平方メートル程度と考えるのが妥当でしょう。

一方で、Perspectorにはない特徴として備わっているのが、独自のAI処理と思われる、壁や床などの自動認識機能です。

ビジュアル的にPerspectorほどの派手さはありませんが、次々に周囲がラベル付けされていく様子には、やはり独特の爽快感があります。

同じく、Scan Exportのアイコンを見つめて、ハンドジェスチャで起動します。
アイコンメニューの[Start Scanning]を選ぶと、Perspectorほどの派手な視覚効果や効果音はないものの、壁やドア、天井、床などがリアルタイムで判別され、ラベルが付けられていきます。
階段の踊り場もフロアとして認識されています。

また、スキャンしている最中にも、すでにデータ化された上下の階のスキャン結果が透過して表示される点は、ARならではの空間表現ではありますが、やや煩雑に感じられることも事実です。

このあたりは、隠れた場所を非表示にするオクルージョンのオン/オフを選択できる設定があってもよいと感じます。

この画像では、スキャン済みの下の階のフロアの壁や手すりが透視されて見えています。
エレベーターホールから非常階段に出るドア越しに見えているのは、先に上がってきた階段です(このマンションには2系統の非常階段がある)。

スキャン結果の保存やプレビューは明示的なメニューから行う方式で、Perspectorと同じく、任意の場所にAR表示した俯瞰データをさまざまな角度や距離から見ることができます。

保存されるファイルはUSDZ形式なので、閲覧が主な目的である場合には使い勝手がよいといえるでしょう。

スキャンの開始地点に戻ると、アイコンメニューが表示されたままになっているので、[Save Scan]でデータを保存し、Preview Scanで確認します。
プレビュー画面から[自分のスペースで表示]を選択すると、スキャン結果が目の前の空間にAR表示されます。
Scan Exportの保存データはUSDZ形式なので、AVP内だけでなく、ほかのApple製品のQuick Lookでも確認できます。
Scan Exportを使ってマンションの2階分の廊下と階段をスキャンしたサンプル動画。

取得データの精度や用途に関する考察

図版や動画からもわかるように、PerspectorもScan Exportも、スキャン精度はさほど高いようには見えません。

AVPのLiDARはiPhone ProシリーズやiPad Proなどと同様に、約256×192ピクセル相当の深度マップに基づいてメッシュを生成しているとされ、細かなディテールの再現性はプロ用のレーザースキャナには及ばないのです。

ところが、両アプリとも作者の説明では、High-precision、つまり高精度な3Dスキャンが可能となっています。

これはどういうことでしょうか?

実際のところ、家具や壁の位置・寸法を数センチ単位で把握するには十分なレベルにはあり、開発者コミュニティでも、部屋全体の大まかな寸法やレイアウトの把握には実用的な精度があるとされているので、このことをもってスキャン可能な全体面積に対して「高精度」と言っているようです。

何より、iPhone ProやiPad Proによる手持ちスキャンよりも空間全域を素早くムラなく計測しやすいという利点があるので、同じ精度でも作業効率がよく、広い面積を対象とする建築用途などにより向いていると考えられます。

たとえば、本格的な家屋のリノベーションのためにはメジャーやレーザー距離計による正確な寸法の割り出しが必要ですが、プラニング段階では手早く現状の部屋割りや位置関係を把握して、アイデア出しに活用できることのほうが重要でしょう。

その意味では、現場の下見の際にAVPを装着して歩き回り、必要と思われる場所を覗き込むだけで、短時間のうちに3Dデータが得られるAVPとこれらのアプリは、ほかにはないメリットがあるといえそうです。

建築家がスタッフやクライアントと一緒に対象となる建物の空間構成を確認する用途にも、各部屋のつながりや配置を、立体模型なしにその場で俯瞰で検討できるので、図面だけでは伝わりにくい空間のイメージを共有する助けもなるでしょう 。

もちろん、高価なレーザースキャナなどを使った既存構造の計測も可能ですが、それに比べればPerspectorやScan Exportでは、AVP込みでもはるかに低コストで大まかな把握ができるわけです。

今後、これらのアプリに家具のレイアウト機能や、必要箇所にARで指示を書き込めるような機能が追加されてくれば、より広範囲な用途に対応でき、有用性も増すことになっていくものと思われます。

著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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