2024年5月22日、Appleは心房細動履歴の機能が日本のApple Watchでも利用可能になったと発表しました。慶應義塾大学医学部循環器内科の木村雄弘医師に、心房細動履歴機能の適切な使用方法とその利点について詳しく聞きました。
木村雄弘医師
慶應義塾大学医学部循環器内科。不整脈専門医として活動する一方、AIを活用したデジタル医療の研究にも尽力。最新ICTと医療を融合させる治療環境の構築に取り組んでいます。
心房細動と診断された人のための機能
iOS 17.0とwatchOS 10.0以降で利用できるようになった「心房細動履歴」機能は、心房細動(AFib)の患者にとって朗報と呼べるニュースです。心房細動は、治療をせずに放置すると脳卒中を引き起こす可能性がある不整脈の一種で、国内の患者数は約100万人以上と推定されています。特に年齢が上がるにつれてリスクは高まりますが、自覚症状が現れないこともあるため、早期発見と適切な治療が極めて重要です。Apple Watchによって日常生活での心房細動の兆候を自動で記録できる心房細動履歴機能は、患者自身が症状を認識する手助けにもなります。
しかし、木村医師は新機能の誤用のリスクについて、「今回利用が可能になった心房細動履歴の機能は、心房細動と診断された患者様のためのアプリケーションです。一方、これまで利用可能であった心電図や不規則な心拍の通知の機能は、これまで心房細動と診断されたことがない人のためのアプリケーションです。いずれも家庭用医療機器アプリケーションとして医療に補助的に活用できます」と話します。
また、Appleのプレスリリースにも「この機能は心房細動と診断された22歳以上の人が対象です」と記述されています。しかし、多くのユーザはこの使用対象や目的を正しく理解していない可能性があるのではないでしょうか。
心房細動履歴機能を使用開始する際には、これまでの診断についての確認の画面が表示され、不規則な心拍の通知か心房細動履歴のいずれか1つの機能を有効になる仕様となっています。
「Apple Watchは、装着している間の心拍を監視して不規則なリズムがあるかどうかを定期的にチェックしてくれます。取り返しのつかない合併症を起こす前に、無症状な心房細動を検出してくれる可能性があります。一方で、心房細動と診断された患者様の場合、病院に通院したときの検査だけでは心房細動の発作がどれくらいの頻度で起きているかを把握するのは困難です。Apple Watchは、日々の生活で習慣的に装着され、その間、脈拍が心房細動らしいかを見張ってくれます。これを客観的な数値として把握できることは、病院外での生活の見守りにつながります」



心房細動履歴を正しく活用する手順
すでに心房細動の診断を受けているユーザは、心房細動履歴機能を有効にするためにいくつかのステップを踏む必要があります。まず、iPhoneの「ヘルスケア」アプリの[心房細動履歴]から初期設定を開始します。
設定は簡単で、ガイドに従って数ステップで完了します。特に重要なのは、設定の途中で表示される「知っておくべき5つのこと」を患者自身がしっかりと読んで把握することです。これにより、心房細動履歴機能の目的とその限界を正確に理解することができるでしょう。
木村医師は同機能の意味合いについて次のように説明します。
「Apple Watchが検出した心房細動の兆候は週間レポートとして表示されます。これらのデータはアクティビティや睡眠時間などApple Watchの記録とともに表示できるため、生活習慣との関連を見ることもできます」
心房細動履歴は、病院での検査だけでは把握できない患者の日常生活の状況を知るための補助的な機能という位置づけです。木村医師によると、「ご家庭でご自身でApple Watchで記録したデータを印刷して外来に持参される患者様も増え、iPhoneを一緒に閲覧しながら治療計画を考えることも多くなりました」といいます。
「Apple Watch自体は医療機器ではありませんので、そのデータだけを元に診断をすることはできません。しかし、それを補助的に活用して医学的検査に基づいた診断に迅速に結びつけることが、我々専門医の責務だと感じています」
Apple Watchはヘルスケアデータを測定するためだけに身につけるのではなく、SNSの通知や電子決済など日々の生活を快適に過ごすために装着されます。その間に記録され続けるライフログの蓄積は、自身の健康のために役立てることができるでしょう。







著者プロフィール

栗原亮
1975年東京都日野市生まれ、日本大学大学院文学研究科修士課程修了(哲学)。 出版社勤務を経て、2002年よりフリーランスの編集者兼ライターとして活動を開始。 主にApple社のMac、iPhone、iPadに関する記事を各メディアで執筆。 本誌『Mac Fan』でも「MacBook裏メニュー」「Macの媚薬」などを連載中。