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幻のColor Classic「Mystic」/今井隆の「Think Vintage.」

著者: 今井隆

幻のColor Classic「Mystic」/今井隆の「Think Vintage.」

コードネームは「Mystic」

Color Classic IIがリリースされた1993年10月、エントリーモデルのシリーズに初めて高性能CPUであるMotorola 68040シリーズを搭載したMacが登場した。その名は「LC 475」。

XC68040からFPU(浮動小数点ユニット)を省略した25MHz動作のXC68LC040を搭載し、その性能はLC IIIを大きく上回りQuadraシリーズに匹敵した。

LC IIをベースにColor Classicが設計され、LC IIIからColor Classic IIやLC 520/550が誕生した経緯から、LC 475をベースに68LC040 CPU搭載のColor ClassicシリーズやLC 500シリーズが開発可能なことは容易に想像できた。

Color Classic II登場後のデスクトップ型Macのラインアップ。Color Classic Ⅱの登場と合わせて、エントリーモデルでは初となる68LC040搭載のLC 475が登場し、その圧倒的な性能と低価格でユーザを魅了した。その高性能がいずれColor ClassicやLC 500シリーズにももたらされることが期待された。

初代Color Classicがリリースされた1993年初頭から68LC040搭載モデルの検討が進められていたらしく、Color Classicシリーズには「Mystic」、LC 500シリーズには「Optimus」のコードネームが割り当てられていたとされる。

両者はColor Classic IIおよびLC 550と同様、共通のロジックボードを採用しており、本体に搭載された際のモニタID(ディスプレイ識別信号)によってモデルが区別される仕組みになっていた。

つまりMysticとOptimusのロジックボードは同一と考えられた。

残念なことにColor Classic IIがリリースされる前にMysticの製品化は中止されたようで、正式な製品名を与えられることなく幻の存在となった。

一方Optimusは「LC 575(Performa 575)」の製品名が与えられ、1994年2月に正式にリリースされた。

このように、開発が進められながらも製品名が与えられることなく幻と消えたMacは他にも存在する。

よく知られている存在としては、Power Macintosh G3シリーズ(ベージュ)の最上位モデルとなるはずだった「OakRidge」(Power Expressとも呼ばれる)がある。

Power Macintosh G3 MTがPower Macintosh 8600のミニタワー筐体にG3ロジックボード「Gossamer」を搭載して登場したように、OakRidgeはPower Macintosh 9600のフルタワー筐体に大型のロジックボードを搭載し、12基のメモリスロットと6基のPCIスロットを備えたハイエンドモデルとして計画されていたようだ。

筆者のColor Classicに搭載されていたLC 575のロジックボード。基板裏面に2個のROMチップを搭載する。このボードはCPUをFPUを内蔵する68040HRC33に換装し、バックアップバッテリも入手性の問題から当時のMacで一般的だった1/2AAタイプに交換している(もともとは特殊な角形電池だった)。LC 575のロジックボードには1/2AAのバッテリソケットを実装するためのスルーホールが用意されているので、ジャンクのMacから取り外したソケットがそのまま実装できた。基板上のジャンパ線が、この個体が筆者によるさまざまな実験の対象となっていたことを物語る。
それまで1チップ構成だったチップセットは、メモリコントローラとI/Oコントローラに分離された。これはモデルごとに独自の単一チップを開発するのではなく、複数の用途別チップを組み合わせることで部品の共通化による開発コストの削減を狙ったものと推測される。またPDSは廃止され、新たに拡張スロットとコミュニケーションスロットが追加された。

時代の流れに翻弄されたMystic

MysticとOptimusの開発が終盤を迎える頃には、すでにColor Classicシリーズの販売数は伸び悩んでいたと推測される。

この頃はいわゆる「マルチメディア」と呼ばれるオーディオビジュアルコンテンツがCD-ROMなどで普及し始めた時代で、それらのアプリを実行する上でCD-ROMドライブが欠かせなかった。

また当時のMac OSである「漢字Talk 7.1」はCD-ROMなら1枚で済むところ、1.44MBフロッピーディスクでは26枚にもなっていたこともあり、もはやMacにとってCD-ROMドライブは必須のアイテムとなっていた。

Color Classicでも、外付けのCD-ROMドライブをSCSIポートに接続することで対応することはできた。

しかし一体型Macは必要な機能が揃った「All in One」が特徴であるにもかかわらず、CD-ROMドライブを搭載しないClassicシリーズは、他のMac(特にLC 500シリーズ)に対して大きなハンデを背負っていた。

そしてもっとも深刻だったのがディスプレイの解像度で、この当時の市販コンテンツやゲームなどの多くが640×480ピクセル以上のディスプレイを要求した。

これらのアプリはColor Classicでは実行できないか、実行できても「クリックできないエリア」が発生してほとんど使い物にならなかった。

このような背景からColor Classicの最後のモデルチェンジは見送られ、Mysticは幻のモデルになったのだと筆者は考えている。

Mysticの実用化と新たな障壁

実際にリリースされなかったとはいえ、MysticはColor Classicの本体にLC 575と共通のロジックボードを搭載したモデルだったため、実在するColor ClassicとLC 575のロジックボードを組み合わせることでMysticを自作することができた。

筆者の所有するColor ClassicにはLC 575のロジックボードが搭載され、LC 575のリアパネルから切り出したパネルが装着されている。拡張スロットにはLC PDS用に設計されたLANカード「HM-LC PDS」が搭載されており、今となってはこのMacが外部とデータをやりとりするための貴重なインターフェイスとなっている。10baseTおよび10base2の各ポートは排他仕様で、同軸ケーブルを使う10base2は今ではほとんどお目にかからない。

当時のMac OS(漢字Talk)では新しいMacに対応するために「System Enabler」と呼ばれるシステム機能拡張ファイルが使用された。

Mysticは漢字Talk 7.1とSystem Enabler 065 Ver.1.1の組み合わせでのみ起動することができる(Enabler 065 Ver.1.0やVer 1.2以降では起動できない)。

しかし漢字Talk 7.5以降ではMysticがサポートされなくなり、起動することすらできなくなった。

これはMysticのシステムID(Gestalt ID)「99」が、1995年4月にリリースされたLC 580(Performa 588)に使用されたことによるもので、ハードウェアの認識異常によってシステムが正常に動作できなくなったと考えられる。

この時代のMac OSでは、システム関連ファイルは「システムフォルダ」と呼ばれる特別なフォルダに格納されていた。その中でSystem Enablerは新しいMac(ハードウェア)が登場した際に、それを既存のMac OSに認識させるうえで重要な役割を果たした。そしてSystem Enablerが果たしていた機能は、次のバージョンのMac OSに統合される仕組みだった。

対策としてはMac OSに本体がLC 575(Gestalt ID : 92)だと誤認させることで、Mac OS 9の最終バージョン(9.2.2)まで正常に動作させることができる。

その手法としては、ロジックボードに手を入れてシステムIDを変更する方法と、内蔵ディスプレイを高解像度化(640×480)する方法の2つが存在した。

次回は、Color Classic内蔵ディスプレイの高解像度化についてご紹介しよう。

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著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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