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M3/M3 Pro/M3 Max 業界トップの電力効率を誇るAppleシリコンの脅威のメカニズム

著者: 今井隆

M3/M3 Pro/M3 Max 業界トップの電力効率を誇るAppleシリコンの脅威のメカニズム

画像●apple

3nmプロセスによる性能の底上げ

M3、M3 Pro、M3 Maxに採用されている半導体プロセスは、業界最先端の3nmプロセステクノロジーで、EUV露光(極端紫外線リソグラフィ)によりシリコン上に微細なトランジスタを形成している。これにより、M3ファミリーは従来のサイズにより多くのトランジスタが集積されているだけでなく、それらをより高速動作させることで全体の性能を引き上げている。

3nmプロセスは2023年9月に発表されたiPhone 15 Proシリーズが搭載する「A17 Pro」にも採用されているが、M3ファミリーはこれをベースにMac向けに再設計されたAppleシリコンである。

M3ファミリーはすべて、最新の半導体製造技術であるEUV露光による3nmプロセスで製造されている。さらにM3 ProはM3 Maxからの派生ではなく新たに再設計され、従来とは異なるアプローチで開発されたことがリソグラフからもわかる。
画像●apple

次世代プロセスの導入によってCPUの動作速度は、M2シリーズの最大3.48GHzからM3ファミリーでは4GHz超えとなる最大4.05GHzへと引き上げられた。さらにCPUの高性能コアは分岐予測の改善と命令デコーダおよび実行エンジンのワイド化、高効率コアは分岐予測の改善と実行エンジンのパイプライン深化が実施され、動作速度の向上と合わせて処理性能が底上げされている。

M3ファミリーでは動作速度の向上とアーキテクチャの更新によってCPU性能が底上げされたが、特に伸び幅が大きいのが高効率コアだ。macOSはAppleシリコンの高効率コアを優先的に使うことから、体感速度の向上に効果が高い。
画像●apple

さらにNeural Engineも強化され、同じ16コア構成ながら従来(M2シリーズ)の最大15.8GTOPSから最大18TOPSへと性能が引き上げられた。しかし、不可解なことにA17 Proに搭載された最大35TPOSの新エンジンは、M3ファミリーには採用されなかったようだ。

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大幅強化された次世代GPU

発表イベントでCPUより優先して紹介されていたように、M3ファミリーの目玉は次世代GPU「Next-Generation GPU」だ。このGPUデザインは、A17 Proに採用された「Pro-class GPU」をベースとしており、WWDC22(世界開発者会議)でリリースされたmacOS、iPadOS、iOSの新しいグラフィックAPI「Metal 3」に合わせてアーキテクチャが進化している。

この次世代GPUでは、メモリの利用効率を改善する「Dynamic Caching」、メッシュ処理性能と効率を向上する「Mesh shading accelerator」、3Dレンダリングでのレイトレース(光線追跡)処理を加速する「Hardware accelerated ray tracing」などが新たにサポートされた。

M3ファミリーに共通するのが、次世代GPUによるMetal 3のハードウェア・アクセラレーション機能だ。メッシュ・シェーディングやレイ・トレーシングなどを利用する3Dソフトやゲームなどが次世代GPUに対応することで、その威力を発揮する。
画像●https://www.youtube.com/watch?v=ctkW3V0Mh-k

なお、次世代GPUの新機能をフル活用するには、ソフトウェア側のMetal 3および新機能への対応が必要であり、従来のグラフィックソフトのすべてが大幅に高速化されるわけではない。

※この記事は『Mac Fan』2024年1月号に掲載されたものです。

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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