※この記事は『Mac Fan』2019年3月号に掲載されたものです。
最少・最軽量モデルながら弱点もあったPowerBook 100
Appleが、後のノートPCのデザインに決定的な影響を与えた初代PowerBookシリーズをリリースした頃、Windows陣営のメーカーが同分野で熱心に取り組んでいたのは、薄型・軽量化だった。そして、10〜12インチクラスのディスプレイを内蔵した製品は、ノートPCよりもさらに下という意味でサブノートと呼ばれ、特に日本市場でもてはやされていた。
僕が購入したPowerBook 100は、ノートMacとしては最少・最軽量のモデルで、記事執筆などには十分な性能を備えていたが、大きな弱点があった。それはディスプレイがモノクロLCDで、外部映像出力機能を備えていなかったことだ。自宅には、フルカラー表示が可能なデスクトップモデルのMacintosh IIcx(以下、IIcx)があり、動画編集やマルチメディアコンテンツの制作などはそちらで行うことができたものの、出先でのプレゼンともなればPowerBook 100は使えない。仕方なく、IIcxとカラーディスプレイを車に積み込んで現地に向かうことも少なくなかった。
ノートとデスクトップ、2種類の顔を持つPowerBook Duo
そんな折、1992年に登場したのが、PowerBook Duoシリーズだった。その初代製品はCPUの動作クロックが異なる210と230の2モデルがあり、下位の210でもIIcxより高速で、時の流れを感じさせた(IIcxは1989年のリリース)。僕は、IIcxの倍以上のCPU性能を誇る上位の230を選択したが、これは当時増えつつあったデジタルビデオ関連の作業をこなすうえでも正解といえた。
PowerBook Duoの最大の特徴は、Duoの名のとおり、2つの顔を持っている点にある。1つは、ノートMacとしての顔で、最小限のI/Oポートを備えたサブノート的な使い方ができた。そして、もう1つの顔は、フロッピーディスクドライブやハードディスク、各種I/Oポートをフル装備した専用のドッキングユニット、Duo Dockと合体して得られるデスクトップMacとしての顔である。PowerBook Duoは、自宅や会社では完全なデスクトップマシンとして利用し、外出時には本体だけを持ち出せる、当時としては夢のような製品だった。
手が届かなかったDuo Dock。その精密でエレガントなメカニズム
ノートMacからデスクトップMac、またはその逆の変身を可能な限り簡単に行うために、Duo Dockはビデオカセットデッキに似たメカニズムを持っていた。すなわち、PowerBook Duoを差し込むと、そのまま自動で引き込まれて合体し、イジェクトボタンを押すと、やはり自動的にせり出してきて分離できるのである。
まさに、Appleファン垂涎の精緻でエレガントなメカニズムだったが、PowerBook Duo 230だけでも29万8000円するのに、さらに20万円もかかるDuo Dockには手が出せなかった。PowerBook Duo 230本体のディスプレイはモノクロ仕様だったので、そのままではプレゼンにも使えない。しかし、そこはAppleも考えて、本体の後ろに装着する小型のドッキングユニットで対処できるようにし、接続用スロットの仕様をサードパーティにも公開して、用途に応じた製品を作らせた。
僕は、フロッピーディスクドライブが接続できるものや、外部カラー映像出力機能の付いたものなどを購入して、プレゼンもPowerBook Duo 230でこなせるようになった。目的ごとにドッキングユニットを脱着するのは楽しかったが、それでも、このマシンを使い続けていた間、Duo Dockは常に見果てぬ夢であった。
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著者プロフィール
大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。