9月17日、watchOSの最新版watchOS 11がリリースされました。2023年のwatchOS 10は、コントロールセンターやアプリ画面へのアクセス方法が変わったり、スマートスタックが登場したり、ダブルタップ操作が加わったりする(Apple Watch新モデルのみ)など、かなり大きな変化がありました。それに比べると、今年はマイナーアップデートにとどまった印象です。正直、「どこか変わった?」と感じる方も少なくないかもしれません。
ここでは、最新watchOSをリリースから約2週間使い込んだ筆者が、主な新機能とその使い方をレポートします。
新アプリ「バイタル」で体調を総合的にモニタリングする
アプリ画面に新しく追加された「バイタル」は、寝ている間の各種計測情報をとりまとめ、毎日の変化をチェックするアプリです。計測されるのは心拍数・呼吸数・手首皮膚温・血中酸素ウェルネス・睡眠時間の5項目。どれも以前から計測されている項目ですが、1カ所に集められ、見える化されることで、総合的に自分の体調をモニタリングする“情報”として意味を持ちました。

バイタルは病気の発見を目的としたものではなく、あくまで通常の体調管理の一助となるものです。ちょっと飲み過ぎた、夜ふかしが続いた、自律神経が乱れ気味かも…など、生活習慣や環境による影響が目に見えれば早めの対処につながるでしょう。

Apple Watchが登場した当初、日頃の心拍や呼吸の計測値を蓄積して何か役に立つのだろうかと疑問でした。しかし、10年が経った現在、計測を続けることの価値がだいぶ具体的になってきたように思います。
自覚症状のない「睡眠時無呼吸症候群」が「呼吸の乱れ」のモニタリングで発見できるかも
Apple Watch Series 9以降およびApple Watch Ultra 2では、新たに「呼吸の乱れ」をモニタリングできるようになりました。これは睡眠中の一時的な呼吸パターンの中断を計測し、30日ごとのデータ分析から睡眠時無呼吸の兆候が疑われる場合に通知する、というものです。

睡眠時無呼吸症候群は、放っておくと高血圧、心臓発作、脳卒中などのリスクを増加させる恐れのある、軽視できない症状です。しかし、問題はほとんどの人に自覚症状がないこと。家族に言われて診察を受けても、検査には専用機器や入院が必要です。
この機能ではあくまで「兆候の疑い」ががわかるにとどまります。正しくは医師の診察や詳しい検査が必要です。しかし、自覚症状のない病気を発見するきっかけになるという点では、大きな意味のある機能になるでしょう。ニッチな機能のように見えますが、恩恵を受ける人は意外と多いのかもしれません。
「アクティビティ」で曜日ごとの目標設定が可能に
「アクティビティ」では、ゴール目標を曜日によって変えることが可能になりました。平日はあまり運動の時間が取れない、曜日ごとにトレーニングメニューを変えている、1日おきにトレーニングしているなど、自分のスタイルにあわせて柔軟な目標設定が可能です。

さらに、休息日を設けたり、ケガや病気で身体を動かせない期間がある場合は、フィットネスの計測を休止させることが可能になりました。計測そのものが行われないので、閉じないとわかっているリングを気にすることなく、ゆっくり身体を休めることができます。

Apple Watchを毎日使っているとリングの存在が当たり前になり、閉じれば達成感が得られます。それはモチベーションであると同時に、「リングを閉じる」という目標に縛られた状態と言ってもいいでしょう。この機能を使うことで、休むべき時は目標も達成感もいったん置いてしっかり休みましょう、という意図があるのかもしれません。開発された背景をちょっと考えさせられてしまいました。
自己流トレーニングで身体を壊さないために新機能「トレーニングの負荷」を利用しよう
「アクティビティ」には「トレーニングの負荷」という項目も追加されました。これは、ワークアウトの強度・時間がユーザの身体におよぼす影響を長期的に計測する指標です。指標は「エフォート評価(難易度)」とワークアウトの長さをもとに算出されます。直近7日間のトレーニング負荷が、過去28日間に対してどの程度だったのかを「かなり下」「下」「一定」「上」「かなり上」の5段階で示します。

エフォート評価は、毎回のワークアウト後のサマリー表示に[難易度]として10段階で示されるもの。有酸素運動等では基本的に自動で算出され、体感にあわせて手動で調整も可能です。筋トレ系では自動算出されないため、自分で入力します。

こうして蓄積されたデータから、現在のトレーニングが身体にどの程度の負荷を与えているのかを確認できます。トレーニングの強度を適切に調整することに役立つでしょう。過度なトレーニングによるケガや疲労の蓄積を避けたいアスリートはもちろん、つい飛ばしすぎてしまう初心者や、トレーニング効果を実感しにくくなってきた中級者など、自己流でトレーニングをしている一般人にとっても活用する価値のある機能といえます。
手首ですぐに確認! 「翻訳」と「潮位」アプリが新登場
このほか、新しいアプリとして「潮位」と「翻訳」が加わっています。簡単にご紹介しましょう。まず「潮位」は、この先7日分の潮汐や天候の情報を確認できるアプリです。

続いて、iPhoneではおなじみの「翻訳」アプリ。同様の使用感を備え、iPhoneをわざわざ取り出す必要がない分、よりスマートに会話に利用できそうです。

watchOS 11のアップデートを俯瞰すると、Apple Watchユーザがより“自分のやり方を最適化する”ための柔軟性が強化された印象です。とはいえ、使い込んできたユーザにハマる部分があるとしても、確かに地味ではあります。
しかし誕生から10年を経てユーザの裾野も広がり、もはや万人に求められる新機能はそうそう出るものではありません。その意味では、プロダクトとして成熟した段階にあるといえるでしょう。次にwatchOSが大きく変わるとしたら、ハードウェアに大きな変化があるときかもしれません。
著者プロフィール

笠井美史乃
アプリ、サービス、マーケティングなど、IT・ビジネス分野で取材・執筆・編集を行う。マイナビニュースでは2013年開始の連載「iPhone 基本の『き』」をはじめ、iPhone・iPad・Apple WatchなどAppleデバイスのハウツーやレビューを担当。雑誌「Web Designing」「Mac Fan」、その他企業オウンドメディアなどで執筆中。