2024年8月、国内屈指のサーフポイントである茨城県大洗海岸で、JPSA(日本プロサーフィン連盟)主催の「S.LEAGUE」ツアーが開幕しました。ショートボードとロングボードのカテゴリで総勢214名のプロおよびアマチュア選手がエントリーした今大会では、4人1組でのヒート(試合)で選手のライディングがリアルタイムで採点されます。このジャッジシステムを開発した株式会社治郎吉商店の代表であり、サーフィン愛好家でもある白石亘さんに開発の経緯を伺いました。
撮影:黒田 彰
株式会社治郎吉商店
代表取締役
白石 亘さん
サーフィン大会の運営にはテクノロジーの導入と
明瞭な採点システムが必要不可欠です
選手のライディングをリアルタイム採点
MF●まず、サーフィン競技の基本ルールや採点システムについて簡単に教えていただけますか。
白石●詳細は主催団体や大会によって異なる場合がありますが、世界標準のルールでは2〜4人の選手が通常20〜30分のヒートで争います。採点は1本のライディングに対して、通常3〜5人のジャッジがテクニックや技の種類、難易度やスピードなどの要素を10点満点で評価していきます。
MF●ライブ中継の映像を見ると選手のスコアに「P」という文字が表示されますが、これは何を意味しているのでしょうか。
白石●これは優先権(プライオリティ)のことで、選手が順番に波に乗ることで、ほかの選手からの妨害を防ぎ、競技の公平性を保つためのものです。優先権をどのように行使するかは選手間の駆け引きの要素となり、サーフィン競技の見どころでもあります。
MF●そんな中で、採点アプリはどのように使われていますか。
白石●この大会では、5人のジャッジがiPadミニを使用し、4人の選手の得点をタップして入力しています。集計されたデータはリアルタイムで会場のMC(進行係)のiPadにも表示され、獲得点数や順位のコール、逆転に必要なポイントや残り時間などがアナウンスされます。また、優先権に関しては、会場に設置された電光掲示板にも表示され、沖にいる選手が確認できるようになっています。
MF●ライブ配信と連携させる場合、現地でネットワークを構築することが求められますね。
白石●そうですね。大会会場が毎回違うので大変ですが、現地ですぐにフィードバックをいただけますし、内容によってはその場で反映させることもあります。
サーフィンを熟知した独自の運用ノウハウ
MF●どのような経緯でサーフィン競技の採点システムを開発することになったのでしょうか。
白石●30年ほど前でしょうか。もともと私自身がサーフィンを楽しんでおり、会社の所在地である鎌倉はサーフポイントですので、JPSAさんと知り合う機会がありました。プロスポーツとしての普及には、テクノロジーの導入と競技者以外にもわかりやすい採点システムが必要だという話を伺ったことが、開発のきっかけです。システム導入前は手計算で集計して、試合が終わってから順位がわかる仕組みでした。それを1本のライディングごとに採点したいというご希望があり、当時アップルから発売していたPDA(携帯情報端末)の「Newton」を採用したんです。
MF●その頃からアップル製品を活用されていたんですね。
白石●採点入力アプリにはパソコンに不慣れな人でも素早く操作できる優れたユーザインタフェイスが、採点を受信して集計するサーバアプリにはネットワーク通信も含めた高速な演算機能が必要だと思いました。結果としてNewtonに電卓のような採点入力システムを実装し、Macに独自のプロトコルで通信するクライアントサーバシステムを実装。NewtonとMacはPhoneNetコネクタを使って接続し、AppleTalkプロトコルで通信していました。まだTCP/IPもインターネットも普及していないころの話です。
MF●その後、iPadに移行されるわけですね。
白石●2010年にiPadが発売されてから、操作デバイスとしての可能性を感じ、すぐに置き換えました。海辺のような過酷な環境でも故障しにくい耐久性の高さも魅力のひとつですね。さらに専用の木箱(写真参照)を製作し、直射日光と雨風を防いでいます。
日本プロサーフィン連盟事務局インタビュー
「Appleのテクノロジーとともに競技の成長を目指します!」
一般社団法人 日本プロサーフィン連盟
事務局長
久米寿朗さん
プロスポーツとしてのサーフィン競技の普及と発展を目指すためには、世界に通用する選手の育成はもちろん、サーフィンを“見て楽しむ”ファンを増やしていくことが必要です。
その鍵となるのがITやインターネットと考えていて、JPSAではいち早く大会において採点システムの導入やネットでの動画配信などに取り組んできました。今年から新たに「S.LEAGUE」(A https://sleague.jp)として始まったツアーでも、治郎吉商店さんの採点システムをはじめ、ドローン空撮や動画プラットフォームでのライブ配信などを用いてイベント全体を盛り上げています。
また、海外の大会ではApple Watchを選手に渡して、競技中に優先権やポイントを確認できるといった取り組みが始まっているとも聞いています。選手のモチベーションを高め、視聴者にサーフィンの面白さを知ってもらうには、世界に先駆けて最先端のテクノロジーを取り入れていくことが重要だと考えています。
※この記事は『Mac Fan』2024年11月号に掲載されたものです。
著者プロフィール
栗原亮
1975年東京都日野市生まれ、日本大学大学院文学研究科修士課程修了(哲学)。 出版社勤務を経て、2002年よりフリーランスの編集者兼ライターとして活動を開始。 主にApple社のMac、iPhone、iPadに関する記事を各メディアで執筆。 本誌『Mac Fan』でも「MacBook裏メニュー」「Macの媚薬」などを連載中。