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「Mac OSで日本語入力」に立ちはだかった3つの障壁。ブレイクスルーを起こした「漢字Talk」と「SweetJAM」の一長一短を振り返る

著者: 大谷和利

「Mac OSで日本語入力」に立ちはだかった3つの障壁。ブレイクスルーを起こした「漢字Talk」と「SweetJAM」の一長一短を振り返る

※この記事は『Mac Fan』2018年5月号に掲載されたものです。

Mac OSの日本語入力に立ちはだかった“3つの障壁”

Mac OS(現在のmacOSとは、表記が異なる初期のもの。当時は単に、System 1.xのように呼ばれていた)は、初めから各国語へのローカライズを意識した設計になっていた。画面に表示されるメニュー項目やメッセージなど、言語に依存する部分をメインのプログラムから切り離し、リソースと呼ばれる別データにしたのだ。

では、日本語版も簡単に用意できそうに思えるが、理屈ではそうでも、現実には3つの問題が立ちはだかった。

①英字よりもはるかに数の多い日本字のデータをどうするか?
②英字と比べて画数の多い漢字を、512×342ドットしかないモノクロ画面でどのように表示するか?

③英語システムにはない、かな漢字変換機能をどう組み込むか?

もちろん、僕を含めて初期の熱心なユーザは、GUI(グラフィカルユーザインターフェイス)ベースのコンピュータやアプリケーションそのものに興味があったので、日本語環境がないことは脇に置いて、Macでしか味わえない世界を堪能することに夢中だった。

また、OSレベルではないが、エルゴソフトのEGWord(当時は「EgWord」)がアプリ内だけの独自環境を構築し、日本語ワープロを実現していた。僕は原稿をそれで書いたり、打った文字をスクリーンショットで画像化してMacPaintなどにペーストするというMacならではの方法で大いに活用した。

しかし、Macが日本市場に本格的に受け入れられるためには、OSレベルでの日本語化は必須であり、悲願でもあった。

一長一短な「漢字Talk」と「SweetJAM」

Apple本社の対応の遅さにしびれを切らしたキヤノン販売は、第2世代モデルのMac 512Kに独自の漢字ROMを搭載し、EgBridgeというエルゴソフトの日本語化ツールをバンドルしたDynaMacを発売した。だが、それも根本的な解決とはいえなかった。

ようやく、Macintosh Plusの時代になって、System 3.0をベースに日本語フォントとかな漢字変換などを組み込んだ「漢字Talk」がリリースされた。ところが、漢字の線がつぶれずに表示できるように、同じフォントサイズ設定でも、英字の約1.5倍の大きさで表示されるようになっていたため、文字の並びがお世辞にも美しいとはいえない。しかも、漢字Talkに対応させるにはアプリケーション側にも手を加える必要があり、ローカライズのタイムラグも無視できないほど大きかった。

もう1つの選択肢は、英語のシステムとアプリケーションを、そのまま日本語化するという離れ業をやってのけた、エー・アンド・エーの「SweetJAM」(JAMは、Japanese Attachment for Macの略)だった。こちらは、漢字の線が多少潰れても、英字とサイズ感を揃えるという美学を貫いた。

反面、英字とはバイト数が異なる日本字を削除する際に、1文字につきデリートキーの2度押しが必要となるなど、使用感にはややクセがあった。

それでも、主要アプリケーションの最新版が、すぐに日本語で使えるという魅力には抗し難く、僕も含めて多くのユーザがSweetJAMを愛用していたのである。

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著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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