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マイワークスタイル その1 物技交換〈後編〉/四角大輔の「Mobile Bohemian 旅するように暮らし、遊び、働く」 【第9話】

著者: 四角大輔

マイワークスタイル その1 物技交換〈後編〉/四角大輔の「Mobile Bohemian 旅するように暮らし、遊び、働く」 【第9話】

ニュージーランド移住直前に、愛用していたアウトドアブランドと結んだ「道具やウェアとぼくのスキルの交換」が、初の〝物技交換契約〟だったと前号で書いたが、より古いものがあったことを思い出した。

あれは確か2000年だから、今から16年も前のこと。当時はまだレコード会社の若手で、アシスタントプロデューサーとして修行をしていた頃の話だ。

小学生のときから愛用していた釣り具メーカー開催の、「釣りのセミプロ」なるものを募集するオーディションを受けたことがきっかけだった。幸運にも、数百という倍率を勝ち抜いて合格。現在では、アウトドアアスリートとして、複数のブランドのサポートを受けられているが、事実上それが人生初のスポンサー契約になった。

ただ問題があった。当時はソニーミュージックの正社員として勤務しており、社内規定では「収入の伴う副業は禁ずる」となっていたのだ。なので、現金を受け取らない形で物品提供のみ、とさせてもらった。しかも、物品授与も厳密には「収入扱い」となってしまうため、「貸与」という形態をとらせてもらうことに。

メディア露出する際に、その道具とウェアを身に付けることで宣伝協力となる。ぼく自身、喉から手が出るほど欲しいものを無償で使うことができるという〝物技交換〟が、意図せず成立した瞬間である。

当時は、「物々交換」や「スキル交換」といった概念はまだ頭になく、スポンサーとぼくにとって、最適な方法を模索した結果そうなっただけ、ということだった。

その経験があったからこそ、移住直前2009年の、某アウトドアブランドとの契約時に、自然に〝物技交換〟を提案できたのだと、今は確信している。それ以降、今日に至るまでの7年間、ぼくは意識的に、お金を介在させない契約や取引をどんどん増やしていくようになった。

停滞する現在の日本経済において、企業にとっては負担が少ないためか、お金よりも物品提供のほうが喜ばれることが多いという事実を、その中で学ぶことができた。

最後に、ぼくが〝物技交換〟にこだわる本当の理由を述べたいと思う。

為替を見ればわかるように、お金は秒単位で価値が変化している。円ベースで考えると、テロや社会的事件が起きたり、サプライズを伴う経済指標が発表されるたび、円の価値は恐ろしいほど上下する。

そして何より怖いのは、過去20年、複数の国で起きた、国家破産に伴うハイパーインフレである。これは、ある日突然、国が破産宣言をすることで、その通貨の価値が百分の一や、千分の一にまで一気に下がることである。これは決して遠い国の話ではない。日本でも過去に起きているし、日本は世界一の債務超過国という事実もある。

つまり、お金や株などの〝紙モノたち〟は突然、文字どおりの「紙切れ」になるリスクがある、ということだ。でも〝実態が伴うモノ〟の価値がゼロになることはない。

多くの物が市場で取引されているが、値がつかなくなることはないだろう。そして、体験やスキルなどの体に刻み込まれた目に見えないモノは一生残る、というメッセージでこのテーマを締めくくりたい。

タイ北部チェンライの、無農薬の田んぼリゾートより。(Photo:Daisuke YOSUMI’s iPhone)

※この記事は『Mac Fan 2016年9月号』に掲載されたものです。

著者プロフィール

四角大輔

四角大輔

作家/森の生活者/環境保護アンバサダー。ニュージーランド湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営み、場所・時間・お金に縛られず、組織や制度に依存しない生き方を構築。レコード会社プロデューサー時代に、10回のミリオンヒットを記録。Greenpeace JapanとFairtrade Japanの日本人初アンバサダー、環境省アンバサダーを務める。会員制コミュニティ〈LifestyleDesign.Camp〉主宰。ポッドキャスト〈‪noiseless‬ world〉ナビゲーター。『超ミニマル・ライフ』『超ミニマル主義』『人生やらなくていいリスト』『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』『バックパッキング登山大全』など著書多数。

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