世界一美しい島、ギリシャのサントリーニ島のカフェでこの原稿を書いている。
今回の旅はトータルで約6週間。立ち寄る街は全13都市。南ヨーロッパを列車とレンタカーで濃密に移動し、最後は北上する。そして、パリから空路で中東の都ドーハへ。
そこでは「ピースボート」という客船での、約20日間の洋上生活が待っていた。時速30キロメートルのゆったりとした速度で、アラビア海から紅海に入り、スエズ運河を抜ける。そのあとは地中海を航海し、ヨーロッパ各国を移動し散策するという行程だ。なお、ぼくは船上で行う講演の仕事で乗船しているので、短期間だが、乗客はみな3カ月かけて地球を一周する。
ぼくが旅先に着いて最初にする行為は、景色がいいエリアを歩き回り、その街で一番の絶景カフェを見つけ出すこと。当然そのカフェでのベストの席を狙う。そして、この写真のように、もしそれが〈水際〉であれば完璧。「なぜ水際か?」に関しては、当連載をとおして、徐々に語っていくことになるので、今回は割愛したい。
ぼくは年の半分以上を、移住先であるニュージーランドの、原生林に囲まれた湖で過ごす。残りを、母国である日本とその他の国々に割り当てている。1年が終わってみると、年によって違うが、だいたい地球を3〜5周していることになる。
ぼくにとって旅における至福のシチュエーションは、訪れた先の美しい場所でMacBookを開いて仕事をしているとき。有名な観光地を廻るのもいいが、現地でしか見られない景色と、そこでしか味わえない空気感によって、集中力はマックスまで引き上げられる。それをMacBookにぶつけている時間が、何よりも幸せなのだ。
「旅先でたいへんですね」とときどき言われるが、ぼくは単に「自分がもっともクリエイティブになれる場所」を探して旅を続けているだけ。この地ならではの風の匂い、眼に飛び込んでくる独特の配色、はじめて耳にする雑踏の音、ローカル食材とそこでしか食べられないユニークな料理。これら旅先でしか体感できないさまざまな〈独創的な要素〉が掛け算され、極上のクリエイティブ・タイムをもたらしてくれる。ぼくの創造性は驚くほど上昇し、そこでしか得られない斬新なアイデアや、イノベーティブな思考を手にすることができるのである。
今日はこの原稿執筆、先日受けたロングインタビューの校正、開発中のアウトドアギアのデザインと向き合っていた。どの仕事も、今日この場所でMacBookを開かなかったら、生まれてこなかったオンリーワンの発想ばかり。一度この醍醐味を味わってしまうと、この旅のスタイルと移動生活をやめることはできなくなる。
ぼくの仕事の8割は、〈場所の制約を受けない〉ものばかり。ネットとMacBookさえあれば、ぼくはどこでも働くことができる仕組みを構築している。場所に縛られる仕事は2つのみ。トークライブや大学講義、大自然の奥を目指す冒険のロケ撮影だけだ。
ぼくにとって旅は、最上級の〈遊び〉であり、〈仕事〉だ。〈ライフスタイル〉そのものといってもいいだろう。ここでは、そんなMobile Bohemian(生活旅人)として、ぼくがどう人生をデザインしているのかを、少しずつ綴ってゆきたいと思う。
※この記事は『Mac Fan 2015年12月号』に掲載されたものです。
著者プロフィール
四角大輔
作家/森の生活者/環境保護アンバサダー。ニュージーランド湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営み、場所・時間・お金に縛られず、組織や制度に依存しない生き方を構築。レコード会社プロデューサー時代に、10回のミリオンヒットを記録。Greenpeace JapanとFairtrade Japanの日本人初アンバサダー、環境省アンバサダーを務める。会員制コミュニティ〈LifestyleDesign.Camp〉主宰。ポッドキャスト〈noiseless world〉ナビゲーター。『超ミニマル・ライフ』『超ミニマル主義』『人生やらなくていいリスト』『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』『バックパッキング登山大全』など著書多数。