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修理サポート体制は進化しているのか?

著者: 牧野武文

修理サポート体制は進化しているのか?

購入した製品が初期不良だった場合、その対応はいまだに販売店への持ち込みや返送が一般的だ。 つまり、ハズレを引かされて、手間までかけさせられるということになる。 一方アップルは、サポート体制の面でも先進的な試みをしている。 ECでの販売が増えた今、メーカーの修理サポート体制は進化しているのか。 これが今回の疑問だ。

アップルが再定義した修理サポート

アップルが数々の先進的なプロダクトで未来を発明してきたことは、今さら言うまでもない。それだけでなく、アップルはメーカーと消費者の関係でも大きな改革をしてきた。

アップル製品も工業製品である以上、一定割合の初期不良が生じることは避けられない。多くのメーカーは保証期間内であれば無償で修理が受けられるが、その対応は「販売店か修理センターに持ち込みください」が基本で、ちょっと気の利いたメーカーであってもピックアップサービスをやってくれる程度。不良品をつかまされたうえに手間がかかり、数日間はその製品が使えない状態となる。これは消費者にとって極めて悪い体験で、メーカーに対する忠誠心を大幅に下落させかねない事態なのだが、その危機感を持っているメーカーはさほど多くないように思える。

しかし、アップルは違う。保証修理というアップルにとっても消費者にとっても不幸な事態が発生しても、きちんと対応することでストレスを帳消しにできるばかりか、かえって消費者の信頼も得られると考えているのだ。

素晴らしかったのは、アップルストアによる交換修理というサポート手法だった。2003年、日本初の直営店「アップル銀座」がオープンしてから、アップルはこの交換修理という手法を順次拡大していった。

交換修理は、部品を交換して修理することもあるが、場合によっては本体を丸ごと交換してしまうこともある。ただし、新品交換とは限らない。俗に「再生品」ともいわれるリビルト品の場合があり、アップルはこれを「性能と信頼性の面で新品と同等の整備済み製品」と呼んでいる。保証修理などで回収した製品から利用できる部品を使い、人の手が触れる外装部品に関しては新品を使ったものだ。もちろん、製品検査が行われ「性能と信頼性の面で新品と同等」であることが確認されているし、外装は新しい部品を使っているので一概に「中古品」とも言えない。

この交換修理という手法が素晴らしかったのは、アップルストアに持ち込み修理を依頼し、保証修理の範囲内であることが確認されると、すぐに交換が行われることだ。ほとんど時間がかからない。部品交換の場合も、多くが当日仕上がりになるようにアップルストアのスタッフは努力しているが、それでも、数時間後にもう1度受け取りにいかなければならない。これが本体交換であれば、1度の訪問で済んでしまうこともあるのだ。

リビルト品は「中古品」なのか?

アップルの製品は、ごく一部を除いて、グローバルで同じ製品を販売している。そのため、持ち込み修理はどこのアップルストアでも問題ない。日本で買ったアップル製品を、米国・カリフォルニア州のアップルストアに持ち込んでもかまわないのだ。保証書も不要(ずいぶん前から保証書という紙そのものがなくなっている)。ユーザ登録は電子記録になっているので、アップルストア側で登録情報や保証期間の期日などを把握している。交換修理が可能であれば、短期間の観光旅行中にアップル製品に不具合が出ても、現地のアップルストアで対応してもらえる。

消費者にとってもメリットの多い方法だったが、各国で「アップルは交換修理で中古品を渡している」と指摘され、現在では可能な限り部品交換で対応するようになっているようだ。リビルト品を「新品と同等」と考えるか「中古品」と考えるかは難しいところだが、消費者の手間は増えてしまっている。これは残念なことに思う。

手間を極力省いた アンカーのサポート

そんな中、ユニークなサポート手法を取っているのがアンカー(ANKER)だ。モバイルバッテリやブルートゥーススピーカなどが有名で、今ではロボット掃除機などの家電製品も販売している。直営店もあるが、直販サイトやアマゾンなどのEC販売がメインのメーカーだ。

ここのサポート方針は「保証修理であれば新品交換」が基本になっているようだ(もちろん状況により対応は異なる)。電話やメールで症状を伝えると、多くの場合、すぐに新品交換ということになる。ロボット掃除機など複雑な動きがある製品の場合は、不具合の状況をスマホでムービー撮影し、それを送ることで対応してもらえる。つまり、現物を見ずにユーザからの申し立てだけで、交換対応であるかどうかを判断しているのだ。

交換対応になった場合は、アマゾンで購入した製品なら再度アマゾンの配送システムを使って翌日には新品が到着する。後日、別便で返送キットが送られてくるので、故障品はそちらに入れて送り返せばいい。しかも、ほとんどの製品で保証期間が18カ月もある。

人により考え方は異なるのであくまでも個人的な印象だが、アンカーの製品は安心して購入できる。何か不具合があっても電話1本で新品に交換してくれるので、初期不良や故障が起きたとしても、さほど悪い体験にならない。ほかのメーカーもこの方式を取り入れてほしいと思う。

重視すべきは 台数ではなくコスト

高度経済成長時代に、家電業界は「街の電器屋さん」で全国の販売ネットワークを築いた。販売だけでなく、修理に関しても街の電器屋さんが行っていた。そのため、保証修理の依頼は購入した店舗に持ち込むのが今でも基本になっている。製品が電子化されて修理が難しくなると、街の電器屋さんから修理センターに送る方式が定着していった。

しかし、量販店や通販で購入することが多くなり、多くの電子機器が「半日でも使えないと困る」という環境の今、昔ながらの修理体制でいいのだろうか。

先進的なメーカーは、「製品売上に対する保証修理コスト」という割合を見ながら、すでに修理体制を改善していっている。そのため、修理コストが小さくなる方向(=メーカー/消費者両者の手間がかからない方法)にサポートも進化していく。しかし、いまだに「出荷台数に対する保証修理台数」という割合で修理体制を構築しているメーカーが残っているような気がしてならない。

私たち消費者は、このようなメーカーのサポート体制も品質の一部と考えて、製品を選ぶべきではないだろうか。ネットの口コミ評判は、それを判断する一助となるだろう。

Appleはリビルト品(整備済製品)の販売を行っている。外装に新品部品を使っており、1年間保証がついていてかなりお買い得だ。(【URL】 https://www.apple.com/jp/shop/browse/home/specialdeals

Appleでは電話とチャットでサポートを行っている。電話もかけるのではなく、電話番号を伝えるとApple側から電話がかかってくる方式。チャットは人間のスタッフが対応するが、近い将来人工知能が対応してくれるようになるかもしれない。

ANKERは保証期間が18カ月と長期で、サポートページに「迅速に同一新品製品との交換対応をお承り致します」と明記している。修理にかかる費用と時間を合理的に考えているのだろう。(【URL 】https://www.ankerjapan.com/warranty.html

ANKERの交換依頼は電話かメールで症状を伝える。対応スタッフが保証対象だと判断すれば、アマゾンまたは直販の配送システムを使って新品を送ってくれる。後日返送キットが送られてくるので、手元の故障した製品を返送すれば完了だ。

Appleの四半期ごとの製品保証額推移。2013年あたりから上昇傾向にあり、今後さらなるサポート体制の改善が進んでいくだろう。ニュースサイト「Warranty Week」より引用。(【URL】http://www.warrantyweek.com/archive/ww20171109.html

文●牧野武文

フリーライター。一般的な保証修理では、現品を専門家が検査し、無償修理か有償修理かを判断するステップがある。これは時間がかかるし、専門家の人件費もばかにならない。初期不良で有償修理になったら、消費者のメーカーへの忠誠心は下落する。愚かな慣習にしか思えないのだが、皆さんはどう感じるだろうか。