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「ヘイトスピーチを許容せず」Appleの措置にIT大手が追随

著者: 山下洋一

「ヘイトスピーチを許容せず」Appleの措置にIT大手が追随

8月にAppleが、陰謀論者と呼ばれ、数百万人規模の視聴者を抱えるアレックス・ジョーンズ氏のポッドキャストを同社のサービスから追放。ヘイトスピーチは認めないという明確な姿勢を示した。プラットフォーマーが抱える問題に真っ向から立ち向かった形だ。

巨大な力を持つ陰謀論者

8月にアップルが、右派の「陰謀論者」と呼ばれて問題視されるアレックス・ジョーンズ氏のポッドキャスト番組を「ポッドキャスト」アプリや検索対象から削除した。その判断に他のIT大手も続き、「暴力や差別を助長するコンテンツは認めない」という産業規模のメッセージに拡大した。

2016年の米大統領選挙期間中に「ピザゲート(Pizzagate)」というデマ情報のツイートが飛び交ったことがある。ワシントンに実在するピザ店が小児性愛者の拠点になっており、そのグループに民主党最高幹部たちが関わっているという内容だった。オーナーが熱心な民主党支持者であるピザ店は、ピザゲートによって脅迫や殺害予告を含む悪質な抗議活動にさらされ、デマ情報を信じた男がライフルを持って店に押し入る事件が起こった。そのピザゲートの拡散に大きな影響力を及ぼしていたのが、インフォウォーズというネットメディアを運営し、ラジオ、ポッドキャストやユーチューブで人気番組を持つジョーンズ氏だった。ほかにも、米同時多発テロは米政府の「内部者による犯行」、2012年に小学校で起こった銃乱射事件は「でっち上げ」といったさまざまな陰謀論を主張、フェイクニュースや事実無根の情報に基づいた主張や差別的な発言も多かった。

フェイスブックがロシアによる米大統領選挙への関与の舞台となって、世論の反発を招いたばかりである。ジョーンズ氏の発言を危ぶむ声が広がっていた。しかしながら、ジョーンズ氏の独自の主張に共感する人々も多い。数百万人規模と見られる視聴者をバックに、ネット上の言論の自由を振りかざすインフォウォーズに対して、フェイスブックやユーチューブは発言を問題視しながらも警告程度の対応に留めていた。

そうした中、アップルが「ヘイトスピーチを許容せず」という断固たる姿勢を示したことで様相が一変した。その日の内に、フェイスブックやユーチューブもアカウントの凍結とコンテンツ削除を表明。さらにスポティファイやピンタレストも同様の対応をとった。アップルが動いたことで、それまで及び腰だった他のIT大手も腹を決めた形だ。

ラジオのホストとしてキャリアをスタートさせ、俳優として数多くの映画にも出演しているアレックス・ジョーンズ氏は話術が巧み。ラジオ局の番組では広告主との間でトラブルを起こしたが、アクセス数が問われるネットで飛躍した。

プラットフォーマーの義務

ネット上で人々が情報を発信する環境を提供する「プラットフォーマー」にとって、「言論の自由」や「政治的な中立性」をどう確保するかは大きな課題である。他者を攻撃したり差別するような発言であっても、排除には「検閲」という批判がつきまとい、場合によっては政治的な偏りを非難される。ジョーンズ氏のような問題であっても、IT大手がいずれも単独で排除に踏み出すのをためらっていたところに、その難しさが表れている。実際、IT大手の行動には称賛の拍手が送られているものの、トランプ大統領の有力支持者への攻撃、左派のテクノロジー企業による陰謀といった批判の声も上がっている。

だからこそ、ポリシーが重要になる。ヘイトスピーチだからといって、ポリシーと無関係に排除すれば、それが新たな陰謀論の火に油を注ぐことになる。特例ではなく、ポリシーに則って、納得してもらえる対処でなければならない。ジョーンズ氏の問題でアップルはポッドキャストを削除したが、インフォウォーズのアプリの排除には9月まで踏み出せなかった。結果、アップルの行動を口火にインフォウォーズのコンテンツ削除が話題になる中、アップルのアップストアでアプリのダウンロード数が上昇するという皮肉な状況になってしまった。ヘイトスピーチをどのように定義するか、今日のポリシーでヘイトスピーチへの適切な対処がすべての製品・サービスで可能か、安全な環境を提供するためのポリシーの見直しという課題が浮き彫りになった。

2016年の大統領選挙の最中にトランプ氏がジョーンズ氏の番組に出演するほど二人の関係は近く、選挙戦ではヒラリー・クリントン氏や前大統領のバラク・オバマ氏の根も葉もないスキャンダルを番組で次々に紹介してトランプ氏を支援した。

ツィッターは即日Appleに追随しなかったIT大手の一つ。ポリシーに違反していたらアカウントを凍結するが、「明確な違反が確認されていないため」とCEOのジャック・ドーシー氏は説明した。