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[2008 ? 2009]ポストPC時代の扉を開けたアップストア

[2008 ? 2009]ポストPC時代の扉を開けたアップストア

アプリのストアという再発明

今ではアップストア(App Store)のないiPhoneやiPadなんて想像できません。しかし、2007年に初代iPhoneが登場したときには、まだアップストアは存在していませんでした。

アップルは当初「WEB2.0」と呼ばれる開発コンセプトと「AJAX(エイジャックス)」という実装手法で作成した「WEBアプリ」によってサードパーティーの機能をサポートしていました。これは、その後の「ネイティブアプリ」に比べると、ハードウェアを活用できる幅が狭く、パフォーマンスも劣ります。しかし、誰でも簡単にiPhone向けのアプリを提供できるメリットがありました。

当時のモバイルアプリの流通は旧来のPCソフトウェアと同じで、パッケージソフトの流通手段を持つ大手ソフト・ベンダーが支配的な存在でした。

そこにアップルは、ネットで自分の作品を発表するように開発者が誰でも簡単にアプリをエンドユーザに直接届ける方法をもたらしたのです。

ところが、開発者からはネイティブアプリ開発のサポートを求める声が高まる一方でした。ついにはWEBアプリでは我慢できない開発者コミュニティから、ジェイルブレイク(脱獄)というiPhone OSの制限を解除してアプリや改造ツールを導入できるようにするクラッキングも広がっていったのです。

そして2008年3月、アップルは満を持してソフトウェア開発キット(SDK)を発表。同年夏のiPhone 3G発売とともに、62カ国、500アプリを揃えてアップストアをオープンさせました。

当初はアップルがストアの管理を行い、掲載アプリを決定することに閉鎖的という批判の声も上がりました。ところが、実際に使ってみるとアプリを見つけやすく面倒だった購入やインストール・アップデートの管理が驚くほど簡単になったのです。その新しい体験を味わったユーザの支持を受けてソフトウェア流通の大変革が始まりました。

App Storeがオープンしてから8カ月、iPhone向けアプリに乗り出したデベロッパーの62%が、初めてのApple製品向けの開発でした。iPhoneとApp Storeは、Macの開発コミュニティの枠を超えてデベロッパーを刺激したのです。

ユーザも開発者も虜に

アップストアの基本的な仕組みは、この頃にはすでに出来上がっていました。たとえば、アップストアを利用する開発者は売上の30%を手数料としてアップルに支払います。その割合が多すぎるという不満の声も上がりましたが、大手ベンダーのように流通のノウハウを持たない小規模または個人の開発者にとって、アップストアは少ない負担で効果的に数多くのiPhoneユーザにリーチできる魅力的な場となりました。

それを裏づけるように開発者コミュニティの規模は急速に拡大し、ローンチからわずか半年でアップストアのアプリ数は500本から1万5000本へと増加しました。

このアップストアの黎明期には、多くのユニークなアプリが登場しており、「Facebook」や「Yelp」などWEBからデータを取得しながら使うアプリもすでに台頭しています。モバイルWEBという新たなフロンティアを切り拓くアプリが急速に成長し始めたのです。

App Storeをデータで読み解く

アプリ市場分析のリーディングカンパニー・App Annieが集計したデータから、iOSのApp Storeの規模を指し示す数値を見てみましょう。

世界を動かしたベストアプリ

2008

セカイカメラ

【開発】頓智ドット 【価格】無料

【場所】公開終了

現行モデルと比較して30分の1にも満たない性能しかなかったiPhone 3Gに備わるGPS、コンパス、そしてカメラを組み合わせることでAR(拡張現実)を実現したアプリ。その斬新なコンセプトは「早すぎる名作」だったと呼べるでしょう。

 

Run Keeper

【開発】FitnessKeeper, Inc. 【価格】無料

【場所】App Store>ヘルスケア/フィットネス

GPSを使うことで「どこを走ったのか」というルートや細かなペース配分の記録など、愛好家にとってうれしい機能が用意されました。これにより「ランニング」という分野を、より多くの人にとって身近な存在に近づけた功績があります。

 

1Password

【開発】AgileBits Inc. 【価格】無料

【場所】App Store>仕事効率化

さまざまなサービスやアプリのログインパスワードを保存して、自動入力してくれるだけでなく、クラウド同期もしてくれるユーティリティアプリ。本家であるAppleの「キーチェーン」の機能向上は、このアプリによる影響が大きいとも言われています。

 

大辞林

【開発】物書堂 【価格】2600円

【場所】App Store>辞書/辞典/その他

約3000ページにもおよぶ日本を代表する国語+百科事典をコンパクトに持ち歩ける、まさにデジタルの特権を具現化した名作アプリ。インターフェイスや操作感も優れていて、辞書系アプリのお手本とも呼ばれるロングセラー商品です。

2009

Evernote

【開発】Evernote 【価格】無料

【場所】App Store>仕事効率化

テキストによるメモ書きだけでなく、写真やURLなどあらゆる情報を格納して、共有も可能とするデジタルならではの「万能手帳」の代表作とも言えるアプリ。iOS標準の「メモ」アプリの機能追加にも大きな影響を与えています。

 

Dropbox

【開発】Dropbox 【価格】無料

【場所】App Store>仕事効率化

BOX

【開発】Box, Inc. 【価格】無料

【URL】App Store>ビジネス

クラウドベースのストレージサービスは、iPhoneの登場によってより多くの人々が必要とするサービスへと成長しました。そのニーズはアップルのクラウドサービスであるiCloud、そしてiOSの機能にまで影響を与えるようになって現在へと至っています。

※本特集で紹介しているアプリは2018年7月15日現在確認されている情報を元に掲載しています。現在App Storeで入手できないアプリは当時の画像を引用しています。