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ARKit 2の進化で拡張現実は身近になるか

ARKit 2の進化で拡張現実は身近になるか

ARキットとは何か

アップルはiOS 12の目玉の機能として、拡張現実(AR)アプリを実現するための開発者キット「ARキット2(ARKit 2)」を披露した。iOS 11でARキットを登場させた際、世界一のARプラットホームであると宣言したが、その宣言は引き続き堅持される。

ここで今一度、そもそものARキットの意味を確認しておこう。ARキット以前からもARを活用したアプリの開発は可能だった。しかし、空間や平面の認識から立体的なオブジェクトの配置などを司るAR体験の基礎となる部分については、自分で開発するか、ミドルウェアのライセンスを購入しなければならなかった。

そこで、アップルはiOSアプリの中で、無料でAR関連のミドルウェアであるARキットを利用することができるようにした。それは、ARが差別化要因やビジネス上の戦略的な価値ではなく、今後の標準的な体験に降りてきたことを意味する。

ARキット2の進化

では、ARキット2ではどんな進化が見られたのだろうか。AR体験の変化に重要となる5点について説明していこう。

(1)顔追跡の向上

これまでもiPhone XのフェイスID(Face ID)やアニ文字などで利用されてきた顔の追跡機能。これは3Dオブジェクト認識を顔の特徴に特化したものだ。赤外線センサを組み合わせた「トゥルーデプス(TrueDepth)」カメラを用いて顔の50の筋肉の動きを読み取る。ARキット2では筋肉に加え、舌と左右の目の独立した視線の認識に対応し、毎秒60フレームでの読み出しを行うことができるという。

こうして新たに実現されたのが、自分の顔の絵文字を作成してアニメーションが作れる「ミー文字(Memoji)」だ。アニ文字の目は黒く塗りつぶされていたが、ミー文字には目玉が表現され、自分の目の動きに合わせて動くことで、絵文字ながら非常にリアルな表現となった。

(2)二次元画像のリアルタイムトラッキング

今年3月にリリースされたiOS 11.3で搭載されたARキット1.5では、水平面に加え、垂直面と二次元画像認識に対応し、壁にかかっている絵画を認識してデジタル合成することができるようになった。

ARキット2では二次元画像の向きや大きさなどの認識が向上し、たとえば画像の向きと合成する3D物体の向きを合わせたり、写真を動画に置き換えることができる。画面上に道案内のための道標を合成する場合でも、正確な向きを指し示してくれる。動きのある物体も連続的に追跡できるようになったため、空間に配置する物体や空間そのものを認識するための目印として活用する際の精度も向上する。

(3)三次元物体のトラッキングとリアルレンダリング

二次元画像に加えて三次元物体のトラッキングも可能になった。3Dモデルをアプリに読み込み、同じ物体を認識させたり、実物を使ってMacとiPhoneカメラを用いて3Dモデルを作成する機能も用意される。

また、色、位置、向き、照明、影、反射などのレンダリングもサポートされ、後述の新機能である3D空間認識から、実空間の光景を読み取り、グラフィックスAPIである「メタル(Metal)」を用いて自動的に反射する画像をレンダリングする機能まで備わる。

(4)ワールドマップの保存と読み出し

これまで水平面、垂直面に限られていたが、ARキット2では空間を認識できる。加えて、一度マッピングした空間を保存したり、読み出したりすることが可能だ。マッピングはARの中でもっとも処理能力を要する作業でバッテリ消費に直結していたが、すでに用意されているマップが利用できる点で、繰り返し利用するARアプリがより少ない電力で利用できる。またあらかじめマップを用意し、その場所で読み込むこともできるため、より正確なマップが利用できる。積み木を崩さずとっておくように、途中まで遊んだ結果を同じ場所に再現して続きを楽しめるようになるのだ。

(5)空間の共有

これまでのARキットでは、1つの空間をその場で認識して1人で楽しむだけだった。今後は誰かが認識した空間に、ほかの人も参加できるようになる。現状最大4人まで参加でき、遅延の少なさを考え、共有はアイクラウド(iCloud)経由ではなく、ブルートゥースやWi│Fiを利用して行われる。前述の三次元空間認識とオブジェクトの向きなどが反映されるようになり、複数の視点で1つの拡張現実空間を楽しめる。

感じる「進化」

ARキット2について、アップルが用意したいくつかのデモを体験することができた。その中でももっとも驚きが大きかったのはミー文字だった。やはり視線の認識が入ったことは、表現力の向上に非常に大きな役割を果たしていると感じ、これまでAR合成系のアプリを使っていた人ほど、その違いに驚かされるだろう。アニ文字同様、利用するにはトゥルーデプスカメラが必須ということから、2018年モデルのiPhone、iPadで搭載モデルの増加が期待できる。

そのほか空間の表現力の向上など、圧倒的と表現してもいいほどであった。その一方で、ゲームやコミュニケーション、教育以外のARコンテンツのアイデアは、これまで多く試されているとは言えない。iOS 12リリースの2018年秋以降、開発者がARアプリのリリースラッシュを演じるのかどうか、また、人間の感覚や社会関係の中でARがどのように受容されていくのか、引き続き注目していく必要がある。

LEGO AR Cityのデモ

LEGO AR CityではARKit 2の共有体験、パーシステントAR(持続的なAR)や3Dオブジェクトの認識などの機能を利用し、まるでキャラクターに命が吹き込まれたような表現を実現している。

Apple純正ARメジャーアプリ

新たに搭載されるメジャーアプリは現実世界の物体のサイズを素早く測定できる。

複数人でAR体験

共有体験により、複数のユーザが1つのゲームをしたり、同じシチュエーションの中で一緒に作業できるようになる。

ARキットを活用したMemoji

ミー文字は、ユーザの顔の動きに合わせてキャラクターの顔も動くなど、筋肉の動きと視線、舌の動きを合成した豊かな表情をリアルタイムで相手に届けることができる。

物体の配置や状況を記録

ARキット2では、仮想空間への物体の配置やその状況を記録することができる。それに一役買っているのが「ARWorldMap」というテクノロジーだ。