労働人口の減少や「働き方改革」の動きを背景に、従業員の健康を経営課題として掲げる企業が増えている。これまで大きなコストを支払う必要があった「健康経営」だが、Apple Watchのアクティビティ機能を利用したヘルスケアアプリがこの課題を解決するかもしれない。
業績に悪影響なプレゼンティズム
従業員の健康維持・増進を経営上の課題として捉える「健康経営」という考え方が「働き方改革」の流れの中で注目を集めている。経済産業省もこうした取り組みを戦略的に行っている上場企業を対象に、1業種につき1社ごと「健康経営銘柄」として選定するなど活発な動きを見せている。また、同省と日本健康会議が共同で非上場企業を含む大規模法人を対象に「健康経営優良法人(通称「ホワイト500」)」を掲げるなど、さらなる広がりを見せ始めているのが現状だ。
こうした健康経営銘柄の時価総額の平均はTOPIX(東証株価指数)と比べて約1.5倍で推移している。また、同様の趣旨で経営を行っている米国の健康優良企業は全銘柄平均の約1.8倍の高い利益率を上げている。このように従業員が自らの健康を意識して働けることが企業の生産性向上につながるという認識は世界的に広まりつつあり、もはや経営上の常識とも呼べる段階に達しているのである。
こうした健康経営の施策を未導入の企業であっても、多くの場合、その必要性自体は理解できているだろう。しかし、その一方で具体的に実施に移すのはなかなかハードルが高いと感じている経営層も多いはずだ。導入に躊躇する理由のひとつとして考えられるのは、従業員の健康意識の改革は勤務時間以外のパーソナルな領域を含む「生活習慣そのもの」の改善を必要とするからだ。
たとえば、フィットネスクラブの利用券の配布など従来型の福利厚生の延長で施策を充実したところで、本人の自発的な健康意識が生まれなければ経営上の大きな投資対効果は期待できないだろう。
こうした状況に新たな突破口をもたらすかもしれないのが、アップルウォッチを利用した法人向けヘルスケアアプリ「サークル(CiRQLE)」だ。サークルは、iOSアプリ開発で多くの実績を持ち、優れたUI/UX設計で定評のあるジェナと、法人向けWEB電話帳サービスの分野でトップシェアを誇るフォンアプリ(Phone Appli)が双方の強みを活かして共同開発したもの。
サークルがターゲットとしているのは、前述のように健康経営を志向している企業だが、フォンアプリの代表取締役社長・石原洋介氏によると、この健康経営を考えるうえで欠かせないキーワードがあるという。それが「プレゼンティズム(Presenteeism)」だ。
「プレゼンティズムは、欠勤や休職、あるいは遅刻、早退を意味するアブセンティズム(Absenteeism)の対立概念で、職場に出勤はしているけれども、何らかの疾患や体調不良が理由で仕事ができない状態、生産性が下がっている状態のことを指します。近年の研究で、企業の業績に対する影響はアブセンティズムよりもプレゼンティズムのほうが悪影響を与えていることが判明しています」(石原氏)
経済産業省が行った2016年の調査によると、企業の健康関連コストのうち、78%がこの相対的なプレゼンティズムによるもので年間コストは1人あたり56万4963円と試算している。これは医療費負担の16%や欠勤などのアブセンティズム4.4%に比べてかなり高い比率となっており、健康経営を実施するうえで優先的な課題であることがうかがえる。
CiRQLEはApple Watchを利用して、社員の健康を支援するヘルスケアアプリ。チーム制の管理が可能なので、企業や団体の「健康経営」に寄与するものと期待される。【URL】http://cirqle.life
企業向けスマートデバイスアプリ開発会社である株式会社ジェナ代表取締役社長の手塚康夫氏(左)と、クラウド電話帳サービス「連絡とれるくん」の開発・販売を行う株式会社Phone Appli代表取締役社長の石原洋介氏(右)。CiRQLEは両社により共同開発された。
アクティビティをゲーム化する
だが、このプレゼンティズムは特定の疾患として認知されていない「慢性的な体調不良」によって引き起こされるものが多いため、企業として改善の成果を確認していくためにはいくつかの指標を同時並行的に見ていく必要が生じる。ビジネスの用語になぞらえるならば、「従業員が健康的に働いてパフォーマンスを最大限発揮すること」がKGI(重要目標達成指標)であり、それを実現に近づけていくための身体的、生活習慣、精神的な指標がKPI(重要業績評価指標)として設定できるだろう。
たとえば、身体的な指標でもっともわかりやすいのが定量的に測定できる「肥満」であるが、そのほかの運動習慣や仕事の満足度やストレスといった心理的指標も測定できるのが望ましい。これらの測定は従来は難しいものであったが、簡単に解決できるデバイスがある。そう、アップルウォッチだ。
アップルウォッチの標準機能である「アクティビティ」では、歩いた距離を示す「ムーブ」、活発な運動をした時間である「エクササイズ」、立ち上がった状態を測定する「スタンド」の3つをリングで進捗度を表示する機能がある。サークルでは、このアクティビティの進捗状況を取得して、あらかじめ設定した難易度と掛け合わせて独自のポイントとして表示してくれる。さらに、職場の同僚などで組成したチームの合計ポイントを画面中央の大きな「エナジーポッド」で直感的に把握できるようになっている。
たとえば、5人のチームを作り、イージーモード(ポイント係数×1)のリングゴール達成者が2人、ノーマルモード(ポイント係数×3)が2人、ハードモード(ポイント係数×5)が1人いれば、チーム全体の1日の合計ポイントは13ポイントとなる。これをチームごとにポイントを競い合うことで運動を促したり、チーム内のコミュニケーションを活性化するというのがサークルの基本的な仕組みだ。さらにリングゴールを達成した日が続くとコンボ(コンビネーション技)が確認できるなどゲーミフィケーションの要素が盛り込まれているのも特徴だ。
「ヘルスケアで問題となるのは1人で継続するためのモチベーション維持が難しいこと。これをチーム制にすることで達成感を味わえる仕組みになっています」(フォンアプリクラウドビジネス事業部・川原博基氏)
アップルウォッチを着けるだけ
そのほかのウェアラブルデバイスではなくアップルウォッチを採用した理由について、石原氏はiPhoneの法人導入が進んでいることに加え、デバイスとしての完成度の高さやセキュアな点、さらに従業員が日常的に身に着けるものとしてもっともふさわしいデバイスであることを挙げた。
「私自身もアップルウォッチを使っていますが、アイテムとして魅力的でなければインセンティブとなりませんし、継続的に利用してもらうことも難しいでしょう」(石原氏)
また、導入に際しては、社内の基幹システムに社員の連絡先を一元的に管理できる「連絡とれるくん」との接続や、社内説明会の実施などの準備が必要だが、従業員自身は配付されたアップルウォッチを身に着けるだけなので特別なトレーニングはいらないという。
導入コストは初期費用20万円に加え、アップルウォッチ1台あたりの費用(2万7800円から)、サークルの月額費用が1人につき1200円かかる。 「経営者視点からすれば、それで社員の健康意識が高まるのなら必ずしも高い投資額とは思わない」とジェナ代表取締役社長・手塚康夫氏は語る。
なお、サークルのサービス自体は2017年12月初旬より開始されたが、すでに高砂熱学工業やヤフーなど複数社でトライアルを実施し、その知見も蓄積されつつあるという。また、そこから得られたサークルを導入する際に盛り上げるための施策やポイントの有効利用やリングを完成するためのアイデアなどもふんだんに用意しているとのことだ。すでに健康年齢に応じて加入できる少額短期保険なども存在するが、こうした健康経営の実践は将来的には団体保険の適用対象になる可能性もあるだろう。また、その企業の「働きやすさ」の指標ともなるため、求人などHR領域へのインパクトも大きいはず。アップルウォッチとサークルアプリの組み合わせは、今からでもすぐに健康経営に向けて取り組むソリューションとなりそうだ。
CiRQLEのココがすごい!
□優れたUI/UXで従業員のモチベーションをアップさせる
□従業員は支給されたApple Watchを装着してゲーム感覚で使うだけ
□「健康経営」を実施するためのシンプルで効果的なソリューション









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