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方法は千差万別! 多彩な動画を楽しむ

方法は千差万別! 多彩な動画を楽しむ

スマホ・SNSの影響で生じた変化

「動画」というテクノロジーが持つ百余年の歴史の中でも、ここ10年ほどの変化は最大級のターニングポイントといえるでしょう。形やジャンルは変われど、それまで動画はテレビや映画業界、一部のハイアマチュアといった「専門家」が作るもので、該当しない大多数の人は単なる「消費者」でした。それが現在は、ユーチューブ(YouTube)だけに限っても年間に投稿される動画の延べ時間は数万年相当以上にもなり、それを作った人の圧倒的大部分は「素人・一般の人」です。

今や動画は、一方通行の「観る」メディアから、モバイルデバイスとインターネットを軸にして「観る・作る・使う」の三本柱からなるツールへと大きな変容を遂げたのです(逆に、かつての主役であったテレビやDVDなどのディスクは、動画を消費する場、配信する手段としての存在感を弱めています)。

その立役者となったのが、iPhoneに代表されるスマートフォンと、フェイスブック(Facebook)、ツイッター(Twitter)、インスタグラム(Instagram)といったSNSです。スマホは撮影時、視聴時ともに縦で操作されることが多いため、専用のビデオカメラによる横長の動画が中心だった時代にはほぼ存在しなかった「縦長」の動画が多く流通しています。むしろ横長の動画はSNSのタイムライン上で表示面積が小さくなってしまうため、本格的な機材でプロが作る動画広告なども、できるだけ目立つようにあえて縦長で作られることも増えています。また、インスタグラムへの投稿に標準で使われる「正方形」も、表示面積をかせぎつつ縦よりも画面作りのバリエーションが広がるので、積極的に使われています。

動画を視聴するデバイスと場所の変化は、動画そのものの「形」にまで及び、それに特化した制作ノウハウの蓄積が急速に進んでいます。テレビ放送やDVDなどの物理メディアは、一度仕様が決まると数十年単位で規格が変わらない(変えられない)のが普通でしたが、ネットでは常に流行の変化や環境の進化が起きているため、数カ月前の定番手法がもう「最適ではない」状態になることも少なくありません。普段から目にする動画コンテンツの作られ方に注目し、流れの変化に敏感であることがますます重要となっています。

また、スマホとSNSの存在は、動画の内容にも影響を与えています。「浮気」される対象となるほかのコンテンツが無限にあふれる状況の中では、長時間の動画をすべて観てもらうのが従来以上に難しくなっています。テレビ番組的な様式の模倣ではなく「1分以内などの短時間にまとめる」「ツカミ(冒頭)の部分を強化する」「細分化して視聴される機会も増やす」などさまざまな施策がとられ、いわゆる「起承転結」に代表されるような旧来型の構成から脱却したコンテンツを多く生み出しています。

カメラやソフトといったツールの性能や使いこなしだけでなく、「観てほしい対象に確実に届ける」ことがますます重要になっており、作ること自体に物珍しさがあった段階を超えて成熟期を迎えたといえるでしょう。

縦持ちしたスマホ上のSNSでは、動画の形状により表示される面積に大きな差が出てしまいます。テレビ放送と同じ横長の動画は面積が小さくなりがちです。

正方形アスペクト比の動画を作るのは難しいと思うかもしれませんが、Premiere Proなどの動画編集ソフトやKeynoteでもお手軽に作れます。

気軽なメッセージ手段となったライブ動画

動画のカジュアル化は、撮影したファイルをアップロードした「アーカイブ型」だけでなく、これも元々テレビの専売特許であった「生中継」にも及んでいます。フェイスブック・ライブ(Facebook Live)などに代表されるライブ配信は、特にスマホの使用下においては「誤って配信開始してしまう」ほど簡単になったうえに、つながっている友だちに向けて即座に配信開始が通知されるなど大幅に進化。もはやライブ配信は特別な存在ではなく、文字や写真と同じレベルの、気軽なメッセージ発信の選択肢になったと言えるでしょう。

「テレビ放送」が特別な存在でありえたのは、番組の制作能力だけでなく、多くの人が同時に受信できる電波を独占的に使用できるという状況が大きく寄与していました。SNSのライブ配信は、たとえ個人がスマホで発信したものであっても、巨額の設備投資がなされているSNS運営元のサーバが背後にあるので、たとえば偶然居合わせた事件現場の模様を中継するなど突発的な状況で夥しい数のアクセスが集まってもかなりのレベルまで対応することが可能です。ほかでもないテレビ局自身も、スタジオと中継先を結ぶのに、従来の衛星通信などに代わってネット経由でライブ配信と同じようなシステムを使うケースが増えています。ライブ配信以外も含め、動画を使ったコミュニケーションのための道具や機会は、大企業、一般個人問わずどんどん差が縮まっています。

また、MacやiOSには標準でも動画に活かせるさまざまな機能やツールが存在し、カメラによる撮影を一切行わずに画面のキャプチャやスライドの応用だけで動画を作る手段も数多く存在します。iPhone 8やXといった現行機種では、専用カメラでも対応機種が決して多くはない4K/60Pといったハイスペックなフォーマットの動画撮影も行えるので、質の面でもこれまでの常識を大きく覆すレベルを実現可能となっています。

カメラを使わずに、MacやiPhoneの画面そのものをキャプチャすることで作成する動画も増えています。基本的な画面収録方法に加え、音声の取り込み方法やiPhoneとMacの同時収録も紹介します。

ライブ動画も新しい時代を象徴する動きです。ここではもっともメジャーなFacebook LiveやYouTube Liveに加え、ゲーム動画の実況に特化したAmazonのTwitchについても解説します。

それでも変わらないものはストーリー

そして最後にひとつだけ。スタイルやジャンルを問わず、人の心をつかむ動画を作る最大のポイントは「脚本」です。手軽に発信する場合でも、まず視聴者の興味をキャッチし、最終的に満足感を得られる流れを考えるのは紛れもない「脚本づくり」であり、カットする部分などもそれにより変わってきます。人間の脳は「内容を考える」のと「編集操作」を同時に行うと混乱しやすい傾向があるため、編集ソフトを起ち上げる前に流れを思い描いてメモするなどし、まとまった時点で作業に入ると、クオリティが上がるだけでなく、迷いが少なくなり作業時間の短縮も望めます。動画の手法は、一度試すとそれ以降「引き出し」の一部となり、内容を考える際にも大きく役立ちます。新たなチャレンジ、レベルアップを狙う、過去に挫折しての再挑戦、いずれの場合も、本特集でご紹介しているさまざまな手法を積極的に試し、動画作りから感じる楽しさを大きく広げてください!