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世界初となるAI型教材「Qubena」

著者: 山田井ユウキ

世界初となるAI型教材「Qubena」

人工知能(AI)が情報を収集・分析し、生徒のレベルに合わせて最適な問題を出題するタブレット向け教材。小学校の算数と中学校の数学に対応しており、河合塾との共同教材開発を行うなど教育機関での利用も進む。中学1年生の効果測定では、従来の学習方法の実に7倍もの成果を上げた。利用ユーザ数は約7000人。直営の学習塾「Qubena Academy」での展開のほか、パートナーシップを結ぶ全国の私塾26社に導入されている。

究極の学習とは何か。どうすれば人類はよりよく学べるようになるのか。そんな究極の問いに対する1つの答えとなりうるツールが「キュビナ(Qubena)」だ。世界初となるAI型教材である。

開発したのは株式会社COMPASS。その背景には、発案者である神野元基氏の生い立ち、そして現在に至るまでの道程があった。

Qubena

【開発】株式会社COMPASS

【価格】Qubena Academy(学習塾):1万1000円/月(小学生)、1万4000円/月(中学生) ※いずれも税別。現在、オンライン学習など新規メニューもテスト運用中。

【URL】http://compass-e.com/

北海道網走で高校時代までを過ごした神野氏。高校1年でインターネットに出会い、情報により世界が広がる感覚に魅了された。自分は何のために生きるのかについて考え、「世界平和に貢献すること」を人生のミッションに据える。卒業後は東京進学を志すが、周囲は猛反対。唯一、通っていた塾の先生だけが賛同してくれたという。

上京後、慶應義塾大学に入学した神野氏は在学中に渡米。シリコンバレーで起業し成功を収めた。そんな神野氏の人生を決定づけたのは、在米中に知った「シンギュラリティ」という概念だった。近い将来訪れるとされる、AIが人間の能力を超える瞬間。そのとき、人はどうあるべきなのか。人類、特に子どもたちは、これからAIが進化していく未来を生き抜かなければならない。そこにはこれまでにない“知恵”が求められるだろう。数学や国語といった従来の学習をもっと効率よく行い、そうした知恵を身につける新たな学びの時間を生み出さなくては│。

自らの世界を広げてくれたインターネットという技術、将来への道を拓いてくれた塾の先生の言葉、そして子どもたちへの思い。神野氏の半生を形作ってきた要素が1つになり、生まれたのが「キュビナ」であった。

キュビナはAIを活用したタブレット端末向けの教材だ。小中学校の算数・数学に対応している。最大の特徴は、子どもが問題を解くごとにその理解度を分析し、単元の修得に効果的な出題を行うこと。一般的な学習方法では、ある問題につまずくと1つ前の問題に戻ってみて、それでもできなければまた1つ戻って…と復習していくのが常だが、「それは非効率だ」と神野氏は考えた。効率的な学習とは「何がわからないのか」を理解して、その部分を学ぶことなのだ。

キュビナでは、問題に対して最終的な答えだけを書くのではなく、紙を使ったテストのように手書きで式や図形を書き込んでいく。そうしたプロセスや解答を出すまでのスピードなどさまざまな情報を分析し、「子どもがどこでどんな間違い方をしたのか」を把握。次の問題では、間違えた部分を学習するのに最適な内容を出題する。いわば究極のパーソナライズドラーニングである。中学1年の生徒で実践したところ、一般的な授業で14週かかる内容がわずか2週で終了したという。実に7倍の学習効果である。

技術面でキュビナを支えるのが、神野氏の大学時代の同級生であり、CTOを務める小川正幹氏。神野氏から誘われてキュビナの開発プロジェクトに参加した小川氏は、あまりにも難度の高い仕様に当初頭を抱えたというが、その甲斐あって「AI活用を謳うどんな教材よりも圧倒的に完成度が高い」と神野氏が絶賛する完成度に仕上がった。

現在、キュビナを使った学習塾をオフィスに併設するCOMPASS。平日の夜ともなれば、たくさんの子どもたちが来塾しキュビナで学びを深めている。また、河合塾とも提携し、高校向け教材の共同開発を行うなど教育業界からも熱い注目を集めているのだ。

「いずれはほかの教科、そして資格試験など、すべての学びにキュビナを使えるようにしたい」と神野氏は夢を語る。“知識詰め込み型”の学習効率が最大に達すれば、空いた時間で人類はもっと進化できる。それが最終的には「世界平和」につながるはず│。ミッションの達成に向けた神野氏の歩みは止まらない。

式も答えも手書きで入力 解答の過程がAIの判断材料に

問題の答えはもちろん、計算式などの解答プロセスは基本的に手書きで画面内に記入する。答えの正否だけでなく、そこにたどり着くまでの過程もAIの判断材料にするためだ。画面内での式や文字認識の精度はかなりのもの。インターフェイスも考え抜かれている。市販のスタイラスペンを使うことが多いが、最近はiPad ProとApple Pencilの精度の高さにすっかり魅了されたということで、直営塾での導入を検討中だという。

ものさし、コンパス、消しゴム…文房具類をiPad上で再現

Qubenaでは、ものさしやコンパスといった文房具類も画面上に再現している。使い方はタップして引き出し、指で操作するだけ。本物の文房具を使っているような感覚で使えるため、違和感がなく思考も中断しない。もちろん、どの文房具をどこで使用したかという情報も、すべてAIの分析材料だ。

教材そのものも自社で開発 デザインとエンジニアリングの高さがポイント

教材そのものも自社で開発し、最高の学習環境を追求するQubena。優れたコンテンツは、わかりやすく使いやすいデザインとそれを可能にするエンジニアリングに支えられ、何重もの学習効果を生み出している。学習範囲は現在、小中学校の算数・数学に対応。Qubenaのノウハウは学習全般に応用できるため、今後は他の教科や資格試験など、幅広い学習に対応していく予定だという。

教師用画面では子どもたちの学習状態を表示 分析されたデータできめ細かなサポートが可能に

子どもたちが問題を解くスピードや正答率などのデータは、すべて教師側の管理画面で把握できる。またそれらのデータを分析し、ある子どもについて「手が止まっていたようです」などといった状況把握を助けるメッセージを表示してくれることも。教師はそれを見て、生徒に話しかけるなどの対応をする。知識を授けるAIと学びを育む人間、お互いが得意分野を担当して補い合うのが理想的な教育のあり方なのだ。

株式会社COMPASS

CEO:神野元基氏(左)/CTO:小川正幹氏(右)