「医師の目線」で作られたカルテ
使い勝手の良い業務支援ツールを作るには、開発者とユーザの意思疎通が鍵になる。ユーザが専門的な業務内容を伝え、開発者が理解してツールに反映することが必要だが、現実には意思疎通がうまく図られず、使いづらいツールが生まれてしまうことも多い。
SJメディカルが販売・サポートする電子カルテ「ワインスタイル(WINE STYLE)」には、この問題がない。開発者の高橋究氏は現役の医師でもあるからだ。忙しいクリニックの仕事をこなしつつワインスタイルの開発を続けている。
2000年代に入って、約200社ほどが電子カルテシステムを開発する乱立時代が始まったが、医師の仕事をきちんと理解して設計されたものは少なかった。そこで高橋氏は、日常診療の多くを占める非効率的な作業をストレスなくこなせて、インターフェイスの美しい、Macで動く電子カルテの開発を始めた。
ワインスタイルは、日本医師会が開発しているレセプトソフト「ORCA(オルカ)」と連係しており、患者の来院から請求までをORCAと連携しながら処理できる。受付の職員が患者の情報をORCAに入力すると、医師の操作するワインスタイルに待ち患者として表示される。診察をするときは、このリストから名前を選ぶとカルテが開く。
カルテには自由にテキストを入力をしていくが、「ワードパネル」というウインドウを使って入力を簡易化できる。ワードパネルには単語登録の要領で文章を登録でき、たとえば、「3日前から」「のどが痛い」という2つのボタンをクリックすると、「現病歴:3日前から、のどが痛い」という文章を入力できる。入力された文章はテキストなので修正も簡単だ。ボタンはユーザ自身でカスタマイズでき、病院ごとに独自のテキストを作成して入力を効率化できる。
そして、ワードパネルの本当の威力はここからだ。ワードパネルのボタンにはスクリプトを組み込めるのだ。たとえば、処方に「鼻炎」というボタンを作っておくと、ボタンを1度押すだけで鼻炎用の処方薬が入力される。患者が後発医薬品の処方を希望する場合には、一瞬で処方薬を後発医薬品に置き換えることも可能だ。
「後発医薬品の製品名を覚えていない医師でも、あらかじめスクリプトに組み込んでおけば自動で薬を置き換えられます」
さらに役に立つのが、予防注射の時期だという。予防注射は、回数と年齢によって薬の量が異なるのに加え、医療請求では公費補助があり、自治体によって補助額も異なる。このような場合にも、「予防注射」というボタンを設定してスクリプトを作っておけば、ボタンを1つクリックするだけでカルテの情報を参照し、適切な内容を入力できる。
診療が終わると、その情報はORCAに戻され、自動的に会計処理が行われる。高橋氏のクリニックでは、診察が終わって30秒以内に患者の会計処理が終わるという。
「紙カルテの唯一のいい点、それは自由に記入できるところです。その自由さをMacの上で再現したかった」
ワインスタイルは使うほど育つ、医師の、医師による、医師のための電子カルテなのだ。
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スクリプトはビジュアルダイアグラムで構築できるため、プログラミングの知識がなくても少し慣れるだけで誰にでも作れるようにできている。わからないことはSJメディカルのサポートデスクに聞けば、すぐ回答してくれる。
自由度の高いシステムに満足
千葉県・緑区にある「きくちこどもクリニック」の菊地俊実院長も、ワインスタイルのユーザだ。この地域は千葉市のベッドタウンで、子どもの数も多い。ネットの地域口コミ情報によると、きくちこどもクリニックは院長が明るく、患者の話をよく聞いてくれる、という高評価の小児科だ。この評判のいい医療を支えているのがワインスタイルだ。
菊地院長は今のクリニックを開設する以前、クリニックモールで小児科を開設したという。そのモールでは他の医院も一括して同じ電子カルテを導入しており、カルテを使うのがとても大変だったということだ。
「とても息苦しかったんです。ワインスタイルのように自分でカスタマイズできるところがまるでありませんでした。医者がカルテを使っているんじゃなくて、カルテに使われているような気分でした。たとえば、ワインスタイルはMacのソフトウェアとして提供されているので、Macに別のソフトを入れても何の問題もなく使えますが、昔の電子カルテシステムでは『他のソフトを絶対に入れないでください』となっていたんです」
菊地院長のデスクは、もはや昔のイメージの医者のデスクではない。iMacが置いてあり、そのほかには耳などの検査道具、聴診器、消毒用アルコールのボトルが置いてあるだけ。分厚い紙カルテのバインダや、医学書などは一切ない。
「医者だって、メールを書いたり、WEBを見たりします。検査器具以外の道具は、ほとんどのことがMacで済んでしまうのですから、余計なものを置く必要がありません」
菊地院長が何より気に入っているのが、ワインスタイルユーザが集まるユーザ会が開かれることだという。50人程度の医師が集まって、懇親会とワインスタイルの勉強会を行う。
「いろいろな使い方を知ることができますし、なにより、お会いした方と顔の見える関係になれるのがとてもうれしい。使い方で困ったことがあっても気軽に相談し合えます。あと、SJメディカルのサポートも助かっています。問題が起きたときには遠隔操作で僕のMacに入ってもらって、操作をしながら教えてもらえますから」
菊地院長がワインスタイルを選んだのは、雑務に気を取られることなく気持ちよく仕事をするためだったという。
「小児科には治療だけではなく、地域の子どもたちの成長を親と一緒に見守るという役割があります」
そのためには、来院する親と子どもとの信頼関係が重要になる。子どもたちに、きくちこどもクリニックと菊地院長を好きになってもらわなければならない。
「だから、僕は診察室に呼び込むときに、自分で出ていって、大きな声で子どもの名前を呼ぶんです。そうすると、何回か来たことのある子は、走って診察室に入ってくるんです」
そして、いちばん大切なのは、菊地院長が常に明るく、笑顔でいることだという。
「ワインスタイルとMacの組み合わせがあれば、僕は気持ちよく仕事ができます。僕が明るくなれば、スタッフも明るく仕事ができる。クリニックが明るくなれば、来院する子どもたちも明るくなる。そういう医療を僕はしたいんですね」
簡単に、自由に使えるワインスタイルを導入することで、菊地院長は自分が理想とするスタイルの医療を実現している。
菊地院長もワードパネルを使いこなしている。ぜん息の子どもには「夏休みは線香や花火の煙を吸いやすいので注意しましょう」と指導したうえで、[夏休み]というボタンを押せば、「煙に注意しましょう」という指導が自動で入力され、処方薬も出される。
iPadが革新する人工透析の回診業務
腎不全の患者に欠かせないのが「人工透析」である。腎不全になると血液の老廃物を除去する機能が低下するため、この機能を透析治療で人工的に行うことが必要になるのだ。
SJメディカルは1992年から透析業務の支援システムを開発しており、最新の「STEP Ⅱ」はiPadによる回診システム「STEPタブレット(STEP Tablet)」に対応した。従来、専用の端末をベッドに設置するか、ナースカートに載せたノートパソコンで行っていた回診業務をiPad上で行える。
また、腎不全の治療の際に重要なのが「フットケア」だ。腎不全患者は末梢の動脈硬化が進んだ結果、足に二次的な疾患を負うことがとても多い。
STEPタブレットではフットケアの経過観察も可能だ。診断の結果やケアの内容を記入することができるほか、写真を使って患部の状態を簡単に確認できる。
そのほか、ビーコンを利用して職員の場所やベッドの場所を認識する機能を搭載するなど、回診をスムースに行うための機能が詰まっている。透析支援システムの老舗、SJメディカルならではのアプリだ。
企画協力:株式会社SJメディカル