ストロークの長さが大事
1行12~30文字程度と心得よう
見づらいビジネス文書ナンバーワンが、ストローク(行)が長すぎるものです。数行で終わる文章ならば、40~50文字くらいあっても苦もなく読めます。しかし、それが何行にもわたる場合、視線移動が多すぎて読んでいてつらくなってしまうのです。
身の回りを見渡してみてください。新聞はもちろん、雑誌にしても広告にしても、何行にもわたる文章の場合、ストロークはあまり長くしていません。ただ1つの例外が小説です。小説はじっくりと読むものですし、読者もその世界にひたる時間を楽しむという気持ちを持って関わるものなので、ストロークが長くても付き合うことができます。小説はストロークが長いことで一定のゆったりしたリズムを生み出しているのです。
ところが、ビジネスシーンにおける読み手は、そんな気持ちで向き合ってはくれません。ゆったりしたリズムなど必要ないのです。ビジネス文書はスピーディにわかりやすく伝達することが大切なので、1行の文字数は抑えることを意識しましょう。
紙の左右一杯にならないように、図版を配置します。図版がない場合は文字を2段組にするなど、ストロークが長くなりすぎないように心がけましょう。また、大胆に余白を取る方法もあります。30文字以内に抑えると読みやすくなることを覚えおきましょう。
図版を使ってストロークを短くしていますが、逆に短すぎる部分があります。最低でも12文字程度は確保するようにしましょう。
非常によく見かける典型的なストロークの長いビジネス文書です。1行が長いので読むのに疲れますし、記憶にも残りません。
字間と行間を意識する
文字サイズは絶対正義ではない
フォントの種類や文字サイズは気にかけていても、字間(文字と文字の空き)や行間(行と行の空き)を意識せず、ソフトウェアの設定をデフォルトのまま作成したビジネス文書をよく見かけます。
たとえば、同じフォントを使用していても、字間を広めにするだけで優しい印象に変化します。行間は広めにすることで、より読みやすくなります。
読みやすくしようとむやみに文字サイズを大きくしても、そのために行間が狭くなってしまっては、逆に読みにくくなります。適切な行間があれば、少し小さめな文字サイズでも充分視認性は得られるものです。テキストの量を踏まえて、億劫にならずに、フォントや文字サイズ、字間、行間を設定しましょう。きちんと調整された文字組みは、伝わりやすいだけでなく美しい佇まいも生み出します。
本文の文字間と行間を広めにしています。文字サイズはあまり大きくないですが、下の例よりも読みやすくなっています。
文字サイズは大きいのに、字間と行間が狭いのでまったく読みやすくありません。読みやすさを考えるとき、文字サイズを大きくすることが必ずしも正解とはいえません。
マージンは大きめに設定
ゆったりと余裕をみせよう
マージン(余白)には、「紙面に対するマージン」と「要素同士のマージン」の2種類があります。
紙面に対するマージンは、上下左右に作る空きスペースで、テキストや図版などの要素は基本的にはこの中に納めます。マージンが狭いと情報量が多く感じる反面、息苦しくなってしまいます。反対に、マージンを広くとると情報量が少なく感じられますが、ゆったりとして見やすくなり、同時に高級な印象を醸し出すこともできます。また、ホチキス止めやパンチされることも踏まえたマージン作りも大切です。
ビジネス文書の場合、1ページに納まっている情報量を多く感じさせると、相手の読む気が失せてしまう可能性があります。よって、マージンの設定は大きめにしておくほうがよいでしょう。要素同士のマージンは、図版とテキスト、テキストとテキストの間の余白です。これらの余白を広めにすれば、すっきりとしたレイアウトにすることができます。
周囲のマージンをたっぷりとることで、読みやすさにつながっています。上下左右同じマージンではなく左側を広めにしているので、ホチキス止めやファイリングしても読みやすさが保たれます。要素同士のマージンも広めに設定してあるので、全体にすっきりした印象です。
マージンが狭いので情報量が多く見えますが、読み手側からすると息苦しく感じられ、高級感も欠けます。また、ホチキス止めやパンチ穴があいた場合、読めなくなる部分も発生してしまいます。
「近接」と「整列」を利用
グループ化で自然な視線誘導を作ろう
ビジネス文書は、まず要素の位置を揃えることが大切です。紙面にランダムに置いただけの文書では、見づらいだけでなく、誠実さを感じられなくなり信用を失います。紙面の外側に対しては、あらかじめ設定しておいたマージンに沿わせ、マージン内では同じ要素同士は同じ位置に整列させましょう。
また、同じ意味のものや関連するもの同士は近接(近くに配置すること)させることで、囲みなどを使わずとも自然にグループ化の効果が生まれます。
整列と近接が適切に使われていれば、自然に視線を誘導させることができるうえ、文書の意味も理解しやすくなります。さらに、誠実さが感じられる文書になるので、好感を得られやすくなります。
マージンでの整列、同じ意味を持つ要素同士の整列を行い、近接でグルーピングも施しているため、自然な視線誘導ができます。誠実感もあるので、好感を得やすい文書になっています。
要素を紙面上にランダムに置いただけでは、誠実さに欠けてしまいます。また、グループ化のために囲みを使用しすぎているために、騒々しい印象になってしまっています。
グリッドシステムで合理的に
簡単に美しくなる魔法の法則
グリッドシステムはスイスのグラフィックデザイナーであるヨゼフ・ミューラー=ブロックマンが考案したレイアウトの方法です。合理的でスピーディに、さらに美しくレイアウトできるので、多くのプロデザイナーが雑誌やWEBなどをはじめ、あらゆるデザインで活用しています。プロデザイナーが使うからといって、難しいものではありません。
紙面をいくつかに架空の分割線で分割し、その線に沿って文字や図版を配置します。グリッド1つに1つの要素ではなく、大きな要素は2つ以上のグリッドに配置します。
ポイントはグリッドとグリッドの間に余白があることです。この余白を大きめにするとゆったりとしたレイアウトになります。逆に狭くすると情報量が多く感じられますが、窮屈な印象を与えてしまいます。企画書などは余白は広めにしておくのがよいでしょう。
グリッドシステムを利用したレイアウトでは、たとえ大きな余白ができても、法則性があるので違和感を感じません。これもグリッドシステムを利用するメリットの1つでしょう。
大小さまざまな要素があるので一見グリッドの存在がわかりづらいですが、左図のようにグリッドが使われています。ここでは横8分割、縦5分割にしていますが、横位置の企画書の場合、横4~10、縦3~8くらいの分割が適当です。
ユニット方式でシステマチックに
グリッドシステムの進化系
グリッドシステムを発展させたものに「ユニット方式」というものがあります。これはモジュール方式/カセット方式とも呼ばれています。
ユニット方式は、カタログ的に同じ要素が繰り返されるものに向いている方法で、グリッド内に要素をあらかじめセットして、1つのユニットを作ります。そのユニットをグリッドに沿って配置していくことで、システマチックなレイアウトが可能です。
ユニットはすべて同じ大きさでもかまいませんが、グリッドレイアウトと同様に、2つ分のグリッドや4つ分のグリッドで1つのユニットを形成することもできます。大きなユニットと小さなユニットはテキストの量や図版の大きさが変化するだけで、文字サイズやユニット内の余白は統一します。こうすることで、大小さまざまなユニットが並んでも、わかりやすさと美しさが両立したレイアウトになります。
ユニット方式にすることで、整然とした印象が作られています。また、強調している項目もグリッド方式にのっとり、複数のグリッドを合わせたものなので、紙面に破綻がありません。
ユニットを作らずに配置していくと、混乱したレイアウトに陥りやすくなり、わかりづらいものになります。
行揃えを意識する
本文は両端揃えが基本
欧文の場合、本文は左揃えで右側が揃わない文章や、センター揃えの文章もごく普通に見かけますが、日本語の本文は、左右が揃っているものが基本です。
また、タイトルやリードテキスト(タイトルと本文の間に入る前書きのようなもの)はセンター揃えや左揃えを使いますが、改行する位置は必ず句読点や助詞や助動詞のあとにします。リードテキストは極端に長短が発生しないように考えて改行しましょう。
本文も行頭が「す。」や「です。」などの少ない文字で段落が変わると見苦しくなるので、段落を変える場合はなるべくストロークの1/3以上、できれば1/2以上文字があるようにして改行すると美しくなります。
本文の中に箇条書きなどが入る場合は、3~5文字分のインデント(字下げ)をつけるとわかりやすくなります。本文が左右揃えであっても、箇条書きは左揃えで適切な場所で改行するようにしましょう。
タイトルとリードテキストは同じ揃え方に統一。本文は両端揃えで、段落の変わり目のテキストの量を行の半分以上になるようにしています。箇条書きは3文字分インデント(字下げ)をつけて左揃えで読みやすくしています。
タイトルが左揃え、リードテキストがセンター揃えになっていて統一感がありません。また、リードテキストの改行位置が適切ではありません。本文も左揃えになっているので、右端のがたつきが気になります。また、段落の変わり目が「す。」の文字だけなので、これもあまり美しくありません。箇条書きも本文と同じ位置からはじまっているので見づらくなっています。
フォントファミリーは少なめに
フォントを絞り、ウエイトで対応
1つのビジネス文書内で数多くの性格の違うフォントを使うのは、雑然とした見た目になりやすいので避けるようにしましょう。
フォントには、同じデザインでウエイトの違うフォントを持つ「フォントファミリー」というものがあります。OS Xエルキャピタンの標準フォントでは、ヒラギノ角ゴシック・ヒラギノ明朝 ・游明朝体・筑紫A丸ゴシック・筑紫B丸ゴシック・クレーがあります。
フォントファミリーを1種か2種までに絞り込み、強弱をつけたいときはファミリー内のウエイトの違いで対処するのが、スマートに見える文書の作り方です。特に、ヒラギノ角ゴシックはウエイトが豊富なので使い勝手がよいフォントファミリーです。
ウエイトはレギュラーやボールドといった分類が一般的ですが、ヒラギノはW3やW6といった数字で分類されていて、数字が大きくなるほどウエイトが増します。
ヒラギノのProとStdでは、Proのほうが異体字(読み方や使用方法などが同じで、漢字の一部が異なる字体)などを多く持つだけで、ウエイトが同じならば字形は同じです。ほとんどの場合、タイトルなどはStdでも問題ないでしょう。
フォントをヒラギノ角ゴシックだけに絞り込んで、強弱はウエイトでつけています。文字に統一感があるので、整然としてすっきりした印象です。
性格の違うフォントを数多く使用しているので、雑然とした印象になっています。
ジャンプ率でメリハリをつける
本文の2.5~5倍が比率の目安
「ジャンプ率」とは、レイアウトされている要素に強弱をつけることです。写真のジャンプ率もありますが、ここではテキストのジャンプ率について解説しましょう。
テキストのジャンプ率は、本文に対しタイトルや見出しなどの大きさの比率を指します。本文の2.5~5倍程度が適当な大きさで、タイトルや見出しを目立たせて目を引くのが1番の目的です。また、大小の差をつけることでレイアウトにメリハリがつき、軽快感やリズム感が生まれ、全体の見た目もよくなります。
大抵の文書は上から下に読んでいくものなので、上に見出しがある場合は、大きなジャンプ率を施さなくても目立ちます。しかし、紙面の下にタイトルや見出しを置く場合は、より大きなジャンプ率にしなければ目を引くことができません。置き場所によってもジャンプ率は変化することを覚えておきましょう。
適切なジャンプ率で、タイトルが目立つだけでなく、レイアウトにメリハリが生まれ、軽快な印象になっています。
ジャンプ率が足りていないので、タイトルがわかりづらく、レイアウトにメリハリもありません。
紙面の下にタイトルを置く場合は、強めのジャンプ率に設定しましょう。※ジャンプ率をよりわかりやすくするために作例のフォントはすべて同じもので制作しています。
マージン多めでジャンプ率を抑える
小さいタイトルでも成り立つ技
ジャンプ率を大きくつけるとタイトルが目立ち、メリハリができて、紙面に元気のよさが表れます。しかし、表現したいものが高尚なものや落ち着いたものの場合、その元気のよさが逆にデメリットになることもあります。そんなときは、あえてジャンプ率を抑える方法があることを覚えておきましょう。
単純にジャンプ率を抑えただけでは、タイトルがどこにあるのかがわからなくなります。しかし、タイトルの周辺にたっぷりとマージンをとることで、ジャンプ率が低くてもきちんと目を引くことができるようになるのです。
プロのデザイナーであれば、ジャンプ率がまったくない文書であっても、タイトルと本文を見分けられるようにできますが、初心者の方は1.5倍~2倍程度のジャンプ率をつけたほうが安全でしょう。
この手法は使いどころが限られますし、慣れていないとバランスの取り方が難しいのも事実です。積極的におすすめするものではありませんが、うまくマッチすれば品のある文書に仕上げられます。
ジャンプ率は抑え気味ですが、品のよいレイアウトが実現されています。
ジャンプ率をまったくつけない例です。きちんとマージンを確保すれば、罫線程度の強調で差がなくても成り立ちますが、難易度が高いのでおすすめはしません。※ジャンプ率をわかりやすくするために作例のフォントはすべて同じもので制作しています。
ビジネス文書には不向き!
POP体は使わないようにしよう
ノンデザイナーの方でも見かけたことがあると思いますが、「ポップ体」というフォントがあります。ここでいうポップ(POP)とは、ポピュラーを意味するのではなく、「Point of Purchase(=購買のポイント)」という意味で、スーパーや商店で商品に注目を集めるために利用するものなのです。
そこで使われることを前提に開発されたフォントがポップ体で、目を引くためだけでなく、価格の安さをアピールするために使われることが多く、ポップ体で表現されているものは、本来の価格よりも低価格になっているという印象を持たせられます。
ビジネス文書は安さをアピールするものではありません。いくら親しみやすさを感じるフォントだとしても、ポップ体を使ってしまうと提案するプラン自体が安っぽく感じられてしまいます。ビジネスシーンにおいては、基本的にポップ体を使わないようにしたほうがよいでしょう。
ポップ体はこのように注目を集め安さをアピールすることに使うことが多いため、ポップ体=低価格のイメージが一般的に出来上がっています。