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次世代iPhoneとiPadに関わる無線通信の最新事情

真の第4世代移動通信システム「LTE-Advanced」を探る

著者: 今井隆

真の第4世代移動通信システム「LTE-Advanced」を探る

3Gから4Gへ

第2世代移動通信システムでは第1世代のアナログ方式からデジタル方式へと進化したが、世界各国・各地域で独自の方式が展開されており、各国で販売されていた端末に互換性がないのが実情だった。その反省から第3世代では、国際電気通信連合(ITU)が中心となって全世界でのローミングを実現すべく統一規格を目指して策定が行われた。3Gは、「IMT−2000(International Mobile Telecommunication 2000)」規格として1999年に制定され、地上波を扱う移動通信規格は5方式、衛星通信方式は6方式までに統合された。

これを受けてiPhoneも20 08年7月にリリースされた3G対応モデル「iPhone 3G」から日本を含む22地域で発売された。現在主流となっているLTE(Long Term Evolution)は、この3Gと同じ周波数帯を使用し、帯域幅の拡大や変調方式の見直しなどによって下り100Mbps以上、上り50Mbps以上のデータ転送速度と低遅延を目指した規格で、スマートフォンやタブレットの急速な普及によってニーズの高まった高速移動通信を実現するために策定された。ただし、LTEはあくまで3G技術の改良版であり、本格的な4G規格普及までの過渡的な仕様として3.9G、すなわち第3.9世代と呼ばれる。

これに対して4Gの本命とされているのが、「LTEアドバンスト(LTE-Advanced)」と「ワイマックス2(WiMAX2:Wireless MAN-Advanced)」で、このうちiPhone 6sやiPadエア2、iPadプロに採用されているのがLTEアドバンストだ。

第3世代移動通信システム(3G)に対応することでようやく世界進出を果たしたiPhone 3G。2007年に登場した初代iPhoneはクアッドバンドGSMのみの対応で、日本を含めてGSMを採用していない国では使用できなかった。

LTEへの対応はiPhone 5から。最新のiPhone 6sではLTEアドバンストに対応し、下りで最大300Mbpsの高速伝送が可能となった。同様にiPadエア2、iPadプロもLTEアドバンストに対応している。

複数の電波を束ねて高速化

LTEアドバンストでの高速伝送の要となるのがCA(キャリア・アグリゲーション)技術だ。LTEの帯域幅(搬送波帯域)は日本のキャリアでは5MHz、10MHz、15MHz、20MHzの4種類があり、それぞれ下りの最大転送レートは37.5Mbps、75Mbps、112.5Mbps、150Mbpsだ。この帯域を2つ束ねて使用(二波CA)することで、たとえば15MHz帯を2つ束ねて最大225Mbps、20MHz帯を2つ束ねて最大300Mbpsといった高速通信が可能になる。また3つを束ねてさらなる高速化(三波CA)も技術的には可能だが、実現にはキャリア設備と端末の両方の対応が必要だ。

たとえば、NTTドコモが提供するLTEアドバンストのサービス「プレミアム4G(PREMIUM 4G)」では、2GHz帯(112.5Mbps)、1.7GHz帯(150Mbps)、800MHz帯(112.5Mbps)の3つを束ねて下り最大375Mbpsの伝送を実現している。また、2GHz帯(112.5Mbps)と1.7GHz帯(150Mbps)の組み合わせで最大262.5Mbps、2GHz帯(112.5Mbps)と1.5GHz帯(112.5Mbps)の組み合わせで最大225Mbpsを実現する。なお、iPhone 6sは三波CAには対応しておらず、二波CAまでの対応となるため最大262.5Mbpsとなる。

CAは単なる高速化に留まらず、通信環境の改善というメリットもある。複数の周波数帯を同時に使用するため、片方の電波状況が悪化しても、もう一方の周波数帯で継続的な通信の利用が可能だ。また複数の周波数帯のうち、比較的空いている周波数帯をユーザに優先的に割り当てるといった運用も可能で、キャリアにとっても限られた電波資源や通信設備の有効活用というメリットがある。

2015年10月にリリースされたNTTドコモのアンドロイドスマートフォン「AQUOS ZETA SH-01H」(シャープ製)は国内で初めて三波CAに対応し、下り最大375Mbpsを実現している(【URL】http://www.sharp.co.jp/products/sh01h/)。

NTTドコモの提供するプレミアム4Gでは、3つの周波数帯を束ねる三波CAを用いて、下り最大375Mbpsの高速伝送を実現する。ただしiPhone 6sなどは二波CAまでの対応のため、下り最大262.5Mbpsとなる(【URL】https://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/support/area/premium_4g/network_briefing_160302.pdf)。

ヘテロジニアスネットワーク

MIMO(Multiple Input Multiple Output)は複数のアンテナと送受信回路を組み合わせてデータ送受信の帯域を広げる通信技術で、IEEE802.11n以降のWi−Fi通信にも採用されている。移動通信システムではLTEから採用され、従来は最大4×4までだったが、LTEアドバンストでは最大8×8までの組み合わせが可能となった。しかし実際にはiPhoneなどのスマートフォンに3個以上のアンテナと送受信回路を搭載するのは現実的ではないため、ほとんどの端末ではアンテナ数は2~3個に留まっている(iPhoneは2個)。

LTEでは隣接する各基地局のカバーエリア(セル)で同じ周波数帯を利用するため、セル端では他セルからの干渉によって通信品質が低下する。LTEアドバンストではこのようなセル端におけるスループット改善や、セルカバー範囲拡大を目的にCoMP(Coordinated multipoint transmission/reception)と呼ばれる多地点協調送受信方式が採用されており、複数の基地局が連携して送信の動的な協調、受信した信号の協調的な処理を実施する。

さらにLTEアドバンストでは基地局側ネットワークがSON(Self Organizing Network)と呼ばれる自己組織化ネットワークを採用し、基地局自身が自動的に隣接する基地局を認識して電波のカバー範囲などの最適化制御を実施する。広範囲をカバーするマクロセル内に小範囲をカバーするスモールセルを複数配置したり、基地局からの通信をリレーする中継局を設定するなど、セル内における通信速度の変化を最小限に抑える工夫が凝らされている)。

LTEの代表的な周波数バンドと国内主要キャリアのバンド割り当て、およびiPhone 6sのサポートバンドの対応表。iPhone 6sはグレーで示したバンドで国内主要キャリアとの通信をサポートしている。

無線伝送におけるMIMOの概念図。送信機と受信機の双方で複数のアンテナと送受信回路を用いて、通信品質を向上させる。限られた帯域幅を有効に使ってスループットや伝送距離を改善することができる( 【URL】https://www.nttdocomo.co.jp/corporate/technology/rd/lecture/smart_vertical_mimo/)。

LTEアドバンストでは安定した高速伝送を実現するため、広範囲をカバーするマクロセル内のユーザ密集地域に小範囲をカバーするスモールセルを複数配置し、それらをCA技術を用いて束ねている(【URL】https://www.nttdocomo.co.jp/support/area/premium_4g/)。

5Gは2020年以降実用化

次世代規格である5Gについては、世界標準の策定に向けて各国の組織や企業などが主導権争いを繰り広げている。先行しているのは欧州で、2012年11月に国際コンソーシーシアム、METISを設立、その後2015年には5GPPP(5G Public-Private Partnership Association)に合流し、技術開発や標準化で主導的な役割を果たしている。ITU−R(ITU Radiocommunication Sector)のワーキングパーティー5Dでは5Gの国際標準の策定を始めており、2019年までに決定する予定だ。

5Gはその特性として、2010年比で1000倍の伝送キャパシティ、10Gbps以上への高速化、1ms以下の低遅延と高信頼性化、100倍の接続端末数、さらなる低コスト化と省電力化が求められている。その実現にはまだ4年あまりの時間を要するが、部品ベンダーやキャリアはすでに実用化のためのアプローチを開始している。早ければ2018年にはその技術の一部を利用した高速規格「5G-Lite」が登場すると見られている。

次世代となる第5世代移動通信システムに課せられた要求レベルは非常に高い。その難関をクリアするために、無線チップベンダーやキャリアが互いに協力しながら技術開発を推進しており、その一部は「5G Lite」として現在のインフラに先行導入される見込みだ(【URL】https://www.nttdocomo.co.jp/corporate/technology/rd/tech/5g/5g01/02/images/pict_02_01.gif)。

【NewsEye】

本来LTEやワイマックスはIMT-Advancedに準拠した4G規格を満たしていないが、国内のキャリアなどが独自に「4G」の呼称を使用した経緯があり、 市場の混乱を避けるためITUは2010年12月にこれを認める声明を発表した。

【NewsEye】

プレミアム4Gでは、従来3GとLTEで兼用となっていた800MHz帯(バンド19)をフルLTE化し最大112.5MHzとすることで、2GHz帯、1.7GHz帯を加えた三波CAによって今年6月以降下り最大375Mbpsに増速される。