Mac初の4Kディスプレイ
新しい21.5インチには、同社初の4Kディスプレイが採用されている。その解像度は4096×2304ピクセルで、同サイズの従来iMac(1920×1080ピクセル)と比べて213%も高精細だ。27インチのiMacは従来と同サイズの5Kディスプレイを採用するが、今回新たにバックライトシステムを見直し、色表現能力を25%改善している。
新しいiMacの4Kおよび5Kディスプレイには、その高精細な表示性能を活かすために数多くの技術が投入されている。数千万ピクセルにおよぶ画素を制御する「TCON」はアップル社自身が独自設計したカスタムチップ。また、視野角が広い特徴を持つIPS液晶パネルの弱点である、データバス線とコモン電極間の信号クロストークに対しては、有機パッシベーション膜と呼ばれる技術を用いて信号の干渉を低減している。
さらに正面から見た場合のコントラストを改善するため、直線偏光の紫外線で配向膜に異方性を持たせる光配向技術や、斜めから見た場合のコントラストを改善するために屈折率楕円体が傾斜した光学補償フィルムが採用されている点も特徴である。
●高精細のディスプレイ
5120×2880ピクセルの解像度を持つ27インチは、レティナディスプレイを搭載しない21.5インチと比べて、画面いっぱいにコンテンツを映し出せる。これだけの高密度の画素をデスクトップマシンという制限のあるディスプレイに収めるために、アップルはさまざまなテクノロジーを投入している。
新しいバックライトシステム
新しいiMacの4Kおよび5Kディスプレイには、従来より25%多くの色が表示できる液晶パネルが使用されているが、それを支えているのが新しいLEDバックライト光源だ。
現在普及している液晶ディスプレイはその光源に白色LEDを使用しているが、従来の白色LEDは青色LEDに黄色(青の補色)の蛍光体を埋め込み、これを励起(れいき)して同時に発光させることで白色の合成光を発生させる仕組みだ(図1)。単に白い光源が必要であればこの方式は効率が良く、市場のLEDライト製品の大半がこのタイプのLEDを使用している。
しかし、黄色蛍光体を採用する白色LEDの発光スペクトラムを見てみると、図2のように青と黄色にピークがある特性を持っており、ディスプレイのバックライトに求められる赤や緑の成分が比較的少ない。このためこのタイプの白色LEDをバックライトに使用した場合には、三原色以外の余分な波長の光(黄色など)を効果的に吸収し、RGB三原色の光量バランスをとるために青色を大幅に吸収する特性を持たせたカラーフィルタが必要になる。その結果、フィルタ自体の光透過率が極めて低くなるので、バックライトをより明るくする必要がある。
図1 液晶ディスプレイの簡易構造図
液晶パネルの裏側には白色LEDを光源にしたバックライトパネルがあり、表側にはカラーフィルタがある。従来の白色LEDは青色LEDに黄色の蛍光体を組み込んだものだったが、新しいiMacには赤と緑の蛍光体を備えた白色LEDが採用されている。
図2 黄色蛍光体の白色LED
従来の白色LEDでは、原発光であるLEDの青色とそれに励起されて発光する蛍光体の黄色にピークがあるスペクトラムを持つ。ディスプレイに求められる緑や赤の成分が小さいため、カラーフィルタでの調整幅が非常に大きくなる。
赤と緑の表現性がアップ
そこで新しいiMacでは光源である白色LEDそのものを見直し、ディスプレイに最適な三原色を効率良く取り出せる二色蛍光体のLEDを採用。従来の黄色蛍光体に代わって新規に開発された赤色と緑色の蛍光体を採用し、図3のように緑と赤の波長にピークを持つLEDを新たに採用した。
このLEDの場合、緑や赤の波長のスペクトラムに対して他の色の量が相対的に低いため、カラーフィルタで減衰させなければならない光の量が大幅に減る。加えて、従来は低い赤や緑のレベルに合わせるために青い光も大幅に吸収しなければならなかったのに対して、両者のレベル差が大幅に減ることでより明るいカラーフィルタを採用できる。その結果、同じ明るさを求めるのであればより広い色域表現が可能になり、また同じ色域であれば大幅に消費電力を抑えることが可能になった。iMacではこれをより幅広い色彩表現を求める方向に使用し、従来の25%の色域拡大に結びつけている。
従来のディスプレイでは、色域の大きさを示す指標にsRGBを用いることが多かった。しかし新iMacはこのsRGBで定められた範囲を大きく超えた色表現が可能なため、新しくDCI−P3規格がその指標に使われた。DCI(Digital Cinema Initiatives)はその名のとおりデジタルシネマを制作・上映するうえの規格で、色域に関してはsRGBと比べて特に赤と緑の領域が拡張されている。新iMacは新しいバックライトシステムの採用により、より純粋な赤や緑が表現可能な色表現範囲を持ったといえるだろう。
図3 二色蛍光体の白色LED
蛍光体を緑と赤の二色構成とすることで、それぞれの波長にピークを持つスペクトラムになっている。赤や緑の成分がかなり大きいので、カラーフィルタをより明るい(減衰率の低い)ものに変更しても優れた色バランスが確保できる。
図4 sRGBとDCI-P3の色域
sRGBはパソコンのディスプレイがまだCRT(ブラウン管)だった頃に策定された色域指標。一方のDCI-P3はカラーフィルムの全表現範囲をカバーすることを目指して作られた標準で、色域も赤と緑方向に大幅に拡張されている。
そのほかの広色域技術
緑色・赤色蛍光体の採用以外にも、液晶ディスプレイの色表現能力を向上させる技術が存在する。バックライト光源に白色LEDではなく、三原色のLEDを使う方式は10年ほど前にハイエンドのフラットテレビに採用された技術だが、数多くのLEDの輝度バランスを揃えるのが難しいことや消費電力の大きさから、最近は業務用を除いて見かけなくなった。
一方で最近注目を浴びているのが量子ドットフィルムを使う方法で、蛍光体の代わりにナノミリメートルサイズの半導体結晶を用いて、青色LEDから赤や緑の光スペクトラムを効率よく作り出せる。アップルもこの技術に注目しており、すでに3件の特許が同社から出願されている。ここ数年採用するディスプレイも増加しており、今後iOSデバイスやMacへの採用の可能性も十分考えられる。
3M社が開発した量子ドットフィルムを組み込んだシャープ製広色域4K液晶パネルを採用する台アスーステクノロジー社の「ZENBOOK NX500」は、sRGB比で146%もの広い色域を誇る。量子ドット技術はアップルも注目しており、今後の製品に採用される可能性がある。