Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日: 更新日:

Apple Watchは私たちの何を変えるのか?

著者: 氷川りそな

Apple Watchは私たちの何を変えるのか?

“Appleが今もっとも大切にしているプロダクトなのは明らか”

「主役」の交替が始まる

毎年9月のイベントといえば新型iPhoneの発表、そう考えている読者諸氏も多いはずだ。アップルは事前に新製品情報を公開することはないが、各メディアはアップルが発表する前になんとか情報を手に入れようと躍起になっている。徹底した秘密主義で定評のあるアップルではあるが、そのビジネス規模の拡大によって、さまざまなサプライヤーから漏れ出す情報は年を追うごとに増えてしまっている。

そんな中でのアップル・ウォッチのアップデートはまさに意表をつくものだった。ネット上にもほとんどリークがなかったことからも、徹底した情報管制が引かれていたことが想像できる。そして、よもやエルメスとのダブルネーム製品が発表されるとは誰も想像できなかったはずだ。

そもそも、アップル・ウォッチを際立たせているのが「エディション(edition)」の存在だ。128万円から218万円という価格設定は、スマートウォッチというよりは、完全に高級時計と同じ商品価値を持つものとしてアップルは位置付けている。ここへさらに世界でもっとも影響力の高いブランドであるエルメスとのダブルネームモデルを投入することで、従来とはまったく異なる視点でアップルというブランドが取り上げられる基盤を、着実に築き上げつつある。

テクノロジーはコモディティへ

この視点で見ていくと、アップルが今後も成長を続けていくための「次の投資先」が見えてくる。すでにマーケットの存在するコンピューティングデバイス(PC、スマートフォン、タブレット)などとは異なり、スマートウォッチは、どのメーカーもそのノウハウを模索し始めているところだ。

ウェアラブルデバイスは文字どおり「肌身離さず」使うという今までのデバイスにない特徴を持ち、テクノロジーをライフスタイル、すなわちコモディティ(日常)化させることができるという点でも革新的な分野だ。「The Computer for the Rest of Us(普通の人たちのためのコンピュータ)」というキャッチフレーズで初代Macintoshを開発した精神は今もなおアップルに残っており、より多くの人々にテクノロジーを「当たり前のように使えるもの」として伝えていく存在として、今もっとも大切にしている製品がアップル・ウォッチなのは明らかだ。

加えて、性能以上にデザインを重視するファッション業界は、デザイナー主導でエンジニアリングを行うアップルとも相性が良いといえる。エディションやエルメスといったコレクションはまさに「デザインへ投資する」顧客への最適な起爆剤となるはずだ。そこへ「テクノロジーとライフスタイル」という従来の時計メーカーにない付加価値を今までの造詣を持って乗り込んでいくアップルは、すでに時計業界でも「黒船」との呼び声も高いという。

コンピュータ需要の冷え込みや、スマートフォンとタブレットデバイス市場の頭打ちなどが叫ばれる中でも成長を続けるアップルはよく健闘しているといえるし、引き続きリーダーとしてこの業界を牽引していくのは間違いないだろう。5年後、10年後にアップルはコンピュータメーカーとしてではなく、もっと大きな複合的な価値を持つ1つの「ブランド」として世間に認知される存在になっているのかもしれない。そのときアップル・ウォッチは、ターニングポイントとして歴史に名を刻む製品になるだろう。