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アップルプロダクトのデザインから考えるものと人と機械の交差点

10 iPhoneケースのリーク情報と開発準備の話。(2/2)

著者: 山田井ユウキ

10 iPhoneケースのリーク情報と開発準備の話。(2/2)

電源ボタンが2つあった! iPhone 6のリーク情報

─ 実際にどんなリーク情報があり、それをもとにどう動かれたのかを具体的にお聞きしたいと思います。まずは現段階では確定していない新型iPhoneですが…。

【道】今回はフルモデルチェンジではなく、マイナーチェンジだと予想されていますよね。大きさや厚みが微妙に違うんじゃないかという情報が出ています。その場合、金型は作っておきますが、あとから修正することも計算に入れて作ります。

─ 金型を修正するとなるとかなりコストがかかるのでは?

【道】そうでもないんですよ。もちろんコストはかかりますが、金型を削る方向のコストなら最小限で済みます。金型というのは物理的な金属で作ります。中に樹脂を流し込み、冷やして成形することでiPhoneケースになるわけです。もしiPhoneの外周の大きさが予想よりも小さかったとしましょう。その場合、外周に接する金型をそのままの大きさで作るとケースがぶかぶかになってしまうため、金型に金属を足してケースを縮めてやる必要があります。金型に金属を足すのは不可能ではありませんが、非常に時間とコストがかかるのです。そこで、外周に関しては小さめに見積もっておきます。そうすると、仮にiPhoneが予想より大きかった場合でも、金型を削ればいいだけなので、足すよりもはるかに修正が楽なのです。ちなみにこれは外周の場合なので、内周側の金型は逆の発想になりますね。ほかにも別パーツで作る部分もあるので、本当に場所によって違うのです。

【後】うちの場合、大変なのはボタン部分もかぶせて作っていることですね。多くのiPhoneケースは、ボタン部分は大きくドカッとスペースが空いています。あれは単純にそういうデザインということもありますが、発売日直前でボタンなどがどうなるか正確にわからないからという理由もあるのです。うちが生産をメイドインジャパンに切り替えたのは、そこにも理由があるんですよ。

【道】金型設計だけなら中国でもできますが、先ほど言ったように金型には修正が入りますから、9月後半くらいから中国の工場はシャレにならないほど大混雑します。優秀な工場には世界中からオファーがきますから、ある程度大口でないと優先して修正してもらえないのです。

【後】それなら日本で金型を製造したほうが、コストは10倍くらいかかりますがスピードは速いです。顔をつきあわせてコミュニケーションがとれるのもメリットです。

─ なるほど。メイドインジャパンであることがリスクヘッジになっているわけですね。

【後】そういうことですね。

─ ではiPhone 5sから6になったときのようにフルモデルチェンジの場合はどのようにして開発が進むのですか?

【後】フルモデルチェンジの場合は、それこそリーク情報がないとまったく動けませんね。ただ、こうなるんじゃないかというリークが出始めると、すぐにデザイン周りのイメージは作り始めます。

【道】iPhoneは数年に一度、大きなモデルチェンジがあります。5sから6のときはまさにそうでした。四角い筐体が丸くなりましたからね。あの形状の変更については、随分議論したんですよ。

─ お二人はどちらと予想されていたのですか?

【道】僕は丸くならないと見ていましたね。これはエンジニアリングのことがわかるからこそなのですが、iPhone 6のような曲線を切削で作るのはとても難しいんですよ。逆に4や5のように直線で切削し、角だけ面取りするのは簡単なんです。

【後】僕はアップルはいつか丸くしてくるだろうと考えていましたが、まだ先の話だと思っていました。というのも、僕らはiPhoneが四角かった頃に、丸くするためSQUAIRを作ったわけですよ。しかし切削で丸くするためのコストを考えると、iPhoneの製造単価で量産するのは無理でしょと思っていたんです。しかし、本当に丸くなりましたからね。

─ 正しい情報だったわけですね。ほかにiPhone 6のときのリーク情報にはどんなものがありましたか?

【後】面白いところだと、電源ボタンが2つあるという話がありました。エンジニアチームといろいろな予想をしましたね。ホームボタンがなくなって、こっちで指紋認証するんじゃないかとか…。その後、その話はぱったりなくなりましたけどね(笑)。

【道】あと、リンゴマークが光るって話もありましたよね。

【後】あったあった(笑)。背面パーツがMacBookみたいに光るんじゃないかっていわれていて、僕らはパッケージデザインでも光らせていたのに、発表されてみたら光らないじゃん!ってずっこけました(笑)。

【道】なぜそう思ったかっていうと、リーク情報の図面には基本的に骨組みの情報しかないんですよ。今までのリンゴマークは装飾だったから、図面にはなかった。だけどiPhone 6の図面にはリンゴマークが入っていたんです。ということは、骨組みのレベルでそこに線が入っているということ。つまり、穴があいているだろうと判断したんです。

【後】意味もなく穴をあけることはないだろうと思ったので、光るんだろうと思ったんですけどね。結局、別パーツではありましたが、光りませんでした。

─ リーク情報でもわかる部分とわからない部分があるんですね。

【後】基本的に外観以外はわかりませんね。ソフト面は一切わからないし、製品名なんかもわかりません。だからパッケージは発表されてから作ります。iPhone 6sだと思ってたら、しれっと6ミニとかにしてくるかもしれないから(笑)。

【道】iPhone 6のときはカメラもやられましたね。まさかあんなに出っ張るとは思わなかった。リークされた図面は正面から見たものなので何ミリ出るのかわからなかったのです。

【後】カメラが出っ張ったら机に置いたとき傷つくじゃんって皆いってたし、僕もないだろうと思っていましたね。そうしたら見事に出っ張って、そのせいでSQUAIRの「The Slit(ザ・スリット)」の発売が2カ月遅れました。あと、ケースには関係ないけど、Dラインも予想外でしたね。

─ まさに情報戦ですね。今回がどうなるか楽しみです。

【後】僕らも楽しみです(笑)。

リンゴマークの変化

iPhone 5sまでのリンゴマークはあとから塗装するという凝ったやり方で作られたものだった。iPhone 6から別パーツとなったため、ここが光るのではないかなどのさまざまな憶測を呼んだ。

「The Slit」は慎重な調整が必要

SQUAIRブランドのフラグシップ、The SlitはiPhoneのボタンやカメラなどを100分の1ミリ単位で覆う形状が特徴。非常に細かい調整が必要になるため、リーク情報にほんのわずかでも予想外の要素が入ると作り直しになることも。

【カメラ】

iPhone 6のカメラが出っ張るという話を誰もが否定していた頃、とある噂系サイトだけは「出っ張る可能性はある」と主張していた。その根拠として挙げていたのは、iPodタッチのカメラが出っ張っていたこと。どの予想が当たるのかは最後までわからない。

【OEM】

製造業では中国で金型を製造し、製品は日本で行うというやり方もあるが、中国のiPhoneケース工場に関してはそれは通用しない。金型は工場が所有し、メーカーはそこで製造されたケースに自社ブランドの名前をつけて発売する。OEMというやり方である。