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アップルプロダクトのデザインから考えるものと人と機械の交差点

10 iPhoneケースのリーク情報と開発準備の話。(1/2)

著者: 山田井ユウキ

10 iPhoneケースのリーク情報と開発準備の話。(1/2)

DAQ

ファッション業界での経験をバックグラウンドにぶっ飛んだ発案力と実践力を発揮する後藤鉄兵CEOと、後藤氏のムチャ振りにもクールに応える根っからの技術人・道家剛史CTOが率いる株式会社DAQ(http://www.squair.me)は、岐阜県に本社を置くアップル製品のアクセサリを企画・製造・販売する企業。現在、iPhoneを中心とするスマートフォンアクセサリ市場は国内2000億円市場だが、そのうち95%以上は海外生産。この由々しき問題を真剣に捉え、世界に通用する信頼度の高いMade in Japanプロダクトをリリースする。「日本でできないことはない、ただ皆チャレンジしていないだけ」をモットーに、全国津々浦々、アイデアを形にする職人や技術者を探しまくる。

リーク情報は量産に入ってから!?

─ はじめに断っておくと、このインタビューを行っている現在、新しいiPhoneは発売されていません。それを踏まえたうえでお聞きしたいのですが、DAQさんは新しいiPhoneケースをすでに開発されているんですよね?

後】そうですね。準備は整っています。

─ とはいえ、アップルから事前に新しいiPhoneの情報が出てくるわけではないですよね。

【後】公式には出てこないですね。

─ 生産に入ってしまうと後戻りできなくなると思うのですが、具体的にはいつ頃、GOサインを出されるのですか?

【後】準備が整ったといえるのはここ半月くらいでしょうか。8月に入ってからくらいですね。iPhoneの発売日って、最近はもうだいたいわかりますよね。そこから逆算して発売日に間に合わせるにはいつから生産すればいいかを考えて、結果としてジャッジするのは1カ月~1カ月半前くらいになります。

【道】もちろん、新しいiPhoneの形がどうなるのか、最終的なところは出てくるまでわかりません。ただ、今回のようにマイナーチェンジが予想される場合はリスクをとって準備します。万が一、予想が間違っていたら生産した商品を破棄する覚悟もしています。

【後】もっとも、弊社の製品には実際に物を見ないと作れないものもあります。たとえば僕らの「SQUAIR(スクエア)」は構造上、実機が出てくるまで判断できないので実機確認後に動くことを決めています。結局、どこまでいってもリスクはあるんですよ。会社として負えるリスクを考えて、セールスやマーケティング、エンジニアリングをミックスして判断する、それはCEOである僕にしかできない仕事です。

─ 一方で情報がまったくなければ発売日に間に合わせることはできないわけですよね。次のiPhoneがどうなるのかという話についてはネットでも噂が流れますし、リーク情報などが出てくることもあります。DAQさんのところにもそうした情報は入ってくると思いますが、それはいつ頃からなのでしょう。

【後】ネットには本当にさまざまな噂が流れますよね。アップルユーザとしてはそういう噂を楽しむのはありなのですが、我々はネットの噂は考慮しないことにしています。正確なリーク情報が出回るのは6月頃ですね。完全に推測になりますが、6月頃からiPhoneの量産が始まるからだと思います。

【道】これも推測ですが、おそらく1月か2月くらいの段階で、iPhoneの次期モデルは出来上がっているのではないでしょうか。そこから生産ラインを組み立てて、6月くらいから量産に入ると予想されます。逆にいうと、量産に入るまでは正確な情報はわからないのです。

バッタモン屋まで登場まさに情報戦

─ 開発は完全機密で行っているでしょうから、外部に物が出てから、つまり量産に入ってからリーク情報が出始めるというのはわかります。しかし、リーク情報は錯綜することも多いですよね。量産に入っているということは仕様は確定しているわけですが、だとすればなぜその段階でも偽物の情報が出るのでしょう。

【後】それはですね、ここ2年くらいの話なんですが、リーク情報のバッタモン屋さんというのがいるんですよ。iPhoneケースやアクセサリ事業は最閑散期が8月で、その直後に、次期モデル発売で最繁忙期になるという特殊なマーケットです。そうなると、発売日に間に合わせられるかどうかで売上はがらりと変わります。しかし、事前情報がないと間に合わせることはできません。つまり、情報が売上につながるからこそ偽情報を売る人が出てくるわけです。ある意味、情報戦といってもいい。iPhoneアクセサリ事業というのは、それくらい大きなマーケットに成長しているということです。

─ 偽情報というと、どんなものが出てくるのでしょう?

【道】すごく手が込んでいますよ。データだけならまだしも、パーツまで出てきますからね。本物っぽく作ったフェイクなんですが、非常によくできているんです。

【後】以前、こんなことがありました。iPad用のアクセサリを作っていたときのことです。当時はまだ中国で生産していたのですが、そのとき、次期iPadの背面パーツがあるんだけど見てみる?という話がきたのです。そこで実際に背面パーツとされていたものを見て、非常に精巧だったため、僕はそれを本物だと判断しました。そのパーツをもとに、見込みで次期iPad用のケースを生産したのですが、実際にはそのパーツは偽物で、それどころかiPad自体が発表されなかったんです。

─ えっ、発表すらなかったんですか!? そんなこともあるんですね。しかし、iPhoneにしろiPadにしろ、物があるからこそデータが流出するのではないかと思うのですが…。

【道】一言に流出といってもさまざまなケースが考えられます。これも推測ですが、アップル製品も試行錯誤を経て開発されているわけで、その中には試作もあれば製品に至らなかったものもあると思うのです。流出したデータやパーツが、そうした途中の段階のものである可能性もあります。

─ なるほど、開発自体はされていても出てこないこともあると。

【道】先ほど6月頃からiPhoneの詳細なリーク情報が出てくるという話がありましたが、iPhoneにしてもほぼ完成したあとで微妙な仕様変更が入るかもしれません。あるいは過去のバージョンの図面や試作パーツが流出することもあるわけです。

─ それらが本物のリーク情報と混じった結果、情報の錯綜が起きるというわけですね。ところで、逆にアップルはなぜ図面をメーカーに提供しないのでしょうか。これだけiPhoneアクセサリ市場は大きくなっているのに。

【後】おそらくブランドを守りたいからでしょう。アップルはアップルストアに並べる製品を厳格にセレクトしています。しかも最近はアップルストアの中でも純正ケースのエリアが広くなっているように感じます。アップルからすれば、まずは純正のケースを売りたいわけで、サードパーティのケースは発表後に開発しなさいということなのでしょう。実際、発表後には公式に図面が出ますからね。

─ しかし、それでは発売日に間に合わず商機を逃してしまうわけですよね。

【後】そういうことですね。我々としては、たとえば噂が大きく2種類あるなら、2種類とも作ってしまいます。どちらかがボツになってもまったく構いません。一日も早く作ることが商機につながりますから。

リーク情報は外観の図面のみ

リークされる情報は外観の図面だけでソフト面や色、名称などの情報はない。iPhone 6では正面からの図面しかなかったため、カメラが何ミリ出っ張るのか正確な情報が得られず、ケースを作り直すはめになってしまったという。

【ボタン】

DAQのSQUAIRはボタンまで完全に覆う形状を採用しているため、ボタン形状が変わるのは一大事。iPhone 6のときは発売日に7台の実機を購入し、100分の1ミリ単位の違いで作ったボタンを1つずつはめてみたという。最後はアナログな感覚を大事にしているのだ。

【信頼性】

ネット上の噂などを除くと、信頼性のあるリーク情報は4~5種類ほどでてくるという。その中からどの情報が正しいのかを判断する基準は、入手ルートが信頼できるかどうか。また、アップルならこうはしないだろうといった主観も判断材料の1つだ。