僕らは、4000メートル近い大地の崖を歩いていた。息は切れるが、眺めは素晴らしい。どこまでも豪快で壮大な山が連なり、ところどころにある平地には小さな集落が転々と見える。雲間からの光に照らされた屋根は小さく光り、また雲の下へと消えていった。
エチオピア北部の山地にある、シミエン国立公園。世界遺産のこの公園を歩く3日間のツアーに、僕らは参加していた。ガイドに連れられ、数組のツアー客と一緒に登っていく。ツアーには、ライフルを持ったセキュリティのおじさんも2人同行していた。公園に入るならば、これが“きまり”らしく、雇わないといけないらしい。ツアー代金にも初めから含まれていた。猛獣が出てくるかもしれないし、隣国の情勢は不安定だ。大事をとってのことなのだろうが、そんなに危険な場所なのかと逆に怖くもなる。
ツアーは、絶景ポイントでちょくちょく休憩をとってくれた。ガイドによる珍しい動植物の解説なんかを聞きながら、景色を眺めて息を整える。ライフルおじさんたちも同じく休憩をする。岩影に銃を立てかけて腰を下ろし、なんだか楽しそうに世間話をしている。「あれ、僕らの安全は!?」と、ツアー客一同、内々でツッコミを入れるのだが、ある欧米人が言った「これも1つのジョブクリエイションなんだろ」という言葉に妙に納得してしまった。絶景を前にした2人の背中が妙に平和で、僕らはちょっと安心した。
鈴木陵生(Ryosei Suzuki)
映像作家。2011年より夫婦で世界一周を始める。旅の様子を発信する映像サイト「旅する鈴木」が、平成26年度文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に。2014年11月、DVD&Blu-ray「World TimeLapse」(KADOKAWA)をリリース。【URL】 http://ryoseisuzuki.com
【PS】
エチオピアの観光ツアーはかなり大がかり。ほかの場所でも参加してみたけれど、ソルジャー以外に、コックさん(すごい美人だった!)が同行し、ベジタリアン用の夕食を用意してくれるものもあった。アフリカっぽいところも多々あるが、結構楽しく観光できる。