今すぐ診て!に応えるアプリ
株式会社エストコーポレーションの開発したiOSアプリ「ソクミテ」は、iPhoneなどのデバイスを使って、今、自分がいる場所の近くで空いている内科を探せるアプリだ。
使い方はとても簡単。会員登録は不要で、アプリをダウンロードすれば誰でも無料で利用できる。まず、アプリを起動すると、地図上に現在地付近の医療機関が表示される。各医療機関の位置を示すマークは、現在受け入れ可能な人数に応じて色分けされており、緑色は3人以上、黄色なら2人以下、灰色は診療時間外/混雑を示す。マークをタップすると、医療機関の情報が表示され、問い合わせの電話をかけたり、それぞれのWEBサイトに飛ぶこともできる。行きたい医療機関が決まったら「診て」ボタンをタップ。アプリの操作はこれだけだ。あとは地図を頼りに医療機関に向かい、通常どおりに受付をする。受付履歴の確認やキャンセルもアプリ内でできる。
一見、医療機関の予約ができるアプリのように見えるが、決して予約が入れられるわけではない。ソクミテに登録されているのは、飛び込みの診療を受け付ける医療機関のみ。ソクミテはあくまで、「今空いていて待ち時間の短そうな医療機関」を探せる検索サービスだ。当然、医療機関に行く間にたくさんの先客が訪れれば、待ち時間が長くなることもあり得るが、今すぐ医師に診てほしいというときに、近くの医療機関とその混雑状況が素早く確認できるのはありがたい。
導入する側の医療機関で行う操作も非常にシンプル。医療機関がソクミテに自らの情報を掲載するには、あらかじめ登録が必要だ。登録医療機関には、ブラウザでアクセスできる専用の設定画面が用意されており、住所や電話、診療科目といった基本情報に加えて、受け入れ可能な人数と時間を設定する。たとえば、「9時から5時の間、3人まで受け入れ可能」といった具合だ。この「受け入れ可能人数」はその医療機関がおおむね1時間以内に診察できる人数を指定する。
基本的にはこれだけの設定で利用できる。ユーザの画面には医療機関の設定した受け入れ可能人数が表示され、「診て」ボタンが押されるたび、自動的に受け入れ可能人数が減っていく。人数は30分ごとに自動でリセットされるので、何か特別な事態がなければ、医療機関側はほとんどノータッチで運用することができる。
受け入れ人数と時間は、必ずしも医療機関の最大受け入れ可能人数や診療時間と一致させる必要はない。たとえば、いつも空いている時間を受け入れ可能にしておき、混雑する時間帯は受け入れ不可にしておくこともできる。また、突然、多くの患者が訪れたような場合には、一時的に受け入れ不可にすることが可能だ。
WEBへのアクセス手段さえあればソクミテの導入はとても簡単で、高度なITスキルを持たなくても導入可能だ。また、医療機関側にも料金はかからない。
ソクミテの登録医療機関の設定画面。受け入れ可能な人数と時間帯を設定しておくだけで、その後はノータッチで機能する。週ごとに受け入れ時間や、人数を設定することも可能。急な混雑や臨時休診などに応じて、受け入れ人数は常時変更できる。
空き時間に手早く受診
ソクミテを運営しているエストコーポレーションのCIO/執行役員の長谷川裕介氏は開発経緯を次のように語る。
「私自身、仕事中に体調が悪くなっても、短時間で病院を受診できそうもないので医療機関に行かないということがよくありました。そんなときに、もっと気軽に受診に行ける仕組みが欲しいと思い、ソクミテを開発しました」
同社によると、都内のサラリーマンの3人に1人が「待ち時間が長い」「空いている医療機関がわからない」などの理由から医療機関に行きたくても行けないという調査結果があるという。
医療機関にとっては、集客効果だけでなく、来院時間の分散も期待できる。
「就業時間を避けて受診する人が多いため、医療機関の多くは朝や夜の時間帯は非常に混む一方、昼間は空いていることが多いです。医療機関としては空いている時間に来てほしいですし、受診者も空いている時間に行きたいと思っています。ソクミテは空いている場所や時間を見える化することで、両者をマッチングさせることができます」
予約サービスではなく、空いている医療機関を探す検索サービスとしたのは、飛び込み診療をメインとする日本の医療事情に適応するためでもある。
同社は、2013年から「エストドック」という医療機関の「予約サイト」を運営しているが、こちらに登録している医療機関の約9割は歯科が占めている。もともと予約制の普及している歯科と違い、先着順が一般的な内科などでは、すでに待っている患者を後回しにして予約患者を診ることに抵抗があるという。ソクミテのシステムはこうした事情を考慮して作られた。
広告モデルでマネタイズ
ソクミテとエストドックの違いはビジネスモデルにも表れている。エストドックは、予約した患者が受診するごとに医療機関に料金が発生する「送客モデル」であるのに対し、ソクミテは端末に表示される広告が収益源だ。これにより、ユーザ・医療機関ともに無料で利用でき、個人情報の登録も不要になっている。
「送客モデルでサービスを構築する場合には、弊社のシステムを使って受診に訪れたかをきちんと把握する必要があります。広告モデルのソクミテではその必要がありません」
受診者が自己申告しない限り、ソクミテ経由で来たかどうかもわからないが、もともと予約のできない医療機関のみを対象としているので、たとえソクミテで_診て_を押した人が来院しなくても、医療機関に新たな損失が生じるわけではない。このあたりの割り切りは、一般の医療系システムにはあまりない発想といえるだろう。登録医療機関からの、「普段は使っている気がしないが、記録を見ると使われていることに気づく」という声が、ソクミテの特徴を良く表している。
個人情報を取得していないので利用者の詳細な分析はできないが、アクセスログから、予想以上に就業時間中に使われていることがわかったほか、「近くにこんなに医療機関があるとは知らなかった」といった声が寄せられているという。
現在、ソクミテのサービス範囲はまだ新宿区・渋谷区・港区の内科だけに限られているが、今後はサービスエリアを拡大し、要望の多い小児科など、ほかの診療科目への対応も検討しているそうだ。
アプリを起動すると、現在地付近の医療機関の位置と混雑状況が表示される。
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地図上のマークをタップすると、医療機関の情報が表示される。
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[診て]ボタンをタップ、確認で[はい]を押せば完了。医療機関に向かおう。
【待ち時間】
厚生労働省の「平成23年受療行動調査」によると、診察までの待ち時間は「30分未満」が初診41.0%、再来44.8%、「30分以上」が初診42.0%、再来41.5%となっている。また、診察時間は「10分未満」が初診46.9%、再来53.7%、「10分以上」が初診32.5%、再来29.5%という結果だ。
【受診期間】
「平成23年受療行動調査」は、自覚症状がありながら、受診までの期間が1週間以上かかった人にその理由を尋ねている。理由の第1位は「まず様子を見ようと思った」が62.6%、2位が「医療機関に行く時間の都合がつかなかった」。ちなみに「医療機関が近くになかった」は3.9%。