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iPhoneアプリの手軽さで、うつや不安、心の状態をケアする

著者: 木村菱治

iPhoneアプリの手軽さで、うつや不安、心の状態をケアする

心の状態を点数で把握できる

ソフトウェア開発会社の日本ブレーンが開発した「アン-サポ」は、自分の心の状態を簡単に評価・記録できるメンタルヘルス診断アプリだ。セルフチェックは「うつ症状」と「不安症状」それぞれ10個の質問を、4択で答えるだけなので、数分もかからない。結果は「うつ」、「不安」に対応する心の状態が点数として表示される。データはクラウド上に保存され、自分の心の状態の変化をグラフで確認することができる。アプリ自身に「利用者が病気である」と診断する機能はないが、自己問診の点数が低いほど、心が健全な状態だと判断できる。

このサービスを発案したのは、東京と福島で「ひもろぎ心のクリニック」などを経営する、ひもろぎグループの渡部芳よしのり德理事長だ。前述の「うつ症状」と「不安症状」のセルフチェックには、渡部理事長が考案した「うつ症状&不安症状評価スケール『HSDS/HSAS』」を採用している。

渡部理事長は「このスケールのポイントは、心の状態をうつと不安に分けて点数化することです。うつと不安では、使用する薬が異なるので、それぞれの点数を見て、最適な治療方針を探すことができます。また、点数の変化で治療の効果を客観的に見ることができるのも優れた点です。このスケールは、私のクリニックで10年以上使用しているので、その効果を確認しています」と語る。

「アン-サポ」アプリのベースとなっているのが、同クリニックが2年前に考案、導入したアン-サポの医療機関向けサービス「アン-サポ スマートクリニック」だ。もともとは、問診時に記入してもらっていた紙の評価スケールを電子化する目的で作られた。患者がiPadを使って設問に答えると、データが自動集計され、医師の手元に必要な情報が整理されて届く。

「外来の患者さんには毎回紙の評価スケールに答えてもらっていたので、蓄積される情報は膨大な量になっていました。それに、紙の記録は保管コストがかかるだけでなく、情報の多角的な分析ができません。なんとかこれを簡単にデータベース化できないかと思っていたときに、iPadが登場したのです。これは評価スケールの入力に最適のデバイスだと確信し、すぐに導入を決断しました。

iPadですべてのデータを電子化することで、患者さんの状態の変化をグラフで捉えたり、データを統計的な手法で分析することが可能になりました。例えば、どの薬がどの項目に効いたのか、といった分析によって、治療を最適化することができます」と渡部理事長は導入効果を語る。患者がより入力しやすいように、項目の数こそ減らしているが、「アン-サポ」アプリは、専門医が診断に使うものと同等の自己問診がいつでも、気軽に利用できるということだ。

 

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ひもろぎグループの渡部芳德理事長。「ひもろぎ心のクリニック」をはじめ、東京と福島で3つの精神科系クリニックを運営し、高齢者向けにも介護事業施設を複数経営している。アン-サポで使われている自己問診スケールを開発し、欧米の学術雑誌に論文を発表するなど、新しい精神科医療の研究に積極的に取り組んでいる。

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ひもろぎ心のクリニックでは、アン-サポ スマートクリニックを使用している。患者が待合室で、iPadを使って自己問診表に答えておくと、診察時にはその分析結果が医師の元に届いている。電子化により、膨大な数の問診表の保管コストが不要になっただけでなく、長期の問診データや服薬との相関関係を多角的に分析できるようになった。

継続して記録することが大事

普段から心の状態を記録し続けることは、病気の早期発見や治療に対して、大きなメリットが期待できる。「アン-サポ」アプリのように、iPhoneを使って気軽に毎日の心の状態を記録し、自分の症状を客観的に見ることは、メンタルヘルスにおいて大きなプラスになるという。それを見越した渡部理事長は、もともと院内用に作っていたシステムを「アン-サポ」として提供した。「心の状態は毎日変化しますから、1つのデータだけでは診断が難しいのです。例えば、家庭で不幸があったりすれば、誰でも点数が高くなりますが、それだけではうつとは診断できません。長期のデータがあれば、それだけ的確な診断がしやすくなります。しばらく通院できない患者さんも、自分のiPhoneで記録を取っていれば、来院時にスマートクリニックにデータを転送してもらい、それを分析できます」(渡部理事長)。転院する際にも、スマートクリニックを使っている病院同士なら、病状のデータを引き継ぐことができる。

アン-サポには法人向けのサービスも用意されている。会社内で、うつや不安を抱えた人の早期発見ができる、企業向けサービスの「メンタルヘルスケア」だ。日頃から、従業員の心の状態を把握していれば、勤怠管理システムと組み合わせて点数の上がった人の負荷を減らしたり、早めに産業医に看てもらうといった判断がつきやすい。

前述の「アン-サポ」アプリ、「スマートクリニック」と合わせた3つのシステムで、共通の自己問診スケールを採用したことで、個人、企業、病院の間でスムーズな連携が可能になる。

 

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以前、使われていた紙の自己問診スケール(上)とアン-サポのセルフチェック画面(左)。各項目には点数が付けられており、その合計点によって、うつや不安の程度がわかる仕組みだ。

患者同士の情報共有の場にもなる

「アン-サポ」アプリには、ユニークな機能が付いている。セルフチェックで得られた点数を、全国のユーザの平均値と比較して見ることができるのだ。平均値は、薬の服薬数別に分類されており、自分と同数の薬を服用しているユーザと比較することも可能だ。

グループで自己の体験を話し合う集団療法などを通して、患者同士がお互いに情報を共有することが、回復を早めるという事例を数多く見てきた渡部理事長。精神科に通っている人たちは、ほかの人とあまり情報交換ができないという現実があるという。それに対して、たとえ匿名の仮想空間であっても、情報を共有することで、プラスの効果があるのではないかと考えたそうだ。まだ仮説の段階ではあるが、今後集まったデータを分析する準備を進めている。

同じくアプリに搭載されている機能「お薬手帳」では、国内で入手できるすべての薬が登録できるようになっている。これにより、例えば、抗がん剤とメンタルヘルスの関係など、他分野の薬が精神に与える影響の研究にも役立てることができる。

「アン-サポ」アプリのユーザ数は8月現在で2000人ほど。今後ユーザ数が増えることで、医学的に有益なデータが得られる可能性は高い。「多くの患者さんの長期的なデータが蓄積されると、薬の効果について、より詳しい分析が行えます。それによって無駄な薬を減らすことができるでしょう。精神科治療での多剤併用はよくないことがわかっていますし、国の医療費の削減にもつながります。そして最終的に自殺者を少しでも減らすことができればうれしいです」と渡部理事長。シンプルなiPhoneアプリには、さまざまな期待が込められている。

 

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企業向けのアン-サポ メンタルヘルスケア。従業員のメンタルヘルス管理は、企業に必須のものとなりつつある。iPhoneやiPadを使って情報収集することで、社員の健康管理が容易に行える。

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アン-サポ スマートクリニックの医師向けの表示画面。問診から計算された点数がわかりやすく表示され、素早い分析が可能。データ処理の効率化は、患者との対話にかける時間を増やすことにもつながる。

 

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アン-サポ

[価格]無料[販売業者]Japan Brain Corporation[場所]App Store>メディカル

『Mac Fan』2013年12月号掲載