2021年4月に愛知県瀬戸市に開校した瀬戸SOLAN小学校は、「グローバルシチズンシップの育成」を建学の精神に据え、全授業の約4割を英語で実施するなど、「提案・行動型の子どもの育成」に取り組んでいる。注目の新設校で教務主任を務める荒谷達彦教諭に、学習環境のデザインの工夫や、iPadを活用した実践について話を聞いた。
全授業の約4割を英語で実施
愛知県瀬戸市に2021年4月に開校した瀬戸SOLAN小学校は、現在小学1年生から4年生の児童が約150名在籍し、特色と魅力ある教育環境やカリキュラムで注目を集めている。「グローバルシチズンシップの育成」を建学の精神に据え、音楽や図工、体育、生活科といった活動中心の授業をはじめとして、なんと全授業の約4割が英語で実施されているという。「提案・行動型の子どもの育成」を目指している同校では、学習環境のデザインに力を入れているそうだ。
「本校では、子どもの学びのプロセスを細やかに把握し、本人や保護者へフィードバックするために、4学期制を採用しています。そのため夏休みは2週間のお盆の期間に限り、それ以外は一般的な学校が夏休みの期間である7月~8月も、本校では通常日課の授業が行われます。カリキュラムは、授業全体を習得・活用・探究の3つに分けて実施していますが、各教科の知識をしっかり習得し、その知識が活用できるようになってこそ、一人ひとりの興味関心に沿った探究学習が実りあるものになると考えています」
知識・技能の習得は、毎朝1時間目の授業を15分ごとに分けて、「漢字・計算」「言語」「情報」「考える技」「数」「書くスキル」といったテーマで、モジュール授業として実施しているそうだ。短時間で反復することで学習意欲の低下を防ぎ、意欲的な授業参加を促している。これにより記憶の定着にも効果があるようだ。
知識・技能の活用では、活用型のプロジェクト授業を学期に1回取り組んでおり、教員側が設定したテーマに沿って年間4回のプロジェクトを実施している。
「昨年3年生の担任をしていた際には、学校近辺の自然環境をデジタルネイチャーマップとして『キーノート(Keynote)』にまとめたり、瀬戸市の魅力を発見し、発信するために『ページズ(Pages)』でデジタルブックにまとめたりしました。ほかにも、子ども向けのプログラミング教育用に作られたマイコンボード『マイクロビット(micro:bit)』を使って、生活に役立つものを作ったり、本校には校歌がないので、作曲家の協力も得て愛唱歌を『ガレージバンド(GarageBand)』で制作したりしました」
荒谷達彦教諭
瀬戸SOLAN小学校教諭/教務主任。5歳から10歳半までをアメリカのジョージア州アトランタで過ごす。国際バカロレアの認定校である京都の私立小学校で担任、ICT専科、プログラムコーディネーターとして12年間勤務した後、瀬戸SOLAN小学校へ。Apple Distinguished Educator 2017。
Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。 世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。
独自開発のアプリを活用
英語教育・ICT環境・探究学習の3つを教育の柱に据える同校では、セルラーモデルのiPadを児童1人に1台整備している。各教室にWi|Fi、大型ディスプレイ、アップルTV(Apple TV)が整備されており、どこでもインターネットにアクセスできる徹底ぶりだ。
また、安全の確保や感染症対策としてもICTを活用し、児童が登校した際にその情報が保護者に届き、検温の結果も蓄積される。保護者はブラウザ上で保護者ページにアクセスすることで、遅刻・出欠の連絡、学用品や制定品の購入に至るまでオンラインで完結している。
クラウドは「グーグル・フォー・エディケーション(Google for Education)」を活用し、コロナ禍のオンライン授業も「グーグル・ミート(Google Meet)」で行ったそうだ。そのほか、オリジナルアプリ、学習系アプリ、アップル純正アプリ、グーグルサービスなど、さまざまなアプリを授業で活用している。中でも特徴的なのは、独自に開発しているアプリやポートフォリオだ。
「本校は、学校向けシステムの企画・開発をしている企業が運営していることもあり、図書貸し出しアプリやポートフォリオなどを独自に開発しています。特徴的なのは、『まなポート』と呼んでいるeポートフォリオで、カリキュラムと連動した4つの機能を備えています。『教科学習』機能は、教科の観点別・内容構成別の評価を毎月確認することができます。『プロジェクト学習』機能は、プロジェクト学習の学習活動・成果物・評価・振り返りを、『SOLAN学習』機能は、探究での学習活動・成果物・評価・振り返りを蓄積します。『アクティビティ機能』は、生活全体について、児童・保護者・教員間でコミュニケーションをはかることができます。プロジェクトや探究の学習では、学習活動に対するルーブリックを児童と設定し、自己評価や教員評価を行います。児童の学びに対して、教員はコメントを書き、フィードバックを行い、学習改善に役立てるようにしています」
学習記録と振り返りが蓄積されるポートフォリオの活用を繰り返すことで、徐々に子どもたちの振り返りの質も上がっているという。コロナ禍でスタートした新設校ゆえに、これまでも個人懇談は完全オンラインで実施してきたそうで、保護者を巻き込んでICT環境を整備したからこそ実現できた取り組みの数々だ。
教育の当たり前を問い直す
荒谷教諭は、京都の私立小学校で開校準備から担任、ICT専科、プログラムコーディネーターとして12年間勤務した経験を持ち、2017年にはADE(Apple Distinguished Educator)にも認定されている。
「前職の同じ法人内の先生がADEだったこともあり、その存在を知りました。ADEの先生方とは、校種関係なく本校に視察に来てくださるなど、交流が続いています。ADEの先生方の実践アイデアには常に刺激を受けており、ただのiPad活用やアプリの使い方といったハウツーではなく、そもそもの教育の考え方に共感できることが多く、語り尽くせないほどの価値をいただいています」
実践者としてパワフルに実践を重ねる荒谷教諭は、iPadが子どもたちの学びの中心となり、教具として機能している実感が持てていると語る。特に週に2コマ行っている探究では、テーマを見つける作業から始まり、実際に調べ、まとめて発表するというサイクルを何度も繰り返す中で、iPadが欠かせないという。個人探究ゆえに調べ物をしている子もいれば実験をしている子、情報収集をしている子などさまざまだが、自然とiPadを使って情報を共有したり、教え合ったりする姿が見られるそうだ。
また、探究の授業では、保護者にボランティアとして授業への参加を依頼しているという。
「個人探究は支援者の存在が重要です。そのため、保護者の方にもボランティアで伴走していただいています。10~20人ほどの保護者の方が毎回手伝ってくださるのですが、たとえば、国語辞典を使って読めない漢字を一緒に調べたり、調べたことをまとめる際に話し合ったりしてもらっています。このように保護者を巻き込んだ取り組みだけでも全国的に珍しいと思うのですが、そのほかの授業でも瀬戸市の市役所の方や専門家に関わっていただくなど、さまざまな立場の人々と協働的に学ぶ場を創っています。もともと本校は、固定的な時間割や通知表といった既存の教育の当たり前を問い直すというところからスタートしていますので、未来の教育に向けた学習環境のデザインをこれからも磨き続けていきたいと思います」
荒谷達彦教諭のココがすごい!
□「提案・行動型の子どもの育成」を目指し、学習環境を多角的にデザインしている
□ 実りある個人探究を実現するため、知識の習得・活用に力を入れている
□ 保護者や専門家を巻き込んだ探究学習を実現している