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“Appleイズム”の革命的教育法を身につけよ!

著者: 神谷加代

“Appleイズム”の革命的教育法を身につけよ!

「今の教育システムのままで良いはずがない」。きっと、多くの教育者がそれに気づいているはず。では、どう変わればいいのか。Apple教育部門の初代バイスプレジデントであるジョン・カウチ氏の書籍『Appleのデジタル教育』を読んでみよう。“今、どんな教室を作るかで、明日の社会が決まる”。そう語るジョン・カウチ氏が目指す教育とは何なのか。

変革が求められる教育界

本連載は、アップル製品の教育活用や、ADE(Apple Distinguished Educator)と呼ばれるアップルが認定する教育分野のイノベーターを取り上げてきた。ただ、今回は今年3月に発売された書籍『Appleのデジタル教育』を紹介したい。

なぜなら、アップルユーザであろうとなかろうと、本書は教育関係者らに対して、“今こそ教育は変わらなければならない”ということを、強く再認識させてくれるからだ。日本の教師たちには今、情報活用能力の育成やプログラミング教育、働き方改革など、多くの変革が求められているが、その取り組みに必要なテクノロジーの利用については、未だ抵抗感も根強い。そんな教育現場に向けて、改めてテクノロジーが子どもたちに与える可能性や影響について知ってほしいと思い、本書を取り上げた。

まず、邦題が『Appleのデジタル教育』となっているので、読んだことのない人から見れば、本書はアップル製品の教育活用を紹介する書籍だと思ってしまうかもしれない(実際、筆者もそう思ってしまった1人である)。しかし、読み進めてみると、意外にもアップル製品の話はほとんどなく、テクノロジーがいかに教育に必要であるか、教育現場でどのようにテクノロジーを活用すればいいか、真正面から語っていることに気づく。

目次だけを見ても、「教育の目的」「人間の可能性」「モチベーション」「学習の定義」「学習空間」といった教育を真芯で捉えた言葉が並び、テクノロジーと学習の本質に向き合おうとした書籍であることがわかる。

それもそのはず。本書の著書は、アップルの教育部門の初代バイスプレジデントを務めたジョン・カウチ氏と、ハーバード大学特別研究員のジェイソン・タウン氏という2人のエキスパートだからだ。特に、ジョン・カウチ氏については、アップルの54番目の社員として6年ほど勤めたあと、サンディエゴの学校改革に10年間取り組み、アメリカで目覚ましい発展を遂げた学校に贈られる「ナショナル・ブルー・リボン・スクール認定」を受けるなど、教育現場で多大な貢献を果たした人物。その後、スティーブ・ジョブズ氏が2002年にアップルに復帰し、教育部門を新設した際、ジョン・カウチ氏を初代バイスプレジデントとしてわざわざ呼び戻したほどだ。以来、ジョン・カウチ氏はアップルが進める教育改革の中心的な存在となっている。

そんな教育現場とテクノロジーの活用をよく知るジョン・カウチ氏の著書というだけあって、テクノロジーの活用については経験豊富なエピソードと教育研究の引用も多く加わり、読み応え十分だ。

『Appleのデジタル教育』

ジョン・カウチ、ジェイソン・タウン著

かんき出版 1870円(税込)

教育のリワイヤリング

本書の原題は『Rewiring Education』であり、本文でも“教育のリワイヤリング”という言葉が非常によく出てくる。「リワイヤリング」とは、配線のやり直しを意味する言葉だ。要するに既成概念を捨てて今までのやり方を変えよう、道筋や手順を変えよう、アプローチを変えようといったメッセージであり、これが本書のメインテーマとなっている。

では、どのように教育をリワイヤリングすればいいのか。そのひとつとしてジョン・カウチ氏は「学習に関するリサーチと最新テクノロジーを活用して、今の生徒一人ひとりのニーズに即した学習体験をパーソナライズ化する必要がある」と述べている。教師の話を一方通行に聞く“受け身主体”の教育から、生徒がインタラクティブに学べる“参加主体”の学習へ切り替え、学校全体が創造性や独創的な思考を育める場所になることが重要だというのだ。なぜなら、子どもたちは実際に何かを行うプロセスの中で、自ら学び始めるから。受け身な姿勢からは何も生まれず、子どもたちにとって主体的な学習を実現するために、今の時代はテクノロジーと学習の融合が不可欠だと説明している。

正直にいうと、こうした考えは日本でもすでに広く知られており、目新しさはないかもしれない。しかし、本書で注目したいのは、同じ考えでも、日本とは違う文脈で、教育者の挑戦を後押しするような強い言葉で綴られていることだ。だからなのか、読後は“やっぱりテクノロジーは学習に必要だ”という考えに迷いはなくなるし、“新しいことに挑戦してみよう”と多くの教育者が思うはず。

また、テクノロジーの活用について、学習のパーソナライズ化、コーディングの学び方、アダプティブラーニングの導入方法、バーチャルアシスタントの活用法、3Dプリンタなど幅広い種類を網羅している点も注目したい。それらの活用事例や効果的な使い方にも触れているので、日本の多くの教育者にとって有益な情報となるだろう。

筆者が特に面白いと感じたのは、電気自動車大手テスラの最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスクが作った学校「アド・アストラ(Ad Astra)」を紹介した一節だ。たとえば、エンジンがどのように動くかを学ぶ際、従来の学校であれば、“まずはネジ回しとスパナについて学ぼう”となるが、同校は違う。エンジンをみんなで分解し、その際にネジ回しが必要になることを教えるというのだ。ジョン・カウチ氏は、「ツールの使い方を学ばせることで、問題解決を教えるという考え方は、教育のリワイヤリングの核となる」と述べている。同氏は、こうした事例を挙げながら、教育の新しい原則「21世紀版学習のABC」を本書の中で提唱している。

チャレンジ設定型学習

本書は、アップル製品の教育利用を紹介したものではないと冒頭で述べたが、それでもやっぱり“アップルらしい”と思える部分がある。それは、「PBL(Project Based Learning=課題解決型学習)」よりも、「CBL(Challenge-Based Learning)」と呼ばれる「チャレンジ設定型学習」を勧めていることだ。

PBLは近年、日本の学校でも取り組む教育者が多い。しかし、ジョン・カウチ氏に言わせると「PBLは教師主導が多く、ネットによる情報収集やプレゼンテーションの利用だけで、テクノロジーの良さが活かされない」と辛口な評価だ。

一方でCBLは、テクノロジーを活用したチャレンジをベースにする学習で、コンテンツを生み出したり、育てたりできるようになることが目的だという。たとえば、生徒自身がチームで動画ブログを作成し、入力アシスタントツールを使って注釈やコメントを埋め込むなど、文字、音声、動画などの複数媒体を組み合わせながら、ひとつのプロジェクトを完成させるという。まさに、アップルが教育分野で進める「エブリワン・キャン・クリエイト(Everyone Can Create)」の世界そのものだといえるだろう。

最後に、筆者はPCやタブレットを導入した学校へ取材に行く機会が多いのだが、せっかくデバイスが導入されても、現場ではほとんど使われていないケースや、ITが得意な教師しか使っていないという話を聞くことがある。そうした話を聞くたびに、“なぜテクノロジーが教育に必要なのか”という理由が、教育者たちに伝わっていないからだと思っていた。今回、本書を取り上げることで、より多くの教育者らに、テクノロジーと教育の必要性が伝わり、子どもたちがより創造的、独創的に学べる取り組みが広がることを期待したい。

ADEになるための必読書2冊

「Appleと教育」に関する書籍ということで、もう2冊紹介しよう。Appleの教育プログラム「ADE」に選ばれる教育者たちが、必ず読むという書籍だ。ADEたちは教育の変革を目指して、リーダーとしての活躍が求められるが、その立場に必要な知識やノウハウが詰まっている。

「学校でのイノベーション」については、世界中の革新的な教育者らが取り組む学びや指導、テクノロジーの活用事例を紹介。また「リーダーシップの要素」では、イノベーションをもたらすリーダーに必要な知識やノウハウ、考え方などをまとめている。ダウンロード可能な計画ツールなども含まれており、これらのリソースを使って取り組みを前進させることができるだろう。

Apple Booksにて、どちらも無料でダウンロード可能。ぜひ手にとってみてほしい。

URL:https://books.apple.com/jp/book/学校でのイノベーション/id1360390070

URL:https://books.apple.com/jp/book/リーダーシップの要素/id1360380629

『Appleのデジタル教育』のココがすごい!のココがすごい!

□“今こそ教育は変わらなければならない”と、教育者たちに強く再認識させてくれる

□経験豊富なエピソードと教育研究の引用も多く、読み応えがたっぷり

□幅広いテクノロジーを網羅し、その活用事例や効果的な使い方にも触れている