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創造者たちの革新の流儀⑪「ビットキー CEO・江尻祐樹」

著者: 山田井ユウキ

創造者たちの革新の流儀⑪「ビットキー CEO・江尻祐樹」

【PROFILE】

1985年生まれ。大学時代は建築デザインを専攻し、一方でDJやアーティストとしても活動するなどマルチな才能を発揮する。2008年にリンクアンドモチベーショングループに入社し、コンサルタント業務に従事。2009年末にワークスアプリケーションズへと移り、1年でMVPを獲得。数百名のコンサルティング・サービス組織を統括するなど頭角を現す。2014年、社長賞を受賞し、数百名程度のコンサルタント・サービス組織の統括も経験する。

本業の傍、エンジニアを集めて開いていたテクノロジーの研究会で2017年末からブロックチェーン/分散システムの研究を始める。そして2018年8月に研究会メンバーを中心に、ブロックチェーン/P2P・分散技術を活用した、まったく新しいデジタルID認証/キー基盤を開発し、株式会社ビットキー(https://bitkey.co.jp)を創業、CEOに就任した。共同創業者には、COO(最高執行責任者)を務める福澤匡規氏、CCO(最高創造責任者)の寳槻昌則氏らがいる。

江尻氏が現在担当するのは、経営、技術・製品開発、PM(事業推進) 。強みは視野/経験を活かした計画策定や戦略立案、人が動き・変化を生み出す仕組みの設計と運営、コミットを実現に導く推進力だ。

ビットキーはブロックチェーン技術を応用した独自のデジタルキープラットフォームで、最初の事業としてスマートロック業界へ参入。その技術力と時代の風をとらえた発想力は高い注目を集めており、創業半年で3億4000万円の出資を獲得した。

類まれな頭脳と発想力を備えた江尻氏のエネルギーの源泉は「有限の人生をいかに楽しむか」ということ。さまざまな経験を経て「真の喜びとは刹那的な遊びではなく、仲間を集めていかに死ぬまで熱狂できるかである」という考えに到達した江尻氏。まさにその思想を体現しているのが、ビットキーでイノベーションを起こすというチャレンジなのだ。

INTERVIEWER

Appleユーザの中には、未来を形づくるすごい人がいる。本連載は、人脈作りのプロ・徳本昌大氏と日比谷尚武氏が今会いたいビジョナリストへアプローチ、彼らを突き動かす原動力と仕事の流儀について探り出すものである。

徳本昌大

ビジネスプロデューサー/ビズライト・テクノロジー取締役/ブロガー

日比谷尚武

コネクタ/Eightエバンジェリスト/at Will Work理事/ロックバー経営者

日本中のトビラを再発明する革新的なロック

徳本●ビットキーは3月に、スマートロックをリリースしましたね。

江尻●はい。製品は「ビットロック・ライト(bitlock LITE)」と言います。これは既存のドアに特殊な工事なしで取り付けられ、初期費用なし・月額300円から利用できるスマートロックです。スマートフォンや専用ボタンから扉の鍵を開閉できる機能を備えるだけでなく、弊社の社名でもある革新的なデジタルキー(電子鍵)技術「ビットキー(bitkey)」の機能を搭載しているのが特長です。

日比谷●現在市場にあるスマートロックとは一線を画す存在なんですね。では、まずはビットキーについて教えていただけますか。

江尻●ブロックチェーンの限界点を見定めたうえで、オリジナルで作り上げた分散コンピューティングのプラットフォームが「ビットキー(Bitkey)」で、弊社のビジネスの核になっています。ビットキーのテクノロジーはモビリティやスマートID、メディカル、金融といったさまざまな分野に応用でき、各領域でイノベーションやブレークスルーを起こすことが可能です。その中でマネタイズも含めたビジネスとして最初に開始したのが「Tobira」事業で、製品として発売開始したのがビットロック・ライトです。

徳本●プラットフォームのテクノロジーを開発したところが入り口になっていて、事業としてはまず扉、つまり鍵のブレークスルーをやっていきますよ、ということですね。

江尻●はい。Tobira事業は、ビットキーを使って家やオフィス、ホテル、ショップ、倉庫などのドア(扉)のスマート化とドア内サービス・経済創造を狙っています。

日比谷●どんなところが革新的なのか教えてもらえますか。

江尻●はい。ただ、その前に今のデジタルの世界の話をさせてください。ECでも行政や金融でも何でもいいのですが、こうしたサービスを企業が展開するときは一般的にサーバやクラウドを立てて、各社ごとにシステムを構築してデータを保持し、サービスごとにユーザ登録やログイン認証がある、というのが一般的かと思います。基本的にはそれぞれのサービス間でやりとりはできず、もし行う場合は個別開発、今ではAPI連携をすることになりますが、それは極端にいえば資本主義的の論理で一企業がサービスを拡大し、独占していくという構造になっています。

これに対して、たとえばブロックチェーンは「非中央集権」で分散的なのですが、現在のデジタル世界は昔の「資本主義 vs 共産主義」のように逆の方向に極端に広がってきていると思うのです。仕組みとしてはブロックチェーンは面白いが、非現実的でフィジビリティ(実現可能性)が薄いのです。

日比谷●どのようにして、そのような気づきを得たのですか?

江尻●僕はいろいろなテクノロジートレンドにキャッチアップするのが好きで、本業とは違うところで面白いエンジニアを集めて研究会を昔から開いていたんです。2012年にはいち早くディープラーニング、その派生で言語処理やキュレーションについて学びました。そして2017年にブロックチェーンの研究を始め、その弱点を補完して改良したいと思ったのがビットキー開発の始まりです。

徳本●ブロックチェーンの弱点が何か、とても気になります。

江尻●1つは、大容量データやそれに含まれる個人情報やログデータの安全性が極めて低いことです。かつ、ノード(ネットワークに能動的に接続されている電子デバイス、コンピュータなど)が全部同じデータを保持するので大容量になると破綻するという問題があります。そして、基本的にデータは丸裸で誰でも見られる構造になっていますが、プライベートにするとブロックチェーンの良さが失われてしまうという、二極化した問題があります。

日比谷●つまり、大容量かつ個人情報を含むデータの扱いが苦手ということですね。

江尻●それに加え、一番の問題と感じたのが、ブロックチェーンは取引をする際にトランザクションをブロックに一定間隔で刻みにいくのですが、この取引自体が「外のシステム」で行われるので、本当にその人かどうかの正当性が担保されないんですね。たとえばビットコインであれば、AさんのウォレットからBさんであろうウォレットに1ビットを送ったに過ぎないのです。表向きはBさんでも付け替えること(ハック)可能なので、裏では実はCさんなのかもしれません。

日比谷●なるほど。それはリスキーですね。つまり、江尻さん的にはブロックチェーンはある領域においては中途半端な仕組みだと。

江尻●はい。ですのでブロックチェーンの問題点を解決し、現在の資本主義なサービスとユートピアのように語られる共産主義的なブロックチェーンをつなぎ、かつフィジビリティがあって各社サービス間をつなぎ、安全性を担保できる、デジタル世界を支える新しいプラットフォーム技術が必要と考えたのです。