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USBとThunderboltが統合! 次世代「USB4」の驚きの仕様

著者: 今井隆

USBとThunderboltが統合! 次世代「USB4」の驚きの仕様

最新のMacに標準採用されているThunderbolt 3は、USB 3.1規格をベースにUSB-Cで拡張されたAlternate Modeを用いてThunderboltインターフェイス機能を追加したもの。一方でUSBはパソコン、家電製品、携帯ゲーム機まであらゆるカテゴリーの標準インターフェイスとなっている。

USB4の衝撃

3月4日、USB規格の策定を行う業界団体「USB PG(USBプロモータグループ)」は、次世代のUSB規格「USB4」を発表した。驚いたのはその仕様で、インテルがアップルと共同開発した高速汎用インターフェイス「サンダーボルト(Thunderbolt:以下TB)3」がベースになっているという点だ。

TB3とUSB3.1はそのポート形状こそ同じUSB-Cを採用しているが、その目的や仕様には大きな違いがある。TBはインテルによる光ファイバを使った広帯域伝送路「ライトピーク(Light Peak)」をベースに開発され、コネクタにはミニ・ディスプレイポート(Mini DisplayPort)を採用し、その上にディスプレイポートとPCIエクスプレス(Express)のプロトコル層を搭載したものだ。接続形態はピアトゥピアで上下関係はなく、ファイアワイヤ同様にデイジーチェーン接続がサポートされている。TB3はポート形状をミニ・ディスプレイポートからUSB-C(USB Type-C)に変更し、これにUSB-Cの拡張規格であるオルタネートモード(Alternate Mode)を用いてTBを実装したもので、USB3.1のフル機能に加えてPCIエクスプレスとディスプレイポート各プロトコルをサポートしている。見かけ上USB-Cのコネクタを採用しているが、従来のTB同様にピアトゥピアでデイジーチェーン接続が可能だ。

これに対してUSBはパソコン周辺機器のレガシーインターフェイスの統一を目的に策定されたインターフェイスで、パソコン本体などをホストとして、その下にデバイスがつながるツリー構造のトポロジーを採用している。ホストとデバイスの役割(主従関係)が分かれていることから、それぞれ専用のコネクタ(ホスト側=Type-A、デバイス側=Type-B)を採用していたが、USB3.1で規定されたUSB-Cでは形状の区別がなくなり、ホストとデバイスは認証手続きによって自動的に設定されるようになった。

また、USB-Cコネクタは挿入方向を選ばないリバーシブル設計となっており、これに伴って2系統のスーパースピード(SuperSpeed)伝送路がコネクタおよびケーブルに用意されている。このUSB-Cの2系統の伝送路を利用してUSB以外のプロトコルも伝送できるようにするのがオルタネートモードで、TB3はこの機能を用いてUSB-CをTBオルタネートモードへと切り替える。一方2017年7月に規定されたUSB3.2では、この2系統のスーパースピード伝送路を束ねて使うことで最大20GbpsのUSB伝送を可能としている。

両者の大きな違いは、そのサポートするプロトコルだ。PCIエクスプレスをサポートするTBは、伝送路としての汎用性がUSBと比較して極めて高いレベルにある。たとえば近年のパソコンでは、GPU、SSD、LAN、Wi-Fiといった高速な内蔵デバイスのほとんどが、プロセッサとPCIエクスプレスで接続されている。TBはこれらのデバイスのコントローラをプロトコル変換なしで外部接続できる。

もちろんこれらのデバイスをUSBプロトコルで接続することは不可能ではないが、複雑な変換プロセスや専用のドライバが必要なことや、転送速度やレイテンシの関係でデバイス本来の性能が発揮できないなど課題が多い。この違いを例えると、目的地まで行くのに自家用車で行くか、バスなどの公共機関を使って行くかの差に近い。自家用車であれば好きなときに好きなところに行くことができるが、バスは時間やルートがあらかじめ決められており、その制約の中でしか移動できない。それでもその手軽さと移動コストの低さでバスにはメリットがあるのと同様に、USBにはその利便性において比類するものがない。

USBとThunderboltの足跡

USBとThunderboltが急接近するきっかけとなったのは、2015年にThunderbolt 3がコネクタ形状をUSB-Cに変更してUSB 3.1をサポートしたときだ。今にして思えば、この時点ですでにインテルには最終的に両規格を統合するという目標があったのかも知れない。

Thunderboltのトポロジー

Thunderboltインターフェイスは当初よりすべての機器が対等な関係にあり、複数の機器をFireWireのようにデイジーチェーン接続することができた。この特徴はコネクタ形状がmini DisplayPortからUSB-Cになった今も変わっていない。

規格統合のメリットとは

今回のUSB4の登場によって、USBの利便性とTBの汎用性が統合され、あらゆるデバイスをサポートするインターフェイスへと生まれ変わることになる。現在MacにはモデルによってUSB-A、USB-C、TB3の3種類のインターフェイスが搭載されているが、将来的にはこれらはUSB4へと統一される。従来のUSB機器やTB機器はすべてUSB4ポートに接続して使用することが可能で、現在USB-Cを採用しているMacBook(12インチ)やiPadプロも、将来的にはUSB4に移行するだろう。

従来のパソコンの場合、USB-CポートがUSB3.1のGen.1サポート(5Gbps)なのか、同Gen.2(10Gbps)なのか、TB3(40Gbps)なのかは、ロゴなどから判断するしかなかったが、USB4になればすべてのモードをサポートするようになり、接続互換性に対する不安は一掃されるだろう。最近ではUSB-Cを搭載するパソコンも増えており、特にモバイルパソコンのほとんどにUSB-Cポートが用意されるようになった反面、周辺機器の対応はまだこれからの状況だ。そんな中で今回のUSB4のリリースは、今後の各機器のUSB-Cへの移行を加速するものになることは間違いない。

気になるのはUSB4対応機器のリリース時期だが、USB4規格自体はまだドラフト段階であり今年半ばの正式リリースを予定していることから、対応製品の登場は来年になるものと推測される。その一方でTB3の普及は、今年一気に加速される見込みだ。というのも10nmプロセスで製造される第9世代モバイルプロセッサ「アイス・レイク(Ice Lake)」では、TB3インターフェイスがプロセッサに統合されるためだ。現在はTBコントローラ「アルパイン・リッジ(Alpine Ridge)」または「タイタン・リッジ(Titan Ridge)」を搭載しなければサポートできないTB3だが、プロセッサにその機能が内蔵されればUSB-Cを搭載する全パソコンでTB3のサポートが可能になるからだ。

USB4がTB3に対してどの程度機能の拡張を行うかはドラフト段階の現時点では予測が難しいが、その変更点が少なければUSB4への移行もそれほど時を待たずに速やかに進行するだろう。そうなれば、パソコンや情報機器のインターフェースをすべてUSB4に集約することが可能になり、将来的には機器同士の相互接続性の問題が解決できる。

インテルの英断

今回のUSB4へのTB3の統合において、インテルの果たした役割は非常に大きい。インテルは2017年5月、近い将来にTB3のプロトコル仕様をロイヤリティフリーで公開すると発表していた。今にして思えば、これが伏線となってUSB規格との統合が進んだ可能性が高い。当時アップルもこの決定を賞賛しており、今回の統合には同社の意向も少なからず影響しているものと推測される。

TBがUSB規格に取り込まれ、かつロイヤリティフリーになることで、普及が進まなかった周辺機器のTB対応が一気に進むことが期待できる。というのも、現在TBコントローラを製造しているのはインテルのみで、TBをPCIエクスプレス、ディスプレイポートおよびUSBに変換するチップのみに限定されている。このためTB対応の周辺機器を製造するには、このインテル製のTBコントローラに加えて目的となるデバイス向けのホストコントローラを搭載する必要があり、USB機器のようなワンチップ化によるコストダウンが難しい状況だった。

しかし、TBのロイヤリティが解放されればサードパーティの半導体ベンダーが独自にコントローラを開発できるようになる。さらにTBがUSB4に統合されたことで、将来的にそのニーズは約束されたに等しい。今後半導体メーカー各社からUSB4対応のさまざまなコントローラがリリースされ、その普及が進むことは容易に想像できる。TB3をほとんどのMacに搭載しているアップルにとっても、そのメリットは計り知れない。

近い将来、各社のパソコンにUSB4の採用が進むのは間違いなく、アップルのMacやiOSデバイスも例外ではないだろう。周辺機器インターフェイスの統合という永年の悲願が今、まさに結実しようとしているのだ。

Thunderbolt光ケーブル

Thunderboltはメタルケーブル以外に光ケーブルも規格化されており、現在でも通販サイトなどで実際に光ケーブル製品の購入が可能だ。Thunderbolt光ケーブルはメタルケーブルでは不可能な10~100mの信号伝達を実現しており、放送業界などで採用されている。

Titan Ridge

昨年リリースされたMacBook Proや同Airには、インテルの最新のThunderbolt 3コントローラ「Titan Ridge」が搭載されている。1チップで2つのThunderbolt 3ポートをサポートし、プロセッサとはPCI Express Gen.3で4レーン接続されている。Photo●iFixit.com

The USB-C that does it all.

インテルはニュースリリースの中で、Thunderbolt 3を「The USB-C that does it all.」、すなわち「そこにすべて含まれる」として、高い統合性をアピールしている。その図にはUSB4を含むすべてのUSB規格と、従来のThunderbolt規格が含まれている。【URL】https://newsroom.intel.com/news/intel-takes-steps-enable-thunderbolt-3-everywhere-releases-protocol/