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「脱iPhone」が急務のApple、鍵となるのは“35周年のMac”だ

著者: らいら

「脱iPhone」が急務のApple、鍵となるのは“35周年のMac”だ

Appleが「利益警告」を発した2019年第1四半期の業績は、売上高843億ドルだった。前年同期比5%減となり、それまで見られた大幅な成長が一気に減速。引き続き弱気の収益予想を示したAppleだが、鍵は「脱iPhone」にある。その中で、Macの果たす役割は大きい。

中国不振と今後

アップルは、2019年第1四半期(2018年10~12月)の業績を発表した。売上高は前年同期比5%減の843億ドル。元々のガイダンス(収益予想)は880~930億ドルであったことから、目標を大幅に下回る決算となった。

1月2日に、売上高の見通しが大きく下振れすることを告げる「利益警告」と言われる投資家向けの書簡を発表したアップルは、その中で売上高が減少する要因として、中国の景気後退とiPhoneの不振を挙げた。結果的に、中国の売上高は前年同期比27%減。中国の売上高減少幅は、アップルの売上高全体の減少幅を上回るほどとなった。

当然ながら影響として考えられるのが、米中貿易戦争だ。米国による中国製品への関税は、実体経済や心理的な側面で悪影響を及ぼしている。

アップルにとって中国は生産の要となっている地域であり、かつiPhone 6以降急速に拡大した同社にとって、もっとも成功した新興市場開拓の地域でもある。2014年以降、中国の景気拡大を捉え、iPhoneを大きく成長させることに成功し、一時は欧州を抜いてアップルにとって第2の市場にまで成長した。

その成長の背景には、中国当局への気づかいもあった。アイクラウド(iCloud)のユーザデータの中国国内への移設や、「プロダクトRED」の名前を出さずに“赤いiPhone”を販売するなど、中国の機嫌をうかがうような取り組みも綿密に行ってきた。

こうして大切に育んできた中国市場の急減速は、先述の米中貿易戦争や、次世代技術に関わる知財保護の問題などと絡み合い、アップルは「米国か、中国か」という選択を迫られているようにも見える。

Appleは1月30日、第1四半期の業績を発表した。当四半期の売上高は843億ドルと、前年同期と比べ5%の減少。特筆すべきは、中華圏での売上が131億6900万ドルと前年同期比26.7%減だったことだ【URL】https://www.apple.com/jp/newsroom/2019/01/apple-reports-first-quarter-results/

「脱iPhone」の必要性

2019年第1四半期決算を見ると、iPhone以外のカテゴリは絶好調そのもの。Macは前年同期比8.7%増、iPadは16・7%増、サービス部門は19%増、ウェアラブル&ホーム部門は33%増と、いずれのカテゴリも大きく成長を遂げているのがわかる。

ウェアラブルやサービスのように市場自体が拡大し、その波を捉えている成長もあれば、MacやiPadのように最新モデルの投入が大きく貢献したカテゴリもある。特に10月30日にニューヨークで発表したMacBookエア、Macミニ、iPadプロは、いずれも好影響をもたらした要因だろう。

iPhoneも非常に魅力的な新製品を打ち出しているが、成長率が高い新興国では米ドル高という為替の影響で各国での販売価格が高騰している。さらに先進国では販売補助金が廃止され、2年ごとの買い換え周期が完全に崩壊しており、いくらiPhoneへのロイヤリティが高くても、買い換えタイミングが長期化する傾向に陥っている現状だ。

減速したとはいえ、iPhoneが全体の売上高に占める割合は62%。今後スマートフォン市場はさらなる停滞が予測されている中で、アップルはiPhoneへの依存度を下げていく必要がある。

根強いiPhone依存

iPhoneへの売上依存度を下げる必要がある点は指摘したが、そう簡単な話ではない。現在のアップルはiPhoneの価値を最大化する戦略を採ってきたからだ。

たとえば現在急成長しているアップルウォッチ(Apple Watch)はiPhone専用のウェアラブルデバイスであり、エアポッズ(AirPods)も専用ではないがiPhoneとの組み合わせが最適だ。また、アイクラウドはiPhoneユーザが便利に利用できるクラウドサービスとして設計されているし、アンドロイド版はあるがアップルミュージック(Apple Music)もiPhoneユーザに最適化された音楽サービスだ。

売上高だけでなく、機能の面でも、iPhoneへの依存度を下げていかなければ、「脱iPhone」の戦略は実現できない。iPhoneやiPhone向け以外のハードウェア、すなわちMac、iPad、アップルTV、ホームポッド(HomePod)を育てていくことが、iPhone依存を脱する鍵となる。

35周年を迎えたMac

そこで注目したいのが、2019年に35周年を迎えたMacだ。

Macは、1984年に初代Macintoshが登場して以来、何度も世の中を驚かせてきた。グラフィカルユーザインターフェイスを用いたコンピュータのスタンダードとして、DTPやグラフィックスなどの分野、また教育現場でのコンピュータ活用を牽引してきた存在として知られるが、その道のりは平坦ではなかった。

アップルの創業者、スティーブ・ジョブズはMac発売の翌年にアップルを離れることになり、ブランドとしてもプラットホーム戦略としても迷走の10年を歩むことになった。1996年にジョブズが復帰して以来、半透明とカラフルなボディを持つiMac、そのノート版のiBookを発売し、製品への注目を一挙に高めることに成功している。

Macはプロセッサ面ではPowerPCやインテルチップへの移行、ソフトウェア面でもジョブズがアップルに戻るきっかけを与えた現在のmacOSへの移行を経験しており、この“移行”によってその製品力を高める手段を得てきた。

たとえば、インテルチップへの移行は、それまでMacの欠点となっていたポータブルモデルでの処理性能の向上だけでなく、2008年1月登場の超薄型ノートパソコン「MacBookエア」を生み出すことにもつながった。

iPhone流で進化する

スティーブ・ジョブズはアップルのハードウェアについて、「iPhone→iPad→Mac」というサイクルでそれぞれの良いところをほかの製品に反映させる進化の手段を示した。

たとえば2010年モデルのiPhone 4に初めて採用された高精細のレティナディスプレイは、2012年3月に第三世代のiPadに搭載され、同じ年にMacBookプロにも搭載された。タッチIDもiPhone 5sに初めて搭載され、iPad、Macに導入された

現在のiPhoneは独自設計のチップで処理性能やセキュリティの面で飛躍的に進化している。一方のMacはウィンドウズPCと同じインテルチップを搭載し、差別化に欠ける部分があった。そこで直近のMacには「Tシリーズ」のチップを搭載し、セキュリティ性能の向上やビデオエンコーディングの高速化を実現した。将来のTチップには、機械学習処理を行うニューラルエンジンが搭載され、さらなる高速化を実現するだろう。

こうしたMacの進化から作り出された新たな価値は、Macそのものをカテゴリとして成長させる。その結果、脱iPhoneを実現していくだけでなく、iPhoneやiPadに対して技術的なフィードバックを行うきっかけを切り拓くことができるのだ。

Macのアクティブインストールベースは1億台に達し、2018年にはMac App Storeについても、iPhoneのApp Storeのスタイルに倣って、コンテンツを導入した。またMicrosoftやAdobeといった定番アプリも取り揃え、Mac経由のサービス部門の成長を狙っている。

Mac=クリエイティブという長らく守ってきたマーケティングメッセージが薄れてきたことに危機感を覚え、Appleは現在「Behind the Mac」キャンペーンを展開している。Macを使用して創造的な仕事をする人々の姿を捉えたものだ。

2019年1月24日は初代Macintoshの35回目の誕生日だった。35年前の初代Macintosh発表について、ティム・クックCEOはTwitterで祝福のメッセージを公開した。「脱iPhone」が迫られる同社にとって、Macは鍵を握る存在になるであろう。【URL】https://twitter.com/tim_cook/status/1088393240569671681