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10nmに到達したIntel新プロセッサとプラットフォームの行方

著者: 今井隆

10nmに到達したIntel新プロセッサとプラットフォームの行方

読む前に覚えておきたい用語

ファウンダリ(Foundry)

チップを実際に製造する半導体メーカーをファウンダリ(またはファブ)と呼び、自社設計、もしくはファブレス(工場を持たない)企業から委託されたチップを製造する。TSMCやサムスン電子といった半導体メーカーの多くは、ファウンダリとして他社のチップ製造を請け負っている。

プロセスルール(Process Rule)

半導体製造における集積度を示す指標の1つで、一般的に半導体回路のピッチ(間隔)を指す。プロセスルールの微細化によって小型化や高速化を実現しコスト競争力を高められるため、ファウンダリ各社は熾烈な微細化技術の開発競争を繰り広げている。

ヘテロジニアス・マルチコア(Heterogeneous Multi Core)

複数の異なるアーキテクチャのコアを統合するプロセッサのこと。Apple A10 Fusionは性能優先の高性能コアと省電力な高効率コアを各2基搭載し両者を切り替えて使う。A11 Bionic以降は複数コアを任意に組み合わせて性能と消費電力の調整幅を広げた。

悲願の10ナノプロセス プロセッサがついに登場

インテルは2019年1月、米ラスベガスで開催された「CES 2019」で、10nmプロセスで製造される第9世代コアプロセッサ「アイスレイク(Ice Lake)」と、新しいPCプラットフォーム「レイクフィールド(Lakefield)」を発表した。

アイスレイクでは、単にプロセスルールが更新されるだけでなく、「サニーコーヴ(Sunny Cove)」と呼ばれる新アーキテクチャに更新される。この数年間インテルは10nmプロセスの立ち上げに手こずっており、初の10nm世代となるはずだった「キャノンレイク(Cannon Lake)」のリリースは当初の計画より1年以上遅れ、昨年夏にひっそりと第8世代コアUプロセッサの1モデルとして登場した。しかもこのキャノンレイクは、本来の仕様を満たさずGPU(統合グラフィックス)を無効化した未完のプロセッサとなっている。このような苦難を乗り越えて、今年ようやくインテル社は本格的な10nmプロセスへの移行を実現する見込みで、その期待を一身に担っているのがこの第9世代コアプロセッサ・アイスレイクだ。

アイスレイクが採用するサニーコーヴアーキテクチャでは、従来のスカイレーク(Skylake)アーキテクチャに対していくつかの機能強化が行われている。ロード・ストアバッファやスケジューラ、実行ポートなどのサイズや構造を強化し、パイプラインの並列度を向上させると同時に、L1データキャッシュやL2キャッシュのサイズも増強することでIPC(動作クロックあたりの演算能力)を向上しているという。

また、「ジオンファイ(Xeon Phi)」やキャノンレイクに採用された新しいSIMD命令セット「AVX-512」をサポートし、メディアエンコーディングや3Dレンダリング、ディープラーニング、シミュレーション演算、暗号化/復号化などの大規模データのベクトル処理能力が大幅に強化される。

内蔵グラフィックスも更新され、インテルの統合グラフィックスとしては初めてその演算能力が1TFLOPS(浮動小数点演算を1秒間に1兆回行える性能指標)を超える見込みだ。従来は最大48基だったEU(Execution Unit)が64基に増強され、そのアーキテクチャもGen 11に更新されている。このように、アイスレイクはあらゆる点で従来のコアプロセッサを大幅強化したものとなっていることがわかる。

またインテルは、2017年5月に将来のプロセッサにサンダーボルト3を直接組み込むことを発表していたが、アイスレイクではようやくこれが実現する見込みだ。従来のインテルプロセッサでは、サンダーボルト3をサポートするために「Alpine Ridge」または「Titan Ridge」と呼ばれるコントローラチップが別途必要で、このことが特にコスト競争の激しいウィンドウズPCでサンダーボルト3がなかなか普及しない原因と1つとなっていた。しかし今後は、アイスレイクを搭載するだけでUSB−Cポートがサンダーボルト3対応となることから、同インターフェイスの普及が一気に加速するものと考えられ、対応周辺機器も充実していくことだろう。

インテルプロセッサのプロセス変遷

初代Core iプロセッサ以降のプロセスルールの歴史。2015年登場のSkylakeまではプロセス更新とアーキテクチャ更新を毎年交互に行う「チックタック」開発ロードマップだったが、2017年目標だった10nmプロセスの立ち上げに大幅な遅れが発生した。

新世代プラットフォーム レイクフィールドとは

このアイスレイクをベースとした新しいフラットフォームがレイクフィールドだ。このレイクフィールドは、複数の新技術の集合体であり、その中核にサニーコーヴコアと「トレモント(Tremont)」と呼ばれる新しい「アトム(Atom)」プロセッサコアを組み合わせ、これにインターフェフェイスやメモリも統合したSoCとなっている。

このアプローチはアップルAシリーズなどのARMコアSoCに非常に似ているが、これらのSoCがダイレベルで各機能を統合しているのに対して、レイクフィールドではインテルが開発した3Dパッケージ技術「フォヴェロス(Foveros)」によって複数のダイを三次元実装している点が異なっている。

複数の異なるアーキテクチャのプロセッサコアを使い分けるアプローチ「ヘテロジニアス・マルチコア」はアップルA10フュージョンやARMのクラスタデザイン「DynamIQ」などでお馴染みの手法だが、インテルのPC向けプロセッサでは初の試みとなる。

このレイクフィールドを搭載したロジックボードのプロトタイプも公開され、従来の半分程度の基板サイズでPCの主要機能を実装できることが示された。このレイクフィールドを搭載することでシステム全体をより軽く小さくでき、本体が同じサイズであればより長いバッテリ動作時間を実現できることから、今後タブレットや2in1パソコンを中心に採用が進むと予想される。

これは、MacでいえばMacBookエアに搭載されるクラスのプラットフォームであり、その採用によりロジックボードをさらに小さくできる可能性を秘めている。しかし実際にはレイクフィールドがMacに採用される可能性は極めて低いだろう。その理由はプロセッサ周辺回路に自社設計のT2チップを採用しているからだ。いずれにせよ、両者はロジックボードサイズの小型化を進めており、その目指すところはお互いに共通している。

正念場を迎えるインテルプロセッサ

インテルプロセッサを取り巻く環境は、この数年間で激変した。ライバルのAMDは2017年に投入した「ライゼン(Ryzen)」プロセッサでインテルの市場シェアを奪いつつある一方、非力と思われていたARMプロセッサは最新プロセスの導入やアーキテクチャの強化によって大幅にその性能を向上させている。2000年からの10年間には最先端の自社工場で次世代のプロセスルールをいち早く導入し、常に半導体産業のトップを走ってきたインテルだったが、10nmプロセスの立ち上げに手間取っている間にライバルのファウンダリに技術面で追いつかれてしまった。たとえば、アップルA12バイオニックは、TSMCの7nmプロセスで製造されていることはご存じのとおりだ。実際にアップルAプロセッサの性能はインテルプロセッサに肉薄するところまで来ており、しかもそのエネルギー効率はインテルプロセッサと比べて極めて高い。

今回リリースされたレイクフィールドがヘテロジニアス・マルチコアを採用したのも、ライバルに省電力性能で対抗する必要に迫られているからと見ることもできる。アイスレイクやレイクフィールドが成功するかどうか、現在のインテルはまさに正念場に立たされていると言っても過言ではない。

「Lakefield」の機能ブロック

高性能なSunny Caveコアと4つのTremont高効率コアで構成されるヘテロジニアス・マルチコアで、インテルはこれを「ハイブリッドCPUアーキテクチャ」と呼ぶ。Gen 11グラフィックスやキャッシュメモリ、I/Oなどを統合している。【URL】https://newsroom.intel.com/

3Dパッケージ技術「Foveros」

Lakefieldはインテルの3Dパッケージ技術「Foveros」を用いて製造される。ベースとなるパッケージ基板上にI/Oとキャッシュメモリを搭載したダイ、CPUコアやグラフィックスを搭載したダイ、複数のメモリダイを積層することでチップの実装面積を小さくすることができる。【URL】https://newsroom.intel.com/

「Lakefield」を搭載したロジックボード

中央部裏面にメインメモリを統合したLakefieldを搭載し、その右にはWi-FiとThunderbolt 3、左にはLTEとSIMスロットが搭載されている。左端にSSD用のM.2スロットを備え、あとはディスプレイと入力デバイスを接続すればPCとして機能する。 【URL】https://newsroom.intel.com/