創造性を止めるな、機能制限を解除せよ!
企業のMac導入の現場を見ていると、導入目的から利用対象の従業員、セキュリティ対策から運用管理まで、その企業の考え方や文化が反映されていて面白い。企業規模に関わらず、Macを導入しようとする企業が抱える課題は一緒で、いかにウィンドウズPCと同じように利用できるか、管理ができるか、といったことである。
現在、企業内にあるPCの主たるOSであるウィンドウズ7のサポートが2020年1月14日に終了することを受けて、各企業はウィンドウズ10へアップデート対応を迫られている。このサポート終了をきっかけに、このままウィンドウズを使い続けるのか、その他のOSも検討すべきか、という議論の中で、Macの導入検討を始めている企業が増えている。
また、従業員の働き方や多様性に対応するために、利用するIT機器を選択できるようにする従業員選択制(Employee Choice)プログラムを社内に浸透させようとチャレンジしている企業も出始めている。さらに海外での成功事例も聞こえてきており、日本国内でも話題に事欠かない。
デザイン制作などのクリエイティブ作業やiOS向けのアプリケーション開発など、目的が明確になっている場合は導入目的を迷うことはないだろう。しかし、マイクロソフト・オフィスやメール、インターネット、クラウドを前提とした業務システムの利用など、従業員のほとんどを対象としてMacが利用できる環境を整えようとすると、従業員のペルソナ設定から、使用アプリ、利用シーンを考慮したセキュリティ設定など、検討すべきことが一気に増え、担当者の頭を悩ます課題が溢れてくる。しかし、ここで忘れてはいけないことがある。それは、Macの素晴らしさだ。
個人的には、Macを仕事で使うようになって15年以上経つが、今ではMacを使わないで仕事をすることが想像できない。顧客に伝えたいプレゼンテーションを作成する際に利用する「キーノート(Keynote)」や、アイデアや打ち合わせ内容を簡単に共有できる「メモ」と「エアドロップ(AirDrop)」、離れた場所にいるメンバーとのコミュニケーションをスムースに行える「フェイスタイム(FaceTime)」など、Macに標準で備わっているOS機能やアプリが私の日々の仕事のストレスを減らしてくれる。
また、アップストア(App Store)には、個人のスケジュール&タスク管理や情報収集、コミュニケーション等、仕事効率化のためのアプリが豊富に揃っていることも魅力のひとつだ。さらにいえば、ハードウェアからOS、ソフトウェア、サービスに至るまで一貫して考えられたエコシステム、思考を止めることなく使うことができる直感的な操作性、そしてiOSデバイスとの強力な連係による効率的な作業等、Macを使うメリットは大きい。
しかし、その反面、たとえ導入したとしても、Macに対してさまざまな制限を施しているケースが多いのは残念でならない。実際に現場のユーザに話を聞いてみると、「会社で配付されているMacは使いものにならない」という声がよく上がる。たとえば、従業員が自由にアプリを追加したり、開発用のツールをインストールすることができなかったり、社内で配られるアプリはアンチウイルスソフトなどセキュリティに関連するものばかりで、業務に役立つようなものは一切配信されていないケースもある。
このような制限だらけのMacでは、本来の従業員の創造性を発揮することは難しい。セキュリティ対策は大事だが、Macを使うのはあくまで人であり、安心安全に絶対はない。利用者のセキュリティに対するリテラシー向上と運用の定着化があってこそ、セキュリティは守られるものだ。そのためには、Macはまず便利に使われるものではなくてはならない。今一度Macの魅力とは何か、なぜMacを使うのかという本質に立ち返ってほしいと思う。
TOPIC 1
Macの魅力はAppleのエコシステムに宿る
“囲い込み”は本当に悪いことか
アップルのビジネスモデルの特徴の1つとして「強固なエコシステム(生態系)」が挙げられる。現在「GAFA」や「FANG」と呼ばれる世界をリードする巨大IT企業の中でも、ハードウェアとソフトウェア、クラウドサービス、リテールまで一貫して手がけるのはアップル以外に例を見ない。ビジネス分野で高いシェアを持つマイクロソフトであっても、タブレットPCは製造するものの基本的にはソフトウェア・サービス企業の枠を出るものではない。
改めてこのアップルのエコシステムを概観すると、その広さに驚かされる。まず、ハードウェアであればMacを筆頭にiPhone、iPad、アップルウォッチ、アップルTV等を製造し、アップストア(App Store)などの販売網を通じて全世界の顧客に販売、不要となったデバイスの回収とリサイクルまで製品のライフサイクルすべてを同社がサポートする。
また、それぞれのアップルプラットフォームで動作する豊富なアプリをアップストアで販売し、音楽、映画、電子ブックといったコンテンツもiTunesや「ブック」を通じて提供している。これに加えて、クラウドサービスである「アイクラウド(iCloud)」がそれぞれのデバイス同士を結びつけて、さまざまな連係機能を実現している。
そして何より良好なユーザ体験にこだわり、これまで顧客との強い結びつきを構築してきたことがアップルのエコシステムを拡大する原動力となってきたことは疑いようがない。
一方で、このアップルのエコシステムをいまだに「閉鎖的」と批判する意見も一部にある。その根拠としてよく挙げられるのが、アップルストアなどで流通するアプリやコンテンツをアップル自身が審査するという仕組みだ。だが、基準に満たないクオリティのアプリやユーザ体験を損なうインターフェイスを拒否するのは品質管理の点で当然だし、結果的にセキュリティの向上にも寄与している点を無視するべきではないだろう。
こうしたアップルのエコシステムの利点は、アップルユーザ自身が一番よく実感しているところだ。しかし、一般企業のオフィスなどビジネスの現場ではアップル製品があまり浸透していないという現実もある。もちろん既存の業務システムがPC用のOSであるウィンドウズを前提に設計され運用されてきたという経緯もあるだろう。しかしながら、業務の効率性がこれまで以上に求められる現代の企業活動において、従業員が使いやすいと感じるMacやiPadを導入しない積極的な理由など、どこにあるのだろうか?
さらに管理者視点ではMacの導入や管理が難しいというイメージも根強い。だが、これもビジネス向けの「ABM(Apple Business Manager)」や教育市場向けの「ASM(Apple School Manager)」など、アップルによる導入支援サービスやMDM(モバイルデバイス管理)を利用することでMacもiOSデバイス同様に統合管理して運用できる。
●進化するApp Store
Appleのエコシステムを象徴するサービスがApp Storeだ。Mac用のアプリはすべてAppleによる審査が行われ、低クオリティなものや危険なものは含まれていない。もちろんビジネス向けアプリも充実している。
●ユーザ体験も共通化
macOSもiOSも開発者には「Human Interface Guideline」が提供され、ソフトやアプリの見た目だけでなく機能面においても共通のガイドラインに沿うことが求められる。このことがユーザ体験の一貫性を支えている。
●セキュリティが保たれる
サードパーティー製のソフトの実行が制約されることは、ユーザの安全性が守られるということでもある。macOSの標準でのセキュリティ機能の高さはMacのビジネス利用を選ぶ大きな理由となり得る。
TOPIC 2
Macを支える直感的で優れたユーザビリティ
スペックでは測れない「使いやすさ」
ユーザが迷う可能性のある選択肢を極力減らした「直感的な操作性」がMacの特徴とよく言われる。この設計思想はMac本体にもmacOSにも色濃く現れている。その代表的なものがMacBookシリーズに標準搭載されたトラックパッドや外付けのマジックトラックパッド(Magic Trackpad)だろう。指先の微妙な動きを的確に読み取り、カーソルの移動やスクロールのみならず、ウィンドウズの右クリックに当たる「副ボタンクリック」、さらに複数の指を用いることでピンチ操作による拡大/縮小、2本指ダブルタップによる「スマートズーム」、通知センターやミッションコントロール(Mission Control)、ランチパッド(Launchpad)などの標準機能もジェスチャで呼び出せる。
このジェスチャ操作とディスプレイ内の表示が寸分違わず小気味よく動くのは当たり前のようでいて実は高度な技術の賜物だ。Macがまるで乗り馴れた自転車のように扱えるのは、macOSがハードウェアに最適化され、その性能を引き出すことに成功しているからにほかならない。こうしたカタログスペックには現れにくいユーザビリティの高さこそがMacのアドバンテージであり、iphoneやiPadと操作感が共通しているMacを選ぶこととは、日常的な操作のストレスを軽減し、日々のパフォーマンスを向上させるといった点で実に自然といえる。
ユーザインターフェイスが滑らかに動作することはもちろん、コンピュータ側の都合でユーザの手を止めてしまうようなシーンに遭遇しにくいのもMacの特徴だ。
たとえば、Macは同時に複数の作業を行うマルチタスクに対応しているが、1つの作業に集中したいときにはフルスクリーンに、2つの画面を同時に表示したいときはスプリットビュー(Split View)に切り替えられる。
また、デスクトップや起動中のソフトなど操作スペース全体を見渡したいときはミッションコントロールで俯瞰できる。このようにユーザの状況に合わせて切り替えられる表示モードなど、ユーザの集中力を削がない工夫が随所に見られる。
さらに、ウインドウ操作の基本となるファインダ(Finder)も表示モードを切り替え可能で、現在どのフォルダ階層で作業しているのかといったことはほとんど意識せずに、今やるべき作業に集中できる。作成したファイルはデスクトップや[書類]フォルダに置いておくだけで自動的にアイクラウドドライブ(iCloud Drive)に保存されるし、デスクトップに置いたファイルはスタック機能が種類や日付ごとに自動で分類整理してくれる。
コンピュータ特有のルールに惑わされることなく操作できることはユーザの作業効率向上につながり、習熟の期間が短くなることでアウトプットの質と量を高めることもできる。まさにビジネスに適したコンピュータと言えるのではないだろうか。
●トラックパッドが秀逸!
カーソルを思いどおりに操作できるトラックパッドの快適さはMacの大きな利点だ。これはAppleファンの贔屓目ではなく、ハードウェアとOSを同じメーカーが手がけることで実現できたものだ。
●集中と俯瞰のバランス
Mission Controlのように作業画面全体を俯瞰する画面とフルスクリーンソフトのように特定の作業に集中できる画面を素早く切り替えられるのもmacOSの特徴と言える。
●操作に迷わない
iCloudは「クラウド」という場所の違いを意識させることなく、ローカルにあるファイルと同じようにFinderで操作できる。こうしたインターフェイスもApple製品・サービスのユーザビリティを支えている。
●日本語の変換も快適
キーボードで一番頻度が高い入力操作である日本語入力も最適化されている。「ライブ入力」もその1つで、これまで常識的であった[スペース]キーによる「かな漢字変換」という操作を無用のものとした。
TOPIC 3
iOSデバイスとのスマートな連係
互いにつながるからさらに便利に
使いやすいMacだからといって、単体で利用するだけではパフォーマンスの向上にも限りがある。ここで大きな役割を果たすのがiPhoneやiPadなどとの「連係」機能だ。形状も、最適な利用シーンも異なるデバイス同士が、Wi-Fi、ブルートゥースといったワイヤレス通信やクラウドによって、バックグラウンドで緊密に連動するアップル製品ならではのテクノロジーである。
ユーザ自身は背後の詳しい仕組みについて知る必要はない。ただ、使い慣れたiPhoneで表示している情報はすぐにMacにも表示できることや、Macで行っていた作業をiPhoneでそのまま続けて行えることは知っておいてもらいたい。
より具体的なケースを想定してみよう。たとえばエアドロップがあれば隣の席にいる同僚に資料を渡すときにUSBメモリにファイルをコピーして相手に渡して読み取ってもらうといった一連の操作はまったく必要ない。ファインダから相手を見つけてファイルをドラッグ&ドロップするだけだ。
iPhoneに着信した電話の呼び出しをMacで受けて会話することも可能だし、「ハンドオフ(Handoff)」の連係によってチャットの打ち合わせをiPadとMacとiPhoneで切り替えながら続けることも可能だ。
Wi-Fiが整備されていない場所にMacBookを持ち出してもiPhoneのモバイルデータ通信を使ってWEBブラウズなどができる「インターネット共有」は「テザリング」という名称でもよく知られているところだ。
ほかにもアップル製品同士の連係はたくさんあるが、ここで重要なポイントは「スマートフォン」や「タブレット」、「コンピュータ」といったこれまでの区別にあまり大きな意味がなくなってきていることだ。アップル製品はユーザが行いたい作業を、いつ、どこで、どのデバイスでも連続して行えることに重きが置かれている。この最大の利点を生かさず、それぞれのデバイスで作業を分断してしまうような制約を課すことは、あまり得策でないことがわかるだろう。
●資料配布に便利なAirDrop
近くにいるAppleデバイス同士でファイルやWEBサイトの情報などをワイヤレス送信できるのがAirDropだ。法人用途では機能をオフに設定されることもあるが、非常に有用な機能なので使わない手はない。
●作業を引き継げるHandoff
たとえばiPhoneで書きかけのメールをMacから送信したり、iOSデバイスとMacとの間で作業内容をそのまま相互に引き継げるのがHandoffの機能だ。使用デバイスに縛られることなく、やりたいことに集中できるというメリットも大きい。
●コピー&ペーストも共有
日常的に行われるコピー&ペーストの操作をiOSデバイスとMacの間で共有できるのが、「Universal Clipboard」の機能だ。選択したテキストや画像などを手っ取り早く別のデバイスに貼り付けることが可能だ。
●どこでもインターネットできる
外出先などでセルラー回線に接続するテザリング機能もiPhoneがあれば簡単に行える。モバイル環境でのインターネット接続にはほぼ必須の機能と言えるだろう。
●書類のスキャンも瞬時に
最新のmacOS Mojaveでは、iPhoneカメラで今撮った写真をそのまますぐMacで作成している書類に反映させることもできる。スキャンした領収書を傾き補正してPDFにすることも簡単だ。
●Apple Watchとも連係
Apple Watchを装着しておけばMacのスクリーンロックをパスコードの入力なしに解除できる。何度も繰り返し入力する手間も省けるし、セキュリティ的にも安全だ。
Yes, Mac
★Macの導入が進んでいるのは、使う人自身が「Macのほうが便利」と判断しているから。
★Appleのエコシステム、Mac特有の直感的な操作、iOSデバイスとの連係は仕事でも威力を発揮する大きな武器。
★Macを導入する際は、従来のPCの延長線で考え、模倣するのではなく、Macの良さという本質に立ち返って、制限なく利用させることが望ましい。
??次回の話題は「Macは安心・安全なのか?」です。