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1カ月“酷使”してわかったiPad Proの「是」と「否」

著者: 山下洋一

1カ月“酷使”してわかったiPad Proの「是」と「否」

11月7日に発売開始された第三世代のiPad Proを手にしてから、約1カ月が経った。新しいiPad Proのイイところと、ワルイところはどこなのか。メインデバイスとしてiPadを使ってみて気づいた点をレポートしよう。これから購入しようとしている方の参考になれば幸いだ。

変わるべきは「私」

私が第三世代のiPadプロを評価しているのは、〝iPadとして〟大きな進化を遂げたからだ。「何を当たり前のこと言ってるんだ」と思うかもしれない。だけど、iPadプロがPCに近づくのを期待している人のほうがおそらく多い。たとえば、マウスをサポートしたり、PCのようなファイル管理を実現したら喝采を浴びると思う。でも、そうなったら私はiPadプロに見切りをつけたはず。私が求めているのは従来のPCではない、新しいパーソナルコンピュータだからだ。

2016年の夏から、メインデバイスとしてiPadプロを使っている。WEBや本、漫画、映画、テレビ、メール、ツイッターといったコンテンツの消費だけではなく、原稿書きや資料整理、写真の加工といったプロダクティビティにも活用する。

iPadプロは第一世代の頃からモバイルノートPCに迫るパフォーマンスが話題になり、アップルペンシル(Apple Pencil)とスマートキーボード(Smart Keyboard)によって道具としての可能性を広げた。しかし、2年前に私がiPadプロをメインデバイスに据えた大きな理由はiOSアプリだった。当時、インスタグラムのような新しいサービスは「モバイル優先」をキーワードにアプリから始まったからだ。

2016年に9.7インチのiPadプロが登場した際、アップルは「究極のPCの置き換え」とアピールして物議を醸した。私のようなPC世代の視点で言えば、置き換えにはなり得ない。タッチ操作で誰もが簡単に使え、ファイルを意識することなくコンテンツに集中でき、管理の手間がかからないのがiPadの魅力だ。だが、仕事の現場では何でもできる汎用的な道具が求められる。だから、iPadがiPadである限り、PCの完全な代わりにはなり得ない。

けれども、もし自分がモバイル世代だったら仕事の道具にPCを選ぶだろうか。今や、クラウドやWEBサービス、ソーシャルは、PCではなくモバイルアプリから誕生している。いずれミレニアルズはモバイルデバイスを駆使して、PC世代が思いもよらないような方法で仕事をするだろう。モバイル世代に言わせたら、モバイルこそがコンピューティングであり、PCはレガシーだ。いずれPC世代はモバイル世代に取って代わられる。iPadプロにPCというカタチを押しつけている限り、その本当の価値は見えてこないと考えて、iPadプロをメインデバイスとして使ってみることにしたのだ。

乗り換えた当初、プロダクティビティツールとしての基本の「キ」となるファイル管理すらままならず、快適にはほど遠い状況に窮した。だが、悩んだ末にハッと気づいた。そう、自分の仕事のやり方が古いのだ。たとえば、スキャンしたデータを保存して管理しようとすると、iPadではつまづく。そうではなく、データは直接クラウドに送って、必要ならリンクを渡して共有するのがいい。メールにファイルを添付するよりはるかにスマートだ。このように頭を切り替えることができると、数カ月のうちにiPadプロに慣れて、iOSアプリによって可能になるiPadの体験やプロダクティビティを快適に感じるようになった。

iPadのために仕事のやり方を変えるなんて本末転倒と思うかもしれない。でも、この2~3年の変化を思い返してみてほしい。マイクロソフトのオフィス(Office)はクラウドの柔軟性を組み合わせたオフィス365が主流になり、データのURL共有やコラボレーションも一般的になってきた。クリエイティブ分野でも、ライトルームCCがクラウド型のフォトサービスになり、ローカルストレージを用いる従来のツールはライトルーム・クラシックと名づけられている。仕事やモノ作りの方法は、モバイルを前提にして少しずつ変わってきているのだ。

さらに明るい未来

「iPadプロはPCの代替になるか」という点で、第三世代のiPadプロに対する評価は分かれる。PC世代に言わせたら、相変わらずファイル操作が苦手でマウスも使えない、中途半端な進化に映るだろう。でも、モバイル世代の視点で見たら、知的生産性やクリエイティブのためのツールとして飛躍的な進化を遂げている。

手元に、iPadプロをメインデバイスとして使ううえで気づいた改善点や強化点を書き出したメモがある。「9.7インチをもう一回り大きく」「カメラを最新のiPhoneと同等に」「内蔵スピーカの強化」「素早いアンロック」「ドラッグ&ドロップ」「もっと機能的なマルチタスク」等々、リストは長く続く。だが、驚くことに、2017年の第二世代モデルで半分近い項目にチェックマークが入り、今回の第三世代のiPadプロでは8割を超えた。「ファイル」アプリのように、要望が実現したけどニーズを充分に満たすほどではないものもある。不満点もまだたくさん残されているが、メインデバイスとしてiPadプロの未来は明るい。

私は今回11インチモデルを購入した。初代の9.7インチiPadから続いてきた進化のマイルストーン到達であり、選択して間違いはない。だが、私が本当に興味を持っているのは12・9インチモデルだ。「タブレット」という言葉が似合う11インチに対して、12・9インチは「コンピュータ」と表現したくなる。

2019年にはiPadに最適化されたフル機能版のフォトショップCCが登場する。iPadにとって、また多くの人にとって、それが大きな転機になるだろう。今以上にiPadプロの役割が拡大するようなら、私も12・9インチを検討したい。アップルは公表していないが、12・9インチの1TBは他のモデルよりも大容量の6GBメモリを搭載しているので、iOSを含めアプリの対応次第では新たな世界が開けてくる。そして、今後はデスクトップPCを使っているワークステーションの領域も、iPadプロで置き代えられるかもしれないと期待に胸を膨らませている。

iPad Pro 11月7日 Release

11インチ:8万9800円~、12.9インチ:11万1800円~/Apple Pencil(1万4500円税別)とSmart Keyboard Folio(1万9800円税別~)は別売り

11インチと12.9インチの2つの新モデル、

新しいコンピューティングの始まりだ!

コンテンツを楽しむためのデバイスだったタブレットを、クリエイティブ、知的生産性やビジネスのためのツールに引き上げたiPad Pro。2018年11月7日より発売開始された第三世代の11インチと12.9インチの新モデルは、iPad全体の歴史を見ても最大と呼べる飛躍を遂げた。Liquid Retinaディスプレイを用いたオールスクリーン、1枚の石板のような一体感のあるデザイン、Face IDによる顔認証、テンポよく快適に操作できるマルチタッチジェスチャ、A12X Bionicプロセッサなど、iPhone X世代の最新の技術を惜しみなく投入。それらはすべてiPadに最適化され、さらにインターフェイスにUSB-Cを採用するなど、iOSデバイスの新たな可能性を開く進化を遂げている。次世代のパーソナルコンピュータと呼びたくなるデバイスだ。

2016年にAppleはiPad Proが「PCの置き換え」になると主張したが、「置き換え」という言葉は誤解も広げたように思う。後にフィル・シラー氏はT3のインタビューで、旅行や映画鑑賞など目的に応じてiPadが「選択」され、そうしたユーザがiPad Proで費やす時間が増えていると補足した。

Appleは今年10月のスペシャルイベントで、iPad Proに搭載されているA12X Bionicが「過去1年に販売されたポータブルPCの92%よりも高速」とアピール。人々のコンピューティングデバイス選びに一石を投じた。

iPad Proのライバルと目されるMicrosoftの「Surface Pro」も使ってきた。従来型のPCとしては使いやすいが、それ故にユーザの変化を促さない。同じカテゴリーであるようでいて、iPad ProとSurface Proは本質的に異なる。

AdobeもPCからiPad Proへ。同社はこれまでデジタルペンを使ったコンピューティングではSurfaceシリーズを熱心にサポートしてきたが、2019年にiPad向けにフル機能版の「Photoshop CC」をリリースする。

iOS 12に追加された自動化ツール「ショートカット」。2017年にAppleが買収した「Workflow」がベースになっているが、Workflowは過去2年間、私のiPad Proでのプロダクティビティ向上を支えてくれた自動化アプリだ。

iPad Pro購入の決め手はコレ

?PCとしてではなく、iPadとして進化を遂げた

?iPhone X世代の技術を惜しみなく搭載する

?次世代のコンピューティングを展望するA12X Bionicの搭載

?Lightningコネクタ改め、USB-Cの採用

?2019年にiPad用「Photoshop CC」が登場

?AppleのブレないiPad Pro戦略の素晴らしさ

iPad Proの○×△

1.11インチと12.9インチ、絶妙な2つのサイズ【○】

タブレットの魅力のひとつは、場所を問わず自由に使えること。だが、これまでの9.7インチは机の上に置いて使う距離では画面が小さく、12.9インチは手に持つには重かった。新しいiPad Proの11インチモデルは従来のコンパクトさを保ち、12.9インチは大幅な小型化を果たした。2つのモデルが交わる部分が大きくなって、どちらもオールラウンダーと呼べる仕上がりだ。それでもサイズ選びは悩みの種だが、見方を変えると、新型はどちらを選んでも大きく失敗することはない。

11インチと12.9インチを並べると大きさの違いは一目瞭然だが、一方を手にしただけでは、どちらのモデルかすぐには判別できない。前世代に比べて、大きなモデルは持ち歩きやすく、小さなモデルは大きな画面で作業しやすくなった。

2.フラットで質感の高いデザインにはトレードオフも【△】

背面がフラットで、クラシックモダンと呼びたくなる美しいデザイン。高い質感と緻密な作りはプロを冠するツールにふさわしい素晴らしい出来だ。ただ、MacBook Airのような薄さを感じさせるデザインから、MacBook Proのような重厚感のあるデザインへと変わったため、手にしたときに重量感を覚えるというマイナス効果も。タブレットはより軽く、持ちやすくあってほしいという人にとっては、iPad史上最薄を活かし切れていないデザインとも言える。もちろん、好みは分かれるところだが。

新iPad Proは厚み5.9ミリとiPad史上最薄。だが、11インチと10.5インチモデルの手に持ったときの印象を比べると、10.5インチのほうが薄くて軽量に感じられる。

側面をたち落としたシャープなデザインは、iPhoneの快進撃の始まりとなったiPhone 4/5シリーズを彷彿とさせる。同じスペースグレイでも、新iPad Pro (上)は10.5インチモデルよりも深みのあるグレイだ。

3.たかがラウンドコーナー、されどラウンドコーナー【○】

新iPad Proのベゼルは太めだ。狭額縁とは言いがたい。それなのに、使ってみると確かにオールスクリーンなのだ。液晶ディスプレイの四隅が直角ではなく、本体のコーナーと同じように丸みを帯びている。スクリーンが筐体の一部であるような一体感のあるデザインで、スクリーンを点けると、純粋にディスプレイと対峙している感覚になる。太すぎるように思えたベゼルは、手に持ったり、タッチ操作する際のちょうど良いゆとりになっている。

10.5インチのiPad Proはスクリーンの四隅が直角。以前は気にならなかったが、新iPad Proを体験したあとだと古いデザインに見えてくる。

スクリーンのコーナーが本体と同じように丸みを帯びていて、スクリーンが筐体に溶け込んでいるように見える。

4.グラフィックス性能は◎、対応ゲームは× 【△】

Appleが「Xbox One S並み」と謳うグラフィックスパフォーマンスは本当に快適だ。たとえば、「NBA 2K モバイル」は高解像度で観客一人一人が鮮明にレンダリングされ、カクつきはまったくなく、なめらかな動作。iPad Proを外部ディスプレイやテレビに接続し、MFiコントローラでプレイしたら、据え置きゲーム機で遊んでいるかのよう。残念なのは、iPad Proのグラフィックス性能や柔軟に遊べるメリットを活かせるゲームが少ないことだ。

「NBA 2K モバイル」はiOSの第2スクリーンAPIをサポートしていないため、外部ディスプレイではフルスクリーン表示にならない。

携帯ゲーム機として、据え置きゲームのようにも楽しめる柔軟性はニンテンドースイッチのよう。それに、スイッチよりもパワフルだ。

5.A12X Bionicが入っている安心感【○】

A12X Bionicはタブレットのプロセッサとして圧倒的なベンチマーク結果を叩き出している。その能力を引き出せるアプリが少なく、せっかくの能力が活かされていないと言う声もあるが、果たしてそうだろうか。Face IDが驚くようなスピードで顔認証を完了させ、ディスプレイには最大120Hzのリフレッシュレートで更新する「ProMotion」テクノロジーが組み込まれている。新iPad Proのすべてが自然な体験になっていてつい見逃してしまうが、iPad Proのあらゆる体験にA12X Bionicの力が活きている。

パフォーマンスだけではなく、効率性も向上した。4Kビデオの書き出し、3Dグラフィックスを多用したゲームなど負荷のかかる作業を続けてもしっかりとバッテリ残量が残る。

オールスクリーン化によって短編のベゼル幅は狭くなったが、パームリジェクションのような技術が用いられているのか、保持したときにディスプレイに指が触れても誤認識しない。

6.外部ディスプレイに接続して生産力アップ【○】

新iPad Proを使うようになって、外部ディスプレイをここまで利用するようになるとは予想もしていなかった(USB-Cポートを搭載しているので、USB-C対応の周辺機器が使える)。ゲームだけではなく、大画面に表示して原稿の続きを書いたり、iPad Proを液晶タブレットのように使って写真を加工するなど、さまざまな作業に使っている。ただし、外部ディスプレイで適切にフルスクリーン表示されないアプリがまだ多いため、外部ディスプレイ接続サポートが進むように、Appleが対策を講じてほしい。

大きなディスプレイで作業したいときはこれまではMacに移っていたが、今はiPad Proにケーブルを挿してミラーリングで作業を続けることが増えた。エディタならキーボードショートカットで充分に作業できる。

「VLCメディアプレーヤー」は外部ディスプレイに対応している数少ないアプリの1つで、ビデオ再生が外部ディスプレイでフルスクリーン表示される。

7.USB-Cのおかげでカバンの中身がすっきり【○】

iPhoneがLightning、iPadがUSB-Cと異なるインターフェイスになったため、持ち歩くケーブルが増えるかと思ったが、逆に減少した。iPad ProにiPhoneを接続して給電できるようになったので、モバイルバッテリを持ち歩く必要がなくなったのだ。長期間の旅行時は必須だが、普段の外出でモバイルバッテリの出番はほとんどなく、これまでiPad Proのバッテリが空になったこともない。

iPad ProからiPhone以外のスマートフォンも充電できる。USB-Cを採用した端末ならUSB-Cケーブル1本持ち歩くだけで間に合うため、iPhoneもUSB-Cになってくれたらと思ってしまう。

8.非対応のアプリで11インチの魅力が減退【×】

発表と同時に発売されたためか、新iPad Proに対するサードパーティのアプリ開発者の対応が遅れている。12.9インチでは大きな問題はないものの、アスペクト比が異なる11インチでは、最適化されていないアプリには黒い枠ができ、スプリットビューに不具合が起こることもある。アスペクト比を変更するならAppleにもっとしっかりとした開発者サポートを行ってほしかった。現状、ユーザの使用体験にしわ寄せが来ている。

スクリーンの横幅全体をフルに使って表示されるべきビデオ再生に太い黒帯ができてしまう。ビデオや写真を扱うアプリほど非対応の影響が強く現れるので、迅速な対応が望まれる。

最適化が遅れている「Firefox」の場合、周りに細い黒帯ができるだけだが、それでもスクリーン全体の中でアプリの表示領域が小さくなると、使っていて狭くなっているように感じる。

9.Touch IDは不要!iPadにこそFace ID【○】

Face IDによる顔認識認証は、認識トレーニングにしばらく時間がかかったり、最初はよくはじかれることもあったが、順調に認識され始めてからは快速にアンロックされる。iPadはiPhoneよりもポートレートとランドスケープを切り替えて使用することが多く、アンロックのたびに向きを確かめてボタンの位置を探す手間がなくなったのは快適。キーボードを接続していたら、いずれかのキーを2回叩くだけでアンロックが完了する。アンロックの手間を軽減する実装になっている。

iPadはiPhoneよりも距離をとってディスプレイの正面で使うことが多く、認証の失敗が少ない。画面に触れた瞬間に認証が完了するぐらい速度も速く、Face IDはiPadにこそ最適な認証方法と思える。

10.打ちにくくなった11インチのソフトウェアキーボード【×】

iPad Proのソフトウェアキーボードは2つのモデルで異なる点に注意したい。12.9インチはハードウェアキーボードに近く、11インチは手に持って打ちやすい、よりシンプルなレイアウトだ。今回11インチモデルのキーボードがハードウェアキーボード寄りに変更された。キーボード分割、iPhoneで打ち慣れたユーザに愛用者が多いフリック入力用かなキーボードがなくなった。だからといって、12.9インチとまったく同じというわけではなく、中途半端な印象だ。

10.5インチモデルでは右下のキーボードキーを長押ししてアクセスできる「キーボード分割」の選択画面が、11インチモデルでは現れない。手持ちに適した入力方法のサポートがなくなったのは残念。

日本語・英語の切り替えボタンが12.9インチと同じ左側に配置され、10.5インチよりもキーの幅が狭くなった。iPad Proを両手で持って親指などで操作する場合、キーが小さいと押しにくい。

11.もうオマケとは言わせない!カメラが劇的に向上【○】

携帯性に優れたiPhoneに比べて、板を掲げるようになってしまうiPadを写真やビデオの撮影に使う人は少ない。だからといって、iPadのカメラが軽視されるのは不満だった。iPadで撮影したら、すぐにApple Pencilを使って写真に手を加えて共有したり、大きな画面でビデオを編集したりできる。コミュニケーション機能に使われる前面カメラの強化は予想していたが、新iPad Proでは背面カメラもiPhone XRと同等になった。

色合い・発色が良く、白飛びが目で見えて減った。特に光量が少ない場所での撮影、スマートHDRが効果を発揮する明暗差の大きいシーンでの撮影で仕上がりの差が一目瞭然。ニューラルエンジンが強化されたA12X Bionicの力を楽しめる。

内蔵される2つのカメラはiPhone XRとほぼ同じものになっており、「スマートHDR」や「ポートレートモード」「アニ文字とミー文字」といった機能も同様に利用できる。30fps/60fpsの4Kビデオに対応するなど、ビデオ性能も向上している。

12.ヘッドフォンの出番を減らす満足のスピーカ○

カメラとともに大きな変化を実感しているのが、スピーカとマイクだ。サイズが小さい11インチモデルでもバランス良く響き、音場の広がりがしっかりしている。新iPad Proではヘッドフォンジャックがなくなったが、WEBサイトからのオーディオ再生ぐらいなら内蔵スピーカで充分に楽しめる。マルチマイクは5つ。周囲の環境に応じたノイズキャンセリングやステレオ録音で、FaceTime通話やビデオ録画のオーディオが向上している。

4つのスピーカを搭載、従来のモデルと同じように縦方向のポートレートモード、横方向のランドスケープモードでも常に正しいステレオ感を得られるように出力が調整される。音量を上げても音が割れないのも特長。一人の範囲なら内蔵スピーカでも迫力のあるサウンドで満たせる。

13.初代Apple Pencilに対する不満がすべて解消【○】

初代Apple Pencilは画期的だったものの、すべてが満足できるデジタルペンではなかった。たとえば、充電のたびにキャップを外したり、複数のiPad Proで1本のペンを共有したりするのが面倒だった。デジタルペンの常識を覆すような優れた書き味があったから、そうした不満をすべて飲み込んでいた。第二世代のApple PencilはiPad Proの本体の上に置くだけで簡単にペアリングでき、iPad Pro上部にくっつけて充電可能。丸くないので、転がることもない。

マグネット接続を信頼しすぎているのか、第二世代になってApple Pencilを落とすことが増えた。購入時には不要と思ったが、自分のペンを見分けられるようにする刻印サービスを使えば良かったと後悔している。

つい充電を忘れてしまい、使いたいときにバッテリが空っぽということが度々だった、これまでのApple Pencil。第二世代では、iPad Proの上部にマグネット接続でき、そこに置くだけで充電できる。

14.Smart Keyboard Folio、頑丈になったが新たな不満も【△】

これまでのSmart Keyboardは、約1年の使用でキーボード部分がたわんで打ちにくくなってしまった。新iPad Proで使えるSmart Keyboard Folioは、底面が1枚のボードで頑丈になり、机の上や脚の上に置いても安定する。一方で、デザインや折りたたみ方の変更で新たな不満点が出てきた。背面まで覆うようになったことで厚さと重量が増加。また、Smart Keyboardはキーボードを使わないときはキー部分を折り畳んで保護できたが、Smart Keyboard Folioはキーボードがむき出しのままだ。

Smart Keyboard Folioは2段階でiPad Proの設置角度を変えられるが、奥側に接続すると切り立つような角度になる。タイピングしにくく、「ムダ」とも言われるが、ソファに寝っ転がった状態ではタイプしやすい。

Smart Keyboard Folioのカバーをひっくり返してiPad Proを手に持ったときに、背面でキーに指が触れてしまう。オフになっているとわかっていも、キーに指が触れるたびに誤入力してしまうような気分になる。

15.「Files」アプリでUSBストレージにアクセスできないもどかしさ【×】

USB-Cに移行したのに、USB接続のストレージをフル活用できない。外部ストレージから読み込めるのは、写真とビデオのみ。「ファイル」アプリからUSB接続した外部ストレージにアクセスし、iOSがサポートするアプリを対応アプリで読み込めるといった柔軟性が欲しい。サードパーティのソリューションは存在するが、すべてのユーザが利用できる「ファイル」アプリで可能になったら、アプリのエコシステムの成長にもつながるはずだ。

写真やビデオを備えたストレージをUSB接続すると「写真」アプリが起動する。ファイルのやりとりを自由にするほどにセキュリティリスクが高まるのはわかるが、iOSがサポートする範囲で「ファイル」アプリをもっと活用してほしい。

【総論】一番のコンピュータには一番のアプリが必要だ

新iPad Proは、デザインの面でiPhone 4/5シリーズを彷彿とさせるが、「周りの環境」という面からも当時のiPhoneを思い起こさせる。初期のiOSアプリはPC向けに提供されているソフトやサービスのモバイル版が多かったが、iPhone 4以降、iPhone向けアプリが増えたことで、ユーザが積極的に使い始め、モバイルサービスが成長、iPhoneも爆発的な成長期を迎えた。

これからiPad Proも同じようなプラス循環を生み出せるだろうか。たしかに、新しい第三世代モデルは完成度の高いハードウェア製品だが、デベロッパのアプリ開発の優先度は低く、iPhone向けアプリをiPadでも使えるようにしたものばかりである。同様に、対応周辺機器も多いとは言い難く、この魅力的なハードウェアを活かし切れないことを歯がゆく思うことが度々あった。

とはいえ、状況は着実に良くなっている。たとえば、クリエイティブ分野では2017年にiPad用「Affinity Photo」や「CLIP STUDIO PAINT」が登場し、2018年には「Affinity Designer」が加わった。そして、2019年には「Photoshop CC」がやってくる。iPad Proの特長を活かしたアプリが少しずつ増え、2年前に比べたらiPad Proをコンピューティングデバイスとして使うことが真剣に考えられるようになった。この噛み合い始めた歯車がうまく連動し続ければ、次世代のプライマリコンピュータ (人々にとって一番のコンピュータ)の市場を新たに切り開く存在になれるはずだ。