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ティム・クックCEOが提案する「プライバシー保護規則の4原則」

著者: 山下洋一

ティム・クックCEOが提案する「プライバシー保護規則の4原則」

Facebookからの個人情報の不正流用や流出が社会問題化し、2018年は米国においてプライバシー権が強く意識される年になった。そうした中、ティム・クックCEOがプライバシー権に関する国際会議の基調講演に登壇し、プライバシーを法的に保護するための提案を行った。

個人情報は基本的な権利

アップルのティム・クックCEOが、ベルギーのブリュッセルで開催された第40回「データ保護プライバシー・コミッショナー国際会議(ICDPPC)」の基調講演でスピーチした。同氏はデータ収集とプライバシー権を巡る「世界規模の危機」が実在すると指摘し、今年5月に「一般データ保護規則(GDPR)」を発効させた欧州に倣って、米国やほかの国々もプライバシー権を保護する包括的な保護規則を設けるべきだと訴えた。

名指しこそ避けたが、フェイスブックやグーグルなど、パーソナルデータを収集するネット大手に対する批判であるのは明らかだ。収集されたパーソナルデータは、「プロフィール」というような無害をイメージさせる言葉で表現されているが、実状は監視に等しいと指摘。人々の好み、家族や友だちとの関係、希望、夢といったものが、個人データを収集する企業によって軍隊を思わせるほど効率的に武器化され、それらが今、私たちに向けられていると非難したのだった。

過度の規制は望まないが、プライバシーは人々の基本的な権利であり、それを確立するための道を行政が整えるべきだと考えるクック氏。そのうえで、プライバシー保護規則に関して4つの原則を提案した。

(1)企業に提供する個人データの「最小化を求める権利」。(2)どのような目的でどのようなデータが収集されているか「知る権利」。(3)ユーザのものである収集データに「アクセスできる権利」。(4)すべての信頼の基盤となる「セキュリティを求める権利」だ。

プライバシー侵害の歴史

近年シリコンバレーでもプライバシー保護の意識が高まっているが、それでもプライバシー保護規制はテクノロジーの進化の妨げになるという見方が根強い。アップルも、ほかのシリコンバレー企業と同じようにテクノロジーの役割を重視している。

たとえば、気候変動対策、医療の進歩に新しいテクノロジーが大いに貢献している。誰もがあらゆる情報にアクセスできる環境は、経済的な成長のチャンスをすべての人にもたらす。テクノロジーは人々を豊かにするものだ。そのために人々にプライバシー権を放棄させるのは矛盾というのがアップルの見方である。

一例として「AI(人工知能)」を挙げたクック氏は、AIの成長のためにより多くの個人データを収集するのは「効率化ではなく怠惰だ」と指摘。プライバシーを含む人間の価値を尊重するものであってこそ、本当にスマートなAIであり、人間性やクリエイティビティ、創意といったヒューマンインテリジェンスが犠牲になってはならないとした。その認識を誤ると、AI開発のために集められたデータが別の目的に流用されるといったリスクが生じる。

個人の情報とプライバシーの問題は今日のネット社会と結びつけて考えられているが、実は100年以上も前から存在していた。プライバシー権が初めて認められたのは1890年代の米国だ。印刷技術と流通システムの進歩によって日刊紙が台頭し、新たな購読層になり始めた一般大衆を引き込むために、有名人や金持ちのゴシップを新聞が好んで載せるようになった。記事の質は問われないまま、大衆ネタや私生活ネタが蔓延したのだ。プライバシー権が認識されていなかった当時、プライバシーは名誉毀損の問題として扱われた。そうした中、法律家のルイス・ブランダイスが「プライバシーの権利」という論文を発表。その中で「放っておいてもらう権利」としてプライバシー権を定義した。

歴史は繰り返す。情報革命は、誤って利用されるとプライバシー侵害につながる両刃の剣である。しかし、1890年代と違って、現代ではプライバシーが人々の権利として広く認められている。だからこそ、過ちを繰り返してはならない。クック氏は、プライバシーに関して私たちは「どのような世界で暮らしたいか?」と自問し続けるべきだと述べた。そして「その答えは反省から導き出されてはならない、私たちの一番の関心事であるべきものだ」と付け加えた。

企業が収集するデータは、一つ一つは無害に見えるが、それらが入念に集められ、統合、取引され、永続的なデジタルプロフィールが作成される、「企業があなたについて、あなた自身よりもよく知ることになる」とティム・クックCEO。【URL】https://www.privacyconference2018.org/index.php/en