2026年1月にラスベガスで開催された「CES 2026」において、台湾のIT機器メーカー「ASUS」は世界初のWi-Fi 8コンセプトルータ「ROG NeoCore」を発表した。一方、Apple製品では2024年秋にリリースされた「iPhone 16シリーズ」とM4搭載の「iPad Pro」でようやく「Wi-Fi 7」に対応し、Macはまだこれからという状況だ。
「Wi-Fi 8」とはどんな無線LANなのか、Wi-Fi 7との違い、そして今後のロードマップなどについてご紹介しよう。
Wi-Fi 8とはなにか、Wi-Fi 7とは何が違うのか
Wi-Fi 8をひとことで言えば「Wi-Fi 7をベースに接続性や安定性を向上させたもの」といえる。Wi-Fi 7がWi-Fi 6(Wi-Fi 6E)の無線技術をベースにさらなる高速化を求めた規格であるのに対して、Wi-Fi 8ではピーク速度(最大スループット)はWi-Fi 7と同じながら、実際の使い勝手や安定性(実効スループット)を高めた規格となっている。

出典●Broadcomの資料「Wi-Fi for the AI Age」(2026年1月公開)
Wi-Fi 8ではWi-Fi 7に対して、次のような特徴を持つ。
- UHR(Ultra High Reliability)の実現:Wi-Fi 7 が「高いスループット」を主眼に置いていたのに対して、Wi-Fi 8では信頼性と安定性の向上を目標とする。
- 弱電界・干渉環境でのスループット向上(目標:+25%):好ましくない電波環境であっても、Wi-Fi 7より25%高い実効スループットを狙う。
- レイテンシの削減(目標:-25%):95%の通信内容において、その遅延をWi-Fi 7と比べて25%短縮することを目標とする。
- パケットロスの低減(目標:-25%):ローミングや会議などの切れにくさを実現する。
- アクセスポイント間協調(Multi AP Coordination)の強化:複数のアクセスポイントを協調制御する機能を標準化する。
- MLO(Multi Link Operation)の高度化とサブチャネル制御の強化:Wi-Fi 7で導入された 複数のバンドやチャンネルを束ねる技術「MLO」をより高度に制御しつつ、DSO(Dynamic Sub channel Operation)により電波の利用効率を向上することで、干渉の多い環境での安定性を改善する。
つまりWi-Fi 8とは、Wi-Fi 7の高速性をより安定して実現するためのさまざまな改善が盛り込まれた規格だ。さらに混雑した電波状況や、アクセスポイントから離れた条件下でも、切れにくい通信を実現するのが特徴となっている。

Photo●ASUS
Wi-Fi 8正式発表までのロードマップ
Wi-Fi 8のベースとなる無線LAN規格は、米国の電気電子学会であるIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)のタスクグループ「TGbn」にて「IEEE 802.11bn」として策定が進められており、ドラフト1.0が 2025年7月に承認された。現在(2026年1月)時点ではこのドラフト1.0に対するコメント解決フェーズに移行しており、2028年春頃の最終承認を目指している。
一方でWi-Fiの普及促進を担う業界団体「Wi-Fi Alliance」は、2027年度中にWi Fi 8 認証テストプランを構築し、2027年末から2028年初頭を目標にWi-Fi 8の認証を開始する方向で動いている。

Photo●MediaTek
では実際のWi-Fi 8対応製品がいつくらいに登場するかと言えば、早ければ2026年後半から2027年にかけてドラフトベースの製品が登場し、その後普及フェーズに入ると推測される。このようなドラフト段階からの製品導入は、過去のWi-Fi規格でも繰り返し実施されてきた歴史があるからだ。
すでにWi-Fi 8対応デバイスに必要なチップセットについては、2025年末の段階でBroadcomやMediaTekなどからリリースされており、一部はサンプル出荷も開始されている。ASUSからリリースされたWi-Fi 8コンセプトルータも、こういったチップセットによって構成されていると考えられる。

Photo●Broadcom
Apple製品への導入はいつ頃?
冒頭にも記載したとおり、Apple製品ではようやくiPhoneとiPad ProがWi-Fi 7に対応した状況で、他のiPadやMacへの導入はこれからの段階だ。AppleはWi-Fi 7とBluetooth 6、Threadに対応したWLANチップ「Apple N1」を自社開発、iPhone 17シリーズやiPad Proに採用している。
Appleは近年、Wi-Fi新規格の導入には慎重な姿勢を見せており、その点も考慮するとデバイスへの導入は2028年春頃に予定されているIEEE 802.11bn最終承認を待つ可能性が高い。今の流れで行けば、Appleは新型の自社開発WLANチップ(N1の後継チップ)を導入するものと考えられる。

Photo●Apple
Wi-Fi 8ルータの先行導入にメリットはあるか
一方で市場には、先行してWi-Fi 8(ドラフト)対応のWi-Fiルータが2026年後半から各社より登場すると考えられる。これからWi-Fiルータを購入するユーザは、Wi-Fi 7とWi-Fi 8のどちらのルータを選ぶのか、迷うケースも出てくるだろう。ではWi-Fi 8対応ルータにWi-Fi 7対応のデバイス(端末)が接続した場合、その恩恵はあるのだろうか。
基本的にITデバイスのインターフェイスでは、新旧規格のものを接続した場合、古い(低い)規格に合わせる「下位互換」となり、新規格(上位規格)のメリットは活かせない。ただし、Wi-Fi 8の場合はまったくメリットがないかといえば、そういうわけではない。
たとえばWi-Fiルータがメッシュ構成、つまり複数のWi-Fi 8アクセスポイントの連携で構成されている場合には、アクセスポイント間協調(Multi AP Coordination)によって各端末の接続性の向上(つながりやすさ)が期待できる。またWi-Fi 8ルータはその要求仕様の高さから従来より高性能なプロセッサが求められることから、それによってレスポンスが向上することも期待される。
このようにWi-Fi 8は、Wi-Fi 7と比べてそのピーク性能は変わらないものの、より電波状況の悪化に強く、より遠くまで速度が落ちにくく、より遅延が小さく、より安定した接続を実現する規格、となる。このような特性は中でもネットワークゲームやWeb会議など、安定した通信速度と低遅延が求められるケースで非常に大きなメリットとなる。Wi-Fi 8とは「瞬間的な速さ」でなはく、「つながりやすく切れにくい」ストレスの少ないWi-Fi利用を実現するためのアップデートだといえるだろう。
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