「モビリティ・カンパニー」への変革を目指すトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)のIT活用領域は多岐にわたる。経営戦略や事業企画をはじめ、自動車の開発・製造プロセス、車両の販売やサポート、経理や人事といった基幹システムの開発・運用、さらにはグループ全体のネットワークやIT基盤の整備にも及ぶ。
トヨタ本社でITインフラの企画を担うITマネジメント部の守谷幸男氏と、同部門と連携してITインフラ整備を支援する株式会社トヨタシステムズ エンドユーザーサポート部の彦坂将宏氏に、従業員からの申請でMacを導入できるようになった経緯や、そこから見えてきた課題について話を聞いた。
38万人の従業員を支えるITマネジメント部
2025年現在、トヨタの国内従業員数は約7万人、グループ全体を含めた連結従業員数は約38万人に達している。ITマネジメント部はトヨタ本社のデジタル情報通信本部に属し、全社的なIT投資の管理や、連結子会社を含めたコンプライアンス対応・SOX対応といった内部統制、情報インフラ整備を役割として担っている。
「私が所属する『ITインフラ支援室』では、トヨタ全従業員の業務を支えるITインフラ企画、OA基盤整備支援を担当し、インフラ面のDXを推進しています」(守谷氏)
トヨタの情報システムの歴史は1957年まで遡ることができる。1980年代後半には業務系・事務系システムの国際化対応とOA(オフィスオートメーション)化が進み、1990年代後半にはシステムの高度化と技術系システムの統合が実現。2000年代前半にはシステム全体のグローバル標準化が進められるなど、国内外の時代の要請に応じて常に発展と変革を重ねてきた。
こうした歴史的背景から、従業員がOA業務で利用するデバイスは長らくWindows PCが主流であり、業務システムやセキュリティ要件も基本的にWindows環境を前提として最適化されていた。
しかし、2010年代以降のモバイルの普及により業務用スマートフォンとしてiPhoneを全社的に採用。さらに2020年代に入ると、働き方改革やコロナ禍への対応を契機に、トヨタのITをトップレベルに引き上げるべく、従業員の希望に応じてMacを選択できる新たな取り組みが始まった。
「現在は、全社員に共通に配付しているPCとは別に、業務に合わせてハイエンドPC/Macを展開中です。Macは、ソフトウェア開発やデザイン、研究開発業務、工場などでデジタルTPS(トヨタ生産方式)を推進するメンバーから特に好評です」(守谷氏)
Macの導入形態について、ITマネジメント部とともにITインフラの整備を進めてきたトヨタシステムズ(以下、TS)の彦坂将宏氏はこう語る。
「業務に必要なスペックの変化も鑑みて、利用期間が3年以内の場合には、レンタルを推奨しています。サービス開始から2年ほどですが、すでに約1000台のMacがリース契約で稼働しています」
従来は購入が基本で、機種選定から仕入れまでに約2〜3カ月を要していた。しかし、レンタルプログラム制度の導入によってリードタイムは大幅に短縮。申請からキッティング対応を含め、10日以内で納品可能となり、従業員満足度も高いという。
「マルウェア対策など標準的なセキュリティ対策を整えた状態でMacを提供しています。セットアップ手順書も用意しており、『Microsoft 365』など業務アプリのインストールを含め、1時間程で利用を開始できます」(彦坂氏)

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理想の運用体制を目指して
アプリ配付にはABM(Apple Business Manager)を活用し、Apple Accountを用いない運用を実現している。最近では、デバイス管理に利用している「Microsoft Intune」がmacOS 14以降で対応範囲を拡大したことで状況が改善。トヨタの定めるセキュリティ要件に近づけることに成功し、2025年度からは社内ネットワークへの接続も可能となった。
「内部不正対策などは、カスタムプロファイルやスクリプトを独自に組んで補っています。私はプログラマーではありませんが、Appleによる支援も受けつつ、試行錯誤を重ねながら管理運用のノウハウをためていきました」(彦坂氏)

Macの従業員選択制度を導入する前からiPhoneをIntuneで管理していることもあり、現状はMacとWindowsを一元的に管理するための方法を追求している段階だ。また、働き方の多様化に合わせ「Microsoft Entra ID」によるアカウント管理とゼロトラストセキュリティの実現に向けた最適化も進めていく方針だ。
「Microsoftソリューションを活用している立場として、AppleとMicrosoftの間の連携強化にも期待しています。運用管理ではApple、Microsoft、そして我々ユーザの三者が連携し、ソリューション間の”隙間”を感じさせないスピーディーな対応を実現したいです」(守谷氏)
導入後のサポートについては、現状Macを利用する従業員からの操作方法などに関する問い合わせはほとんどないという。ネットワーク接続などトヨタ固有の環境に依存する問い合わせについては社内IT担当が一次対応し、技術的に解決しない場合はAppleCareのサポート部門につなげる体制を採用。「AppleCareの存在は安心感があります」と彦坂氏。
さらに、Macは契約満了後の残価が高く、運用コストも低いため、トータルコストが最適化されている点も導入を後押ししている。
「ITマネジメント部としては、従業員の業務改善につながるIT環境を提供することが仕事です。Macを必要とする従業員に安全に提供できる体制が整ったことは大きな一歩だと思います」(守谷氏)

著者プロフィール
栗原亮(Arkhē)
合同会社アルケー代表。1975年東京都日野市生まれ、日本大学大学院文学研究科修士課程修了(哲学)。 出版社勤務を経て、2002年よりフリーランスの編集者兼ライターとして活動を開始。 主にApple社のMac、iPhone、iPadに関する記事を各メディアで執筆。 本誌『Mac Fan』でも「MacBook裏メニュー」「Macの媚薬」などを連載中。





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