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“iOSの中”で見つかった“iPadOSの一部”。意味するのは折りたたみiPhoneか? 実現の果てにAppleが目指すのは、デバイスの統合ではなく体験の統合

著者: 牧野武文

“iOSの中”で見つかった“iPadOSの一部”。意味するのは折りたたみiPhoneか? 実現の果てにAppleが目指すのは、デバイスの統合ではなく体験の統合

匿名のハッカー・TechExpert2910氏が、iOSの中にiPadOSの機能の一部が内蔵されていることを発見した。この機能を解放すると、iPhoneがiPadのように使える。

これはいったい何なのか。多くの人が、折りたたみiPhoneへの準備ではないかと想像している。

iPadOS 26で登場したマルチウインドウ機能。小さなMacBookとして使えるように

iPadをお使いのみなさんは、iPadOS 26にアップデートされただろうか。Liquid Glassが話題となりがちだが、iPadにとってはマルチウインドウになったことのほうが大きなニュースだ。

iPadアプリをウインドウ化し、自由に配置できる。オーバーラップさせることも、背後にあるウインドウをタップしてフォーカスすることもでき、要はmacOSとほぼ同じような感覚で操作可能だ。

2019年にリリースされたiPadOS 13以前は、iPadはiOSで動作していた。そのため、iPhoneと同じようにシングルウインドウで使うしかなかった。これがiOSとiPadOSにわかれ、Split View、Slide Overといった機能を獲得。擬似的なマルチウインドウ環境が提供されるようになり、iPadOS 26でいよいよ完全なマルチウインドウ環境が整った。

Magic Keyboardと組み合わせれば、小さなMacBookとして使うことができるようになる。

iPadOS 26のマルチウィンドウ
iPadOS 26ではウインドウシステムが再設計され、MacBookのようなマルチウインドウが可能になった。タブレットコンピュータとしての使い道がひらけてきた。画像●Apple
マルチウィンドウの設定
iPadの「設定」アプリの[マルチタスクとジェスチャ]で、ウインドウのスタイルを設定可能だ。[フルスクリーンアプリ]にすると、従来どおりのシングルウインドウとなる。




匿名のハッカーが見つけた、iOSの中のiPadOS。iPhoneでもマルチウインドウが実現?

iPadOSがiOSから分岐して6年。カーネル(核)の部分は、UNIX系統のオープンソースDarwinで共通し、人間にもっとも近い部分であるUI/UX部分はLiquid Glassで統一されている。しかし、その中間の機能を実現している部分は、それぞれで大きく異なってきた。

ところが、匿名のハッカーTechExpert2910氏が、米国の掲示板Redditで、iOSの中にiPadOSの機能が内蔵されていることを発見した。

iOSをハックし、眠っている機能を解放すると、iPadOSと同じようにiPhoneでもマルチウインドウが使える。さらに、iPadアプリを起動したり、ホーム画面を横向きにすることもできた。

つまり、iPhoneはiPadのように使うことができる。そして、iPadは小さなMacBookのように使えるのだから、iPhoneはより小さなMacBook代わりになるというわけだ。ただし、その後の投稿によると、このハックはiOS 26.2で対策されてしまって、現在は再現できなくなっているという。

iOS内にあったiPadOSのマルチウィンドウ機能(1)
TechExpert2910氏によるRedditでの投稿。iPhone 17 Pro Maxを外部ディスプレイに出力し、マルチウインドウで操作している。iOSの中にiPadOSの機能が内蔵されてたというのだ。画像●Reddit

iPhoneがMacBook代わりになる未来。事実、AシリーズとMシリーズの性能は接近している

このニュースは、多くのAppleユーザの心をくすぐった。なぜなら、MacBookがなくても、iPhoneさえあれば仕事ができるようになるかもしれないからだ。オフィスや自宅にキーボードとディスプレイを置いておき、iPhoneを接続すればMacBookのように使える。

iOS内にあったiPadOSのマルチウィンドウ機能(2)
Xにも、Duy Tran氏がiOSの中のiPadOSの開放に成功した動画を投稿。iPhone 17 Pro Maxでマルチウインドウが動いている様子が映し出されている。画像●X

しかも、iPhoneに使われているプロセッサ「Aシリーズ」の性能向上は著しい。もはや携帯電話用のSoCではなく、コンピュータと呼ぶべき性能に達している。

ベンチマークテストの結果を公表しているGeekbenchによると、iPhoneおよびiPad、iPad miniに使われているAシリーズと、iPad Air、iPad ProおよびMacBookに使われているMシリーズの性能は接近している。

さすがにマルチコア性能やGPU(グラフィック)性能には差があるが、シングルコア性能ではほとんど差がない。このため、Aシリーズを使った廉価版MacBookの噂もあるほどだ。複雑な仕事をこなすのには向いていないが、メールや報告書、ブラウジングといったライトな使い方であれば十分間に合う。学生やベーシックなデスクワーカーに適している。

GeekbenchによるAシリーズとMシリーズを比較したベンチマーク結果

Geekbenchスコア
GeekbenchによるiPhone 17 ProとiPad Pro、MacBook Proの性能比。シングルコアの性能であればほとんど遜色がない。なお、iPad、MacBookにはすでにM5搭載モデルが登場しているが、まだベンチマーク結果が投稿されていないため、M4搭載モデルと比較している。




Appleが開放しない理由とは。 「体験の統合」を実現するための入念な準備中?

TechExpert2910氏は、Appleがこの機能を開放しないのは、Appleのセールスに影響するからではないかと疑っている。現在は、MacBook+iPad+iPhone(+AppleWatch)というフル装備の方も少なくないだろう。しかし、iPhoneでiPadOSが動き、そのiPadOSがMacBookライクに使えるとなると、iPhoneだけで済ませてしまう人が出てくるかもしれない。

Redditでは、iOSに内蔵されているiPadOS機能の開放をAppleに求めよう、という運動が盛り上がっている。

ただし、筆者は、TechExpert2910氏の意見とは少し違った視点を持っている。Appleは、iPhone、iPad、MacBookの機能を統合しようとは思っていない。統合したいのは体験だ。どのデバイスであってもシームレスに使える、そういう体験を統合するためにLiquid Glassがある。

同じ感覚で操作できながら、それぞれのデバイスに個性がある。そういう世界観を目指していると思える。機動性のiPhone。ペン入力などアナログ的な操作ができるiPad。そして、制限なくなんでもできるMacBookという具合だ。

これにより、ユーザは複数のデバイスを違和感なく使いこなし、豊かで多様なユーザ体験を享受することができる。

クレイグ・フェデリギが語る「スポーク」の比喩。Appleが目指すのはデバイスの統合ではない

ソフトウェアエンジニアリング上級副社長のクレイグ・フェデリギ(Craig Federighi)氏は、2018年のWWDC(開発者会議)で、iOSとmacOSを統合しようとするプロジェクトMarzipanに対して「No」と答えた。

フェデリギ氏はメディアのインタビューで「スポーク」という比喩を使う。

「イタリアにそういうものがあるかどうかは知りませんが、スプーンが素晴らしく、フォークが素晴らしいなら、それを兼ね備えたひとつの道具=スポークをつくるとしましょう。でも、それはよいスプーンでもなく、よいフォークでもないのです。これは間違った考え方です。ですから、私たちはスポークをつくりたくありません」

クレイグ・フェデリギ上級副社長は、WWDC2018で、「iOSとmacOSを統合するのか?」という問いに対してNoを突きつけた。その理由をスポークという例を挙げて説明している。


実際、某M社がPCとタブレットのOSを統合しようとして大失敗をしたことがある。このとき、ティム・クックCEOはAppleの決算説明会で、「トースターと冷蔵庫を統合することは可能ですが、誰も満足させることはできません」とコメントしている。




折りたたみiPhone。「iOSの中のiPadOS」が発見されたことで、にわかに現実味を帯びてきた

では、なぜiOSにiPadOSの機能が内蔵されているのか。多くの人が想像をしているのが、折りたたみiPhoneだ。噂にすぎず、Appleは公式には何のコメントも発していないが、ファンの間ではすでに確定情報のように扱われている。

しかも、iPad miniと同じ8インチサイズで、折りたたむとiPhoneサイズになるというところまで話が具体的になっている。

この話の信憑度はともかく、iPad miniサイズのタブレットをiPhoneのようなシングルウインドウで使っては、せっかくの大画面を活かせない。大画面を活かすにはマルチウインドウのシステムが必要であり、そのためにiPadOSの機能の一部をiOSに内蔵させたのではないか、という推測がされている。

iPhoneがただ折りたためるというだけではあまり魅力を感じないが、たたんでiPhone、広げてiPad、キーボードを使えば小さなMacBookというのであれば途端に魅力的に思えてくる。

しかし、このようなスイスアーミーナイフのような製品はAppleの思想からは外れる。Apple内部では試作して、それがスポークになっていないかどうか、1+1が2以上になるケミストリー価値を創造できるかを議論している最中なのではないだろうか。

折りたたみスマートフォンは各社から発売されているが、価格の高さがネックとなって広く普及しているとは言えない。しかし、iPad Pro前後の価格であれば、購入してみたいと考える人は一定数いるかもしれない。TechExpert2910氏の発見により、折りたたみiPhoneがにわかに現実味を帯びてきている。

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著者プロフィール

牧野武文

牧野武文

フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。

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