このところ、クラウドファンディングなどを通じて、拡張ディスプレイとなるスマートグラスではなく、メガネとして常用できるAIグラスの製品発表が相次いでいる。
当然ながら筆者はApple Glass(仮称)を待ち望んでいるが、ちょうど予備のメガネが欲しかったところでもあり、半年ほど前にKickstarterでHallidayというAIグラスを支援した。出荷開始が予定よりもだいぶ遅れたが、先日、ようやく製品が届いたので、その使い勝手をレポートする。
拡大する“AIグラス”市場への期待
ここでいうAIグラスとは、大きなカテゴリとしてはスマートグラスに属する製品だ。しかし、コンピュータやスマートフォンの拡張ディスプレイになるタイプではなく、チャット系AIとのやりとりで質問に対する回答を得たり、メールやメッセージ、ナビゲーションなどの日常的な情報処理が行えるものを指している。
まだ噂段階ではあるが、Apple Glassは自社のエコシステムの強みを活かして、Macにつなげば拡張ディスプレイとなり、単体(iPhoneとの連携)ではAIグラスとして使えるようなハイブリッドタイプのものが構想されているという。いずれにしても、AIグラスの製品発表が相次ぐ理由としては、市場拡大への期待感がある。
約1年前にカメラ機能付きのRay-Ban Metaをリリース(日本未発売)したMETAは、上位モデルでレンズ内の視界に映像を表示できるRay-Ban Displayと呼ばれるモデルも発表した。
すでにAndroid XRを搭載したゴーグルタイプのGalaxy XRを販売(日本未発売)しているGoogle&Samsung連合もグラスタイプの製品を用意していることから、本格的な市場拡大を前にして商機を見出したスタートアップ界隈がざわついているのだ。

そして、少し前にAppleも、Apple Vision Pro(AVP)の次期モデルの開発よりもApple Glassの開発を優先することにしたとの報道があった。METAやGoogleの動きを踏まえてのことと思うが、AVPの完成度の高さ(=次期モデルを急ぐ必要はない)と上記のような市場動向を考えれば、これは理に叶っている。ただし、Apple Glassの開発スケジュールを早めるとすれば、初代モデルでは当初盛り込もうと思っていたであろう高度なAR機能(たとえば、視界に入るアイテムのラベリングや詳細情報の表示など)を削って、より現実的な仕様でまとめてくる可能性も十分あるだろう。
見た目も軽さも普通のメガネだが….。超小型ディスプレイ内蔵
AIグラスの中には、内蔵されたカメラに映るアイテムに関して、AIに質問できる製品もある。たとえばRay-Ban Metaは、そのような製品だ。しかし、カメラ機能はプライバシー上の懸念があるため、メーカーによってそのスタンスが異なる。
Hallidayは、カメラ機能を内蔵しない判断をしており、AIは音声による質問の回答を、右側のレンズの上部に設けられたDigiWindowと呼ばれる超小型ディスプレイ内に表示する仕組みだ。また、音質はそこそこだが、スピーカも内蔵されており、通話やインストラクションの音声再生、音楽再生がサポートされている。現状、AIの回答を音声で聞くことはできないが、今後のアップデートに期待したい。
カメラを内蔵しないことで、Hallidayの外観は普通のメガネと区別がつかない。重量もレンズ込みで40gを切る軽量なもの(単体では28.5g)に仕上がった。拡張ディスプレイ機能がメインのスマートグラスの重量は70〜100gであり、Ray-Ban Metaでも52gはあるので、この軽量さは大きなメリットだ。

Hallidayに近い製品としては、やはり40gを切るEven G2という製品があり、こちらはレンズ内に情報をグリーン表示できる。しかし、こちらはカメラだけでなくスピーカも内蔵していない。
ちなみに、通常は、DigiWindowを10〜45秒の範囲でスリープさせる設定で、公称最大12時間のバッテリ持続時間がある。常時点灯状態で時刻を表示させ続けたところ、1時間で15%程度の電力が消費されたので、その状態でもバッテリーは6時間半以上持つことになる。
クリアな表示と許容できるレスポンス
レンズ内に情報を表示するAIグラスでは、基本的に、テンプル内部のマイクロプロジェクタから光を導くウェイブガイドという仕組みを内蔵した特殊なレンズが使われている。その機構上、一般のメガネ店でのレンズ交換ができず、たとえば視力に変化があった場合には、メーカーに返送して交換を依頼する必要がある。また、当然ながら普通のレンズよりもコスト高になる可能性が高い。
Hallidayの場合、この特殊なレンズ構造を避けるために、フレーム側にDigiWindowを備えたわけだが、Hallidayの公式サイトでは「Invisible Display」という呼び方をしている。YouTuberや他のメディアは、これを「透明ディスプレイ」や「シースルーディスプレイ」、「網膜投影技術」と呼んでいたりするが、それらはすべて誤りであり、あくまでも超小型のディスプレイモジュールである。
DigiWindowは、ユーザが視線を上げたときに、3.5インチ相当のグリーンモニタが浮かんでいるように見える。レンズ内に投影される半透過形式のイメージとは違い、DigiWindowには周囲が明るいところでも視認性が落ちることなく、常にはっきりと見えるというメリットがある。メガネのフレームに対する目の位置には個人差があるため、DigiWindowは左右方向への移動と上下方向の角度の調整が可能であり、さらに視力に応じたピント合わせができるようになっている。

レンズに汎用性があり、表示が常に明瞭であるという点は、今の時点でHallidayを選ぶうえでの大きな決め手となった。HallidayがクラウドファンディングのKickstarterやIndygogoで5.9億円相当の資金調達に成功したことの一因も、こうした特徴にあったのではないかと感じる。なお、2026年1月頭まで、日本のMakuakeでもプロジェクトが公開中なので、興味のある方は、そちらもご覧いただきたい。
しかし、実はレンズ交換については日本特有(?)の問題にぶつかり、解決にやや時間がかかった。この点については後述する。
気になるHallidayの操作方法は…?
Hallidayの操作は、テンプル部のタッチサーフェスと付属のリングのどちらでも行うことができる。タップで選択(時計画面からメニューを出す、メニュー項目を選ぶなど)、ダブルタップでメニュー階層を戻る、スワイプで選択項目のスクロールなどに対応する。加えて、テンプル部には電源スイッチを兼ねたアクションボタンがあり、よく使う機能(翻訳、音声メモ、リアクティブAI、チートシート、省電力モード、ヘッドフォンモード)を割り当てることも可能だ。
個人的には、テンプル部のタッチサーフェスだけでも十分に操作可能と感じるが、手を頭の高さまで上げずに操作できるリングには、周囲の注意をひかずに済むメリットがある。
ちなみに、原稿執筆の時点で用意されている機能は、リアクティブ(受動的)AI、プロアクティブ(能動的)AI、翻訳、チートシート(6段階のスクロール速度と3段階の文字サイズで、プレゼン原稿などを表示できるカンペ機能)、音声メモ、リマインダーがある。また、AIとのやり取りや翻訳結果はスマートフォンのアプリと同期する仕組みで、チートシートとリマインダーはアプリ側で入力した情報がHalliday側に送られる。逆に、音声メモはHalliday側で記録したものがアプリ側に送られて、文字起こしや要約の処理ができるようになっている。
なお、Hallidayの基本機能はすべて無料だが、プロアクティブAI、高度なAI翻訳、音声メモのAI処理については、ポイントを購入して利用する有償機能として提供されている。ただし、クラウドファンディングでの購入者には180日間有効な9200ポイント(プロアクティブAI利用の場合、2500分に相当)が付くほか、毎月480ポイントが自動で付与されるので、バランスよく利用すれば、無料のままで使い続けられるのではないだろうか。
Hallidayを快適に使うための“ちょっとしたコツ”
AIのレスポンスタイムは質問の複雑さに依存するが、許容範囲にある。また、翻訳機能も多少のタイムラグは生じるが、短く区切って話してもらえれば、理解という意味では実用的になるだろう(翻訳結果を受けて話せるかどうかは、また別の問題だが…)。
自転車移動の機会が多い筆者にとっては、時刻やリマインダーなどを少し目線を上げて確認できるだけでも重宝する。しかしHallidayは、基本的にグランス(チラ見する)で使うデバイスであり、ずっとDigiWindowを見続けるような使い方では目が疲れてしまう。そのため、チートシートも、話すべき原稿をすべて読み上げるような使い方ではなく、要点のみを箇条書きで表示している。そして、時々確認しながら話すような利用法が適していると感じる。


今後も継続する機能の充実と拡張
専用アプリは、開いてさえいれば常時アクティブ状態である必要はない。基本的な設定自体はHalliday本体でも行えるが、設定を一覧しながら変更を加えたり、アクションボタンの機能を選択したり、トラックパッドのような画面でHallidayを操作したい場合に利用することになる。

Hallidayの機能は、これからも充実させていくことが明示されており、個人的には、ナビゲーションや装着状態の検出によるDigiWindowの自動オン/オフ、AIや通知の音声読み上げなどが早く実現するとよいと思う。
通常のUSB-Cケーブルで充電できる点もHallidayの特徴だ。付属の操作リングも磁力吸着式のアダプタを介して、同じくUSB-Cケーブルで充電できる。特殊な専用ケーブルが不要な点はありがたい。

思わぬ落とし穴。レンズ交換でまさかの苦戦
なお、Hallidayは処方箋のあるレンズをあらかじめセットした状態で出荷してくれるのだが、筆者の視力補正には特殊なプリズム値が必要なため、とりあえず、プリズム値なしの補正レンズを入れて送ってもらい、日本で交換する計画だった。
ところが、いくつかのメジャーなメガネチェーンに持ち込んだのだが、スマートグラスであることを説明すると、軒並み、理由の説明もなく断られてしまった。おそらく、交換作業が電子回路などに影響を与えて動作不良になることを恐れてのことだろう。樹脂フレームのメガネの場合、通常は熱を加えてレンズを外したり嵌めたりするので、そのような心配も理解できる。
メーカーに問い合わせたところ、Hallidayは熱を加えずにレンズ交換ができる構造になっていて、現在それに対応できる企業を選定中とのことだった。しかし、それを待っていてはメガネとして使えないので、ダメ元で「メガネの愛眼」に持ち込んだところ、通常の免責条件のもとで、快く受け付けてくれ、無事にプリズム値入りのレンズと交換できて機能的にも問題は生じず、事なきを得た。ただし、特定の店のスタッフによる判断だった可能性もあるため、愛眼全店で同じ対応をしてくれるかは定かでないことには注意していただきたい。
おそらく、今後の主流はレンズ内の情報表示となり、Appleならば直射日光下での視認性を向上させる遮光機能を備えたレンズまで開発してきそうだが、それまではHallidayでAIグラスがある生活に慣れておきたいと思う。
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著者プロフィール
大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。








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