大きく変わりつつあるパソコンの使い方
かつてのパソコン利用と言えば、目的別にさまざまなアプリを起動してデータを加工することで成果を得るのが一般的であり、アプリの使い方を習熟することがその前提となっていた。たとえば情報収集ではSafariなどのブラウザを使い、複数のサイトから得られた情報を分析し文書にまとめるのはユーザの役割。デザイン創作においても同様で、たとえば「Photoshop」や「Illustrator」などのデザインアプリを使いこなして思い通りのイメージを創作するのがクリエイターの主な役割だった。
しかし今ではクラウドAI上のLLM(大規模言語モデル)に質問や指示を与えることで、情報検索と文書生成を同時に行えるようになった。デザイン分野でも同様だ。「Stable Diffusion」に代表される画像生成AIにプロンプトを与えれば、絵心がなくても欲しいイメージを得られるようになりつつある。
このように、パソコンの利用はもはやアプリの機能に縛られなくなった。さまざまなAIツールを駆使することで、あらゆる成果が得られるのである。つまり、パソコンは単なるツール(道具)としての役割から、AI技術を利用してユーザの創造性と生産性を拡張する存在へと変貌しつつある。
歴史を変えたNVIDIAのイノベーション
現在のAI革命を陰で支えてきたのがNVIDIAだ。同社はハードウェアとソフトウェアの両面で、AI技術開発の歴史的な転換点を創出してきた。
最初の転換点は、GPUの強力な演算能力をグラフィック処理以外に利用する「GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units)」技術の登場だ。
2006年11月、NVIDIAは統合型シェーダユニット「ユニファイドシェーダ」を採用したGPU「GeForce 8800 GTX」をリリースした。そして、翌年2月には並列コンピューティングプラットフォーム「CUDA(Compute Unified Device Architecture)」を発表。GPUによる汎用計算への扉を開いた。
CUDAプラットフォームを利用したGPGPUは、物理シミュレーションなどの科学技術計算の分野でその威力を発揮した。加えて、仮想通貨のマイニングなど複雑な暗号処理にも利用されたほか、その優れた並列処理性能は、AIの中核技術である深層学習にも最適なことが認められ、CUDAはAI開発の業界標準となった。
第二の転換点は2017年5月、NVIDIAがデータセンタ向けGPU「Tesla V100」に、行列演算ユニット「Tensorコア」を導入した。Tensorコアはディープラーニングに必要な行列演算を、従来の汎用シェーダユニット(CUDAコア)より高速かつ効率的に実行するアクセラレータである。これにより機械学習に要する時間が劇的に短縮され、誰もがAI技術を容易に利用できる環境整備に大きく貢献した。

画像:NVIDIA
NVIDIAが放った先兵「GB10」
NVIDIAのGPUは現在、世界中のデータセンタなどのAIサーバや、自動運転プラットフォームなどに搭載されている。一方で、コンシューマ市場ではゲーミングパソコン向けの高性能ディスクリートGPU(dGPU)のイメージが強い。
そんな中、NVIDIAは2025年1月の「CES 2025」で、世界最小のAIスーパーコンピュータ「DGX Spark(CES時の呼称はProject DIGITS)」を発表した。M1/M2世代のMac miniより小さなボディに、1000TFLOPS(FP4)という性能を備えたAI開発プラットフォームである。

画像:NVIDIA
衝撃的だったのは、その心臓部に「GB10 Superchip」と呼ばれるワンチップSoCを搭載していたことだ。「DGX Spark」は、これ1台でスーパーコンピュータとして完結した機能を備える。さらに、投資家向けプレゼンテーションでは、コンシューマ市場への参入を示唆する発言もあったとされる。

画像:NVIDIA
NVIDIAのパソコン向けプロセッサとは
その発表を裏付けるような発表が、2025年6月にMicrosoftからあった。それは、2026年初期に登場予定とされるWindows 11バージョン26H1が特定のプロセッサをサポートするためのリリースである、という内容だった。これに対して、そのプロセッサが2025年9月に発表されたQualcommのWindowsパソコン向けプロセッサ「Snapdragon X2」シリーズと、NVIDIAの「N1X」であるというリーク情報が流れた。また、このN1XはGB10と設計を共有する(共通のシリコン設計の)プロセッサだとされている。
つまり、従来の統合グラフィックス(iGPU)とは比較にならない高性能GPUを統合したパソコン向けプロセッサが、NVIDIAから登場する可能性がある。そして、ARM版Windows 11がその上で動作することも示唆されている。冒頭にも書いたとおり、パソコンの利用形態がアプリ利用からAI活用へとシフトする中で、N1Xの登場はパソコン市場にとってあまりにもインパクトが大きい。
GB10を搭載するDGX Sparkの最大消費電力は240Wで、これはゲーミングノートの上位モデルに相当する。一般的なノートパソコンに搭載するには消費電力を下げる(その分性能も下がる)必要があるが、それでもそのAI性能は圧倒的だ。おそらくN1XはGB10をベースに、TDPを引き下げ、DGX Sparkに足りないパソコン向け機能を追加した形で登場するだろう。
競合はIntelやAMD、Qualcommのプロセッサを搭載したWindowsパソコンだが、おそらくMac市場への影響も少なくないだろう。AppleのM5はNeural Acceleratorの採用でAI性能を底上げしたが、Blackwellベースの強力なGPUとCUDAプラットフォームの組み合わせは極めて大きな脅威である。

画像:NVIDIA
さらに、N1Xでカバーできない大規模なAI処理は、オンプレミスのNVIDIA GPU搭載サーバやクラウドサーバにオフロードすることもできる。世界のAIサーバで圧倒的なシェアを持つNVIDIAは、自社のCUDAプラットフォームを壮大なスケールで展開しているため、パソコンからデータセンターまでスケーラブルなAIサービスを展開することが可能だ。(参考資料:NVIDIAのスケーラビリティ戦略)

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このように、ハードウェアとソフトウェアの両面で先行し、AI市場の覇者となったNVIDIAに対して、Appleがどう挑むのか。パソコン市場での激突まであまり多くの時間は残されていない。
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