Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

NVIDIAがパソコン向けプロセッサを開発中? AI市場の覇者が放つ新プロセッサ「N1X」は、Appleの脅威となるか

著者: 今井隆

NVIDIAがパソコン向けプロセッサを開発中? AI市場の覇者が放つ新プロセッサ「N1X」は、Appleの脅威となるか

画像:NVIDIA

大きく変わりつつあるパソコンの使い方

かつてのパソコン利用と言えば、目的別にさまざまなアプリを起動してデータを加工することで成果を得るのが一般的であり、アプリの使い方を習熟することがその前提となっていた。たとえば情報収集ではSafariなどのブラウザを使い、複数のサイトから得られた情報を分析し文書にまとめるのはユーザの役割。デザイン創作においても同様で、たとえば「Photoshop」や「Illustrator」などのデザインアプリを使いこなして思い通りのイメージを創作するのがクリエイターの主な役割だった。

しかし今ではクラウドAI上のLLM(大規模言語モデル)に質問や指示を与えることで、情報検索と文書生成を同時に行えるようになった。デザイン分野でも同様だ。「Stable Diffusion」に代表される画像生成AIにプロンプトを与えれば、絵心がなくても欲しいイメージを得られるようになりつつある。

このように、パソコンの利用はもはやアプリの機能に縛られなくなった。さまざまなAIツールを駆使することで、あらゆる成果が得られるのである。つまり、パソコンは単なるツール(道具)としての役割から、AI技術を利用してユーザの創造性と生産性を拡張する存在へと変貌しつつある。




歴史を変えたNVIDIAのイノベーション

現在のAI革命を陰で支えてきたのがNVIDIAだ。同社はハードウェアとソフトウェアの両面で、AI技術開発の歴史的な転換点を創出してきた。

最初の転換点は、GPUの強力な演算能力をグラフィック処理以外に利用する「GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units)」技術の登場だ。

2006年11月、NVIDIAは統合型シェーダユニット「ユニファイドシェーダ」を採用したGPU「GeForce 8800 GTX」をリリースした。そして、翌年2月には並列コンピューティングプラットフォーム「CUDA(Compute Unified Device Architecture)」を発表。GPUによる汎用計算への扉を開いた。

CUDAプラットフォームを利用したGPGPUは、物理シミュレーションなどの科学技術計算の分野でその威力を発揮した。加えて、仮想通貨のマイニングなど複雑な暗号処理にも利用されたほか、その優れた並列処理性能は、AIの中核技術である深層学習にも最適なことが認められ、CUDAはAI開発の業界標準となった。

第二の転換点は2017年5月、NVIDIAがデータセンタ向けGPU「Tesla V100」に、行列演算ユニット「Tensorコア」を導入した。Tensorコアはディープラーニングに必要な行列演算を、従来の汎用シェーダユニット(CUDAコア)より高速かつ効率的に実行するアクセラレータである。これにより機械学習に要する時間が劇的に短縮され、誰もがAI技術を容易に利用できる環境整備に大きく貢献した。

NVIDIAが2017年5月に発表した「Tesla V100」は、GPUに新たにAI処理のための行列演算ユニット「Tensorコア」を導入した。ちなみに、Apple M5に採用された「Neural Accelerator」はこれと同等の機能を持つ。NVIDIAは8年前にGPU内蔵のAIアクセラレータで先行していたのである。
画像:NVIDIA
NVIDIAが2017年5月に発表した「Tesla V100」は、GPUに新たにAI処理のための行列演算ユニット「Tensorコア」を導入した。ちなみに、Apple M5に採用された「Neural Accelerator」はこれと同等の機能を持つ。NVIDIAはGPUへのAIアクセラレータ搭載において約8年先行していたのである。
画像:NVIDIA

NVIDIAが放った先兵「GB10」

NVIDIAのGPUは現在、世界中のデータセンタなどのAIサーバや、自動運転プラットフォームなどに搭載されている。一方で、コンシューマ市場ではゲーミングパソコン向けの高性能ディスクリートGPU(dGPU)のイメージが強い。

そんな中、NVIDIAは2025年1月の「CES 2025」で、世界最小のAIスーパーコンピュータ「DGX Spark(CES時の呼称はProject DIGITS)」を発表した。M1/M2世代のMac miniより小さなボディに、1000TFLOPS(FP4)という性能を備えたAI開発プラットフォームである。

DGX Sparkは2025年1月に開催されたCES 2025において「Project DIGITS」として発表された開発プラットフォームだ(写真右の小さなボックス)。2025年10月にはNVIDIAだけでなく、Acer、ASUS、Dell Technologies、GIGABYTE、HPI、Lenovo、MSIなどからも同等製品(GB10 Superchipを搭載)が出荷された。
画像:NVIDIA
DGX Sparkは、2025年1月に開催されたCES 2025で「Project DIGITS」として発表された開発プラットフォームだ(写真右の小さなボックス)。2025年10月にはNVIDIAだけでなく、Acer、ASUS、Dell Technologies、GIGABYTE、HPI、Lenovo、MSIなどからも同等製品(GB10 Superchipを搭載)が出荷された。
画像:NVIDIA

衝撃的だったのは、その心臓部に「GB10 Superchip」と呼ばれるワンチップSoCを搭載していたことだ。「DGX Spark」は、これ1台でスーパーコンピュータとして完結した機能を備える。さらに、投資家向けプレゼンテーションでは、コンシューマ市場への参入を示唆する発言もあったとされる。

GB10 Superchipはその名のとおり、1PFLOPS(FP4)のAI性能を持つBlackwell GPUと、20基のARMコアCPUを組み合わせたシングルチップのプロセッサだ。DGX Sparkはこれに128GBのメモリと4TBのSSDを組み合わせたスーパーコンピュータである。
画像:NVIDIA
GB10 Superchipはその名のとおり、1PFLOPS(FP4)のAI性能を持つBlackwell GPUと、20基のARMコアCPUを組み合わせたシングルチップのプロセッサだ。DGX Sparkは、これに128GBのメモリと4TBのSSDを組み合わせたスーパーコンピュータである。
画像:NVIDIA




NVIDIAのパソコン向けプロセッサとは

その発表を裏付けるような発表が、2025年6月にMicrosoftからあった。それは、2026年初期に登場予定とされるWindows 11バージョン26H1が特定のプロセッサをサポートするためのリリースである、という内容だった。これに対して、そのプロセッサが2025年9月に発表されたQualcommのWindowsパソコン向けプロセッサ「Snapdragon X2」シリーズと、NVIDIAの「N1X」であるというリーク情報が流れた。また、このN1XはGB10と設計を共有する(共通のシリコン設計の)プロセッサだとされている。

つまり、従来の統合グラフィックス(iGPU)とは比較にならない高性能GPUを統合したパソコン向けプロセッサが、NVIDIAから登場する可能性がある。そして、ARM版Windows 11がその上で動作することも示唆されている。冒頭にも書いたとおり、パソコンの利用形態がアプリ利用からAI活用へとシフトする中で、N1Xの登場はパソコン市場にとってあまりにもインパクトが大きい。

GB10を搭載するDGX Sparkの最大消費電力は240Wで、これはゲーミングノートの上位モデルに相当する。一般的なノートパソコンに搭載するには消費電力を下げる(その分性能も下がる)必要があるが、それでもそのAI性能は圧倒的だ。おそらくN1XはGB10をベースに、TDPを引き下げ、DGX Sparkに足りないパソコン向け機能を追加した形で登場するだろう。

競合はIntelやAMD、Qualcommのプロセッサを搭載したWindowsパソコンだが、おそらくMac市場への影響も少なくないだろう。AppleのM5はNeural Acceleratorの採用でAI性能を底上げしたが、Blackwellベースの強力なGPUとCUDAプラットフォームの組み合わせは極めて大きな脅威である。

GB10 Superchipの強大なAI性能を支えているのは、NVIDIAの最新GPUである「Blackwell」だ。GB10は6144基のCUDAコアを搭載し、同社のディスクリートGPU「GeForce RTX 5070」に匹敵する性能を持つ。つまりGB10は統合GPU(iGPU)であるにもかかわらず、dGPU並みのAI性能を発揮するのである。
画像:NVIDIA
GB10 Superchipの強大なAI性能を支えているのは、NVIDIAの最新GPUである「Blackwell」だ。GB10は6144基のCUDAコアを搭載し、同社のディスクリートGPU「GeForce RTX 5070」に匹敵する性能を持つ。つまりGB10は統合GPU(iGPU)であるにもかかわらず、dGPU並みのAI性能を発揮するのである。
画像:NVIDIA

さらに、N1Xでカバーできない大規模なAI処理は、オンプレミスのNVIDIA GPU搭載サーバやクラウドサーバにオフロードすることもできる。世界のAIサーバで圧倒的なシェアを持つNVIDIAは、自社のCUDAプラットフォームを壮大なスケールで展開しているため、パソコンからデータセンターまでスケーラブルなAIサービスを展開することが可能だ。(参考資料:NVIDIAのスケーラビリティ戦略

NVIDIA DGX SuperPODはBlackwell GPUを72基搭載したラックシステム「NVIDIA GB200 NVL72」を8ラックまとめたAIサーバ製品で、11.2exaPLOPSという途方もないAI処理性能を発揮する。これ以外にもワークステーション「DGX Station」やサーバ「GB200 NVL2」など、DGXシリーズは圧倒的なスケーラビリティでラインナップを展開している。
画像:NVIDIA
NVIDIA DGX SuperPODは、Blackwell GPUを72基搭載したラックシステム「NVIDIA GB200 NVL72」を8ラックまとめたAIサーバ製品で、11.2exaPLOPSという途方もないAI処理性能を発揮する。これ以外にもワークステーション「DGX Station」やサーバ「GB200 NVL2」など、DGXシリーズは圧倒的なスケーラビリティでラインナップを展開している。
画像:NVIDIA

このように、ハードウェアとソフトウェアの両面で先行し、AI市場の覇者となったNVIDIAに対して、Appleがどう挑むのか。パソコン市場での激突まであまり多くの時間は残されていない。

おすすめの記事

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

この著者の記事一覧

×
×