スキップされたiPhone 9
2017年の秋、Appleファンたちは、例年のように新型iPhoneの登場を待ちわびていた。それは、順番どおりのネーミングであれば、iPhone 9となるはずだった。しかし、Appleは大胆な決断を下し、ニューモデルをiPhone X(テン)と名付けた。そして、そこには大きな理由があった。
2017年は、初代iPhoneが発表された2007年から10年目にあたる節目の年だったこと。そして、iPhone 6から8に至るデザインがややマンネリ化しており、製品の人気を維持するためにも次の10年に向けて大きな飛躍が必要だったことだ。
実のところ、iPhoneシリーズにはiPhone 2とiPhone 3も存在しておらず、数字がスキップされたのは、これが初めではない。そもそも初代には数字が付いておらず、2代目にあたるiPhone 3Gの「3G」は携帯電話の通信規格を意味していたので、世代を示す数字とは無関係だった。
Appleには、Mac OS 9(現在のmacOSとは異なる表記)の次の新世代OSをMac OS Xと名付けた前例があったため、個人的にはiPhone Xという表記にさほど違和感は感じなかったが、iPhone 9の名は後から廉価版を出すときのためにとってあるのでは…などと勘繰っていたりした。しかし、iPhone 8ベースのそれはiPhone SEの名で登場したことから、iPhone 9は欠番となったのである。
iPhoneの新しい系譜
実際に発表された仕様やデザインを見ると、それだけでも十分にインパクトがあった。具体的には、全面ディスプレイや、Touch IDに代わるFace ID、そのFace ID用に細かな表情をセンシングできるTrueDepthカメラを利用して似顔絵やキャラクターの顔を動かせるアニ文字など、現在のiPhoneにつながる要素が、そこに詰め込まれていたのだ。そのため、この製品をiPhone 9と呼ぶことは、マーケティングの観点からいってもマイナスに思えた。この内容だからこそ、iPhone Xと呼ばなければならなかったのである。
Appleによれば、全面ディスプレイのiPhoneは、初代のときからその実現方法を模索していたという。というのは、LCDパネルでもOLEDパネルでも、端子を接続する部分を格納するためのスペースをベゼルで確保する必要があり、それをディスプレイの上下、どちらかに持ってくる都合上、ベゼルレス化することが難しかったのだ。
iPhone Xでは、その端子部分を端で折り曲げて、パネルの背面に持ってくるという特許構造を開発して、ベゼルレス化が実現されている。しかし、TrueDepthカメラを収めた部分にはピクセルを配置することができず、それがノッチとして残り、後のDynamic Islandへと発展していくことになる。
当初は邪魔者扱いされたノッチだが、実際に利用すると、ほぼ気にならなくなり、それよりもFace IDを使えるメリットのほうがはるかに大きかった。しかも、iPodの白いイヤフォンや、「耳からうどん」と揶揄されたAirPods Proと同様に、Appleにはこのノッチを新世代iPhoneの視覚的特徴として利用するしたたかさがあり、例によって追従するAndroidスマートフォンも続出したのだった。
※この記事は『Mac Fan』2024年2月号に掲載されたものです。
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著者プロフィール
大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。







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